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妖の巣喰う屋敷  作者: 雪りんご。
一章 -辻斬り-
5/13

陰陽師

月明かりが、城下町を明るく照らす。


「十六夜…」

瞬は一人つぶやく。

(昨日は、結局見つけられなかった…)


●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○


昨晩―――


「匂い…こっち…」

白虎を先頭に、ついていく翔たち。

    

カサッ―――――――


屋根の上を走る瞬の耳に、人間なら聞こえないような、ほかの妖なら絶対に気付かないような、小さな音が聞こえた。


「誰だ!?」

瞬が立ち止まり、一点を見据え構えをとる。


瞬の行動に一同もまわりを警戒し、それぞれ構えた。


「さすがは妖。――――あんな小さな音でも感づいたか」

一組の男女が、瞬の見据えるところから出てきた。


「何者だ!」

炎龍が瞬を背後に庇う形で、一歩前に出る。


「お前たち妖の天敵…といえば分かるか?」

「…陰陽師か」

瞬がつぶやいた。

「ご名答。

 ―――――本来なら、すぐに(めっ)したいところなんだが…」

男が語尾を濁す。 


「辻斬りか」

「…ご名答。奴はおそらくもうすぐ―――」

修羅(しゅら)あやかしとなるだろうね」

瞬が男が言う前に、そう言った。


「ほう…ということはお前たちも辻斬りを追っているのか?」

「まぁ、ね。仲間が何人か殺さ(やら)れちゃったからね…」



「…意外だな。妖にも仲間を思いやる心を持ったやつがいるんだな」

ふんっ、と鼻を鳴らす男。


と、次の瞬間!

「!!」

男が声にならない悲鳴を上げた。

獣のような耳を持った女が、男の首にクナイをあてた。

そのクナイは、男が少しでも動けば確実に血があふれ出すほどにまで、密着させている。


「…調子に乗るなよ人間。我らの(あるじ)を侮辱する奴は誰であろうと許さん!」

ものすごい殺気をほとばしらせながら、女は言う。


「やめて、猫娘」

「しかし…」

瞬が猫娘にそっと微笑む。

「主がそういうなら…」

クナイをどけ、瞬の後ろへと戻る猫娘。

「さて…」

おもむろに口を開く陰陽師。

     


ふぅ――――――――――――――――――

口に銜えていた、キセルの煙を吐きだす瞬。


「妖の(ぬし)…お前に少し、話がある」

「何?」

瞬が男を見据える。


「…辻斬りを倒すのに、お前ら妖の力を貸してくれ」

男の言葉に、衝撃が走る。

「ちょっと、兄様!いくらなんでもそれは―――!!」

沈黙を決め込んでいた、隣の女が口を開いた。


「何で(おれら)が人間に手を貸さねぇといけねぇんだよ!!」

炎龍が激しく抗議する。


激しい言い合いが続く。


その論争を止めたのは、瞬だった。


「いいよ。――――――陰陽師、君たちに協力してあげる」

「ちょっ、いいの!?」

砂雪が抗議する。

「こちらが出す条件を、呑めるのなら、ね」

不敵に微笑む瞬。


((うっわぁ…瞬ってば腹黒いの全開だぁ…))

妖たち全員が心の中でそう思った。

もちろん口には出さなかったが。


「で、どうする?陰陽師」

「…内容にもよる…」

「そうこないとね」

さらに笑みを深くする瞬。


「まず一つ、むやみやたらに何もしていない妖を滅さないで」

「…心がける…」

「してね」

「…分かった」

瞬が男を完全に圧倒する形で、交渉が進んでいく。

交渉というよりは、命令に近いものだが。


「二つ目、妖たちをもっと利用してあげて」

「…というと?」

男が訳がわからない、といったような顔で瞬に問う。


「今回のこの辻斬りにしてもそうだけど…。

 妖たちは闇に巣食う者、ていうのは知ってるよね?

 情報収集も得意だし、戦闘や傷の治療を得意とする奴もいる」

瞬が男を見据える。


「…そんな奴らを、ある程度の範囲の規律を作り、利用しろ…ということか?」

無言で頷く瞬。

「この二つを守れるって言うのなら、今回だけでなく、さっきも言ったようにこれから先も協力してあげるよ」

考え込む男。


「十数えるから、その間に決めてね。それ以上は待たないよ?」

「十」

瞬のカウントダウンが始まる。


「九」

皆が息を飲む中、男が必死に考える。


「八」


「七」


「六」


「五」

(残り五秒をきった!――――――兄様…早く!!)


「四」


「三」


「二」


「一」

最後の数が読まれた。


「さぁ、陰陽師。答えを聞こうかな?」

不敵に微笑む瞬。


「…分かった…いいだろう。その条件を受け入れよう」

「交渉成立だね」

キセルの煙を吐き出す瞬。


「僕のことは、そうだね~…。瞬でいいよ。みんなそう呼んでるし?

 ―――――――君は?」


「久遠(かける)だ」

瞬が、ほぅ、と言った。

誰にも聞こえなかったが。


男が一歩後ろに控える女に目をやる。

(わたくし)は妹の、(まな)と申します。」

ぺこり、と頭を下げる愛。



「さて、自己紹介も済んだことだし…辻斬りを捕まえに動かないとね~」

と、瞬が言い終わった頃に、ちょうど空が明るくなり始めた。


「朝だ…」

白虎がつぶやいた。


「残念、僕らは昼間動けないんだよね~」

肩をすくめ、形だけは詫びる瞬。


「承知している」

「なら話は早いね~。

 ――――――――んじゃまた、今晩にでも~」

そう瞬が言い残すと、風と共に妖たちは消えていた…。


●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○


「よかったのですか、兄様」

愛が翔に問う。

「あぁ。こちらにも利があった…問題ない」

そういうと翔は、愛の頭を乱暴に撫でた。

「子供扱いしないで下さい!!」

頬を朱に染め、むくれる愛。


「俺たちも一度戻ろう」

翔がそういうと、無言で愛が頷き、帰路についた。

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