妖落-あやかしおち-
夜になり、玄関口に集まった妖怪たち。
瞬の指示を聞き、行動に移り始める妖怪たち。
「さて…以上が今回の仕事の役割だよ。今回のは、今までの奴と違う」
会ったことは無いはずだが、言い切る瞬。
「見えたんですかい?」
たずねる青い子鬼。
その質問に無言で頷く瞬。
瞬の答えにざわつく妖怪たち。
「落ち着きな。瞬はいつも言ってるだろう?“変えられないことなんて何一つ無い”って」
壁にもたれかかっている、首の無い少女が言う。
「凛の言うとおりだ。変えられないことは、無い」
全体を見渡しながら言う瞬。
誰一人として瞬から目を逸らさずにいる。
「行こう。僕らの仲間に手を出したことを、ふか~く、後悔させてやろう」
その場に居る、妖たちが力強く頷く。
「散」
瞬がそう言った次の瞬間には、瞬を含め、誰一人としてその場にいなかった。
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「ヒック…うぃ~…飲みすぎたかぁ~、ひっく」
酒瓶片手に千鳥足で歩く男。
どん―――――――
正面から来ていた人間とぶつかり、その場にしりもちをつく男。
「うぃ~、ヒック…おっと、すまねぇ…ヒック」
「こちらこそ…すまねぇな…ここらには最近辻斬りが出るらしいから」
気をつけて帰れよ、そう言いきる前に正面から来た人間は首からまるで噴水のような血しぶきをあげた。
「え…?」
唖然とする男。
正面から来ていた人間の後ろにいる人影が、手にしているのは、一本の刀。
その刀身は血にまみれ紅く染まり、たくさん刃毀れしていた。
男自身も、返り血を浴び紅色に染まっていた。
「辻斬りには気をつけろよ?あの世でな」
刀を横に薙ぐ、血まみれの男。
「ッ――――――!!」
声にならない悲鳴をあげ、切り裂かれる酔っ払いの男。
その体は横に真っ二つに切り裂かれていた…。
「まだだ…まだ足りない…。
―――なぁ?鋼鐵。もっと…もっとたくさんの血を…」
月明かりに照らしだされる、血まみれの男と刀―――鋼鐵。
その姿はさながら、人を捨てた妖のようであった…。
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○
「これは…」
瞬たちの足元には、二つの死体。
「ひどいことをする…」
(これが人のすることなのか…?)
片方の死体は首が刎ねられたのか、横に首が転がっている。
もう片方の死体は、体を上半身と下半身とに斬られていた。
遺体に触れる瞬。
「まだ新しい…」
瞬がつぶやいた。
それから。しばらく微動だにせずに、何かに意識を集中させる。
「なるほど、な…」
す、と瞬が立ち上がる。
「匂いを追えるか…白虎?」
瞬が白虎に問う。
「残っている…今ならまだ追える」
「よし、辻斬りを追うぞ。
―――――白虎、お前の後に俺らはついていく…先行を頼む」
白虎が無言で頷くと、瞬たちは白虎を先頭に、その場を去っていった。
時は遡ること数分前、同じ場所にて…
「これは…」
一組の男女の足元には二つの死体。
「妖の仕業か…?」
男の方が目を細めながらつぶやいた。
「違うわ…この感じ…妖にしては汚いわ…。妖はもっと綺麗に殺すもの…」
女の方が答えた。
「…だとすると…妖落…か…?」
「十中八九そうでしょうね…」
無言になる男女。
沈黙を破ったのは、男の方だった。
「行こう…早く探して始末しなければ…」
「えぇ」
そういうと、二人は去っていった…。
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ポチャン―――――
流れ落ちる鮮血。
下に広がっているのは、真っ紅な血だまり。
その中心に立つ一人の血まみれの男。
ポチャン―――――
男の持つ刀から血が流れ落ち、刃が紅く光って見える。
「あと少しだ…あと少しで…」
リィ――――――――――――――――――――――ン
「待ちどうしいか?鋼鐵。
――――あと少しだ…あと少しで俺は…俺たちは…」
―――――何だ!?今の音は!?
遠くから聞こえる人の声。
(チッ…役人か…まぁいい)
立ち去っていく男。
(今日は満月か…)
空を見上げ、男は思う。
「明日は十六夜…俺が―――――――には最高の月だ…」
急に吹いた風により、男の声がかき消された。
「ふっ」
男はそう言い残すと、闇へとまぎれていった…