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妖の巣喰う屋敷  作者: 雪りんご。
一章 -辻斬り-
3/13

妖と人


「ただいま」

瞬が屋敷の扉を開けると、そこには一人の少年が立っていた。


「おかえり…瞬…」

そう言うとなぜか頬を赤らめて、屋敷の奥へと少年は、逃げるように走り去っていった。


「ひゅ~、瞬はモテモテだな」

「炎龍…白虎(はくと)はただ恥ずかしがっているだけだと、思うんだけど…?」

気にしねぇ~、と言い残し炎龍も屋敷の奥へと入って行った。


●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○


大広間の襖を開けると、案の定妖怪たちが真昼間だというのに、ドンチャン騒いでいた。

(…昼間から…頭痛が…)


目頭をおさえる瞬。

「いい加減なれたらどう?」

酒瓶を片手に持ちながら言う女。


「僕的には慣れたくないなぁ~。慣れた、って言う砂雪がすごいと思うよ~…」

苦笑いする雪女の砂雪。

その顔は酒のせいか少し赤みを帯びている。


「もう十年か…早いわね…瞬も今年で十七になるのね…」

感慨深そうにつぶやく砂雪。

「僕はもう人じゃないからね~…。しばらく死ぬことはないだろうし、そんなことを十年立つ度に言ってたら疲れるんじゃない~?」

微笑む砂雪の顔は、とてもうれしそうだった。


「ねぇ、砂雪」

「なぁに~?」

「突然だけど、質問して良い~?」

砂雪が目をパチクリ、と瞬きする。


「いいわよ~、瞬の質問だもの」

「ありがとう。

 ―――――僕って、なんていう生き物の種類になるのか、分かる?」


「種類~?う~ん…。存在名称なら、分かるわよ?」

瞬が苦笑する。

「それなら、僕も知ってるよ~。

 ―――――“妖遠(ようえん)(あやかし)”、でしょ?」

「ふふふ。正解~」

(砂雪、うれしそうだ)

心の中で瞬は、素直にそう思った。


そして、

(やっぱり、みんな分からないよね~)

と、思った。


「瞬、帰ってたのか」

上座に座る大きな狼の妖が言った。

「あぁ、ただいま氷狼(ひょうろう)様」

にこやかに返す瞬。

頷き返す氷狼。


そんな軽い挨拶を済まし、さらに奥へと瞬は入っていった。


●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○


「にしても」

部屋の奥では相変わらず、妖怪が飲んだくれていた。

(まだ、日が出てるってのに…ったく…はぁ…)


瞬は心の中で人知れずため息をついた。

「いいじゃないか、仕事も今はないんだし」

酒を飲みながら言う青年。



「水龍…何があったんだ…?」

足元で酒瓶をあおる水龍に目をやる瞬。



「何って、見ての通りとしか言いようがない…」

上半身をさらけ出した状態で、酒瓶をあおっている水龍。

「そう…。どんまい…」

水龍から目を逸らす瞬。


「ったく…なんだって俺がこんな格好をとさせられんだ…?」

「水龍、とりあえず袴をきちっと着ようよ~」

ったく、とぶつぶつ言いながら袴をただす水龍。


他の妖怪たちも水龍と似たような格好で酒を飲んでいた。




「さて、全員聞いて欲しいんだけど…?」

瞬が話し始めたとたんに、その場の妖怪たちが酒を飲む手を止め、瞬のほうを見た。


「城下の辻斬りが、ついに僕たちの仲間にも手を出してきちゃったみたい~」

         ザワザワ――――――

ざわめく妖怪たち。


 人間の分際で…

 俺たちに勝とうなんざ百年早いんだよ

と、口々につぶやく妖怪もいる。


「それもあって、城下の仲間たちから、正式な仕事の依頼がきたの」



この屋敷に巣食う妖たちは、毎晩遊んでいるわけではない。


仕事というのは、城下町に住まう妖怪たちの依頼に応じて行う、いわゆる何でも屋だ。

遊んでいる日の方が圧倒的に多いのは、否定しないが…。



それは、ほぼ間違いなく先代たちのせいだろう。

先代たち…つまりは、瞬の両親は、生きてはいるが現在屋敷には、いない。

理由は、単純明快。

隠居という名の、遊び呆ける旅に出ているからだ。


瞬が幼い頃から、その旅に出ており、瞬も昔はよく付いて行っていた。

ここ数年は、修行やら何やらで行っていなかったのだが。

一度の旅で何処まで、どれくらい行くのかは、彼らの完全なる気分しだいだ。


故に、先代たちはいない。

故に、先代たちを見本とした妖たちが、今ここに居る、というわけだ。


話を戻そう。


何日かに一度、城下町に住む妖怪たちからの依頼がくる。


『人間が俺らを苛めてくる!助けてくれ!』

など内容はさまざまだが、人間を懲らしめてくれというような依頼がくる。


そんな仕事をこの屋敷の妖たちは、主に生業(なりわい)としている。

人間だからといってむやみやたらに殺すと、瞬に逆に殺されるし、殺さないでおくとまたやる阿呆もいる。

見極めが大切な仕事なのだ。



そんな見極めをし、人間と妖怪の微妙な均衡を保たせるのが、その間の存在である“妖遠(ようえん)(あやかし)”の役割であり、責務だ。


そして、妖羅という妖を従える陰陽師の称号を持つ瞬は、妖と人間の間の存在でありながら式神を操り、妖の主であるため、妖羅として妖すらも容易に操ることが出来る。


そんな瞬は…妖遠の妖たちは、常に妖と人間を平等に見なければならない。


黙って瞬の話を聞く妖怪たち。


「今夜、そいつを討とうと、思う」

先程までとは違う、張り詰めた空気をだす瞬。


「確か一ヶ月程前から、盛んになったやつだったよな」

あくまで、確かめるように言う炎龍。


「ワシの調べだと、ここ一ヶ月で約四十人以上の人間を殺している」

ずいぶん前から噂されていたのか、次々に調査結果を報告する妖たち。


その中で瞬の耳に、ひっかかる言葉が聞こえた。


「そいつの手口がまたひどいんっすよ…。首を()ねたり、体の一部を切り落としたり…」

「それは本当か、(れん)

無言で頷く茶髪の青年。

あどけなさの残るその顔には、不釣り合いな角が二本頭から生えていた。


「…よし――――用意をしとけよ、お前ら」

頷きそれぞれ散っていく妖怪たち。


「分かった、今ここにいない奴にも伝えておく。

 ―――――お前も用意をしてこい、瞬」

「うん」

瞬はそう短く答えると、大広間を出た。

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