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妖の巣喰う屋敷  作者: 雪りんご。
序章 -妖-
2/13

人間

城下では、神なるものが庶民に強く根づき、強く信仰されていた。

神に祈れば叶うのだ…と。

庶民の中には、厳しい生活を送っているものがたくさんいる。


しかし、御上がそれを許すはずがなかった。


信仰は、将軍に向けるもの。

神などという“まやかし”の存在のせいで、将軍の地位が危ういがために、規則で縛られるようになった。

信仰したものには、罰則を。

そうすることで、信者を減らそうと御上は動き出していた…。


●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○


「…母様、神様っているの?」

幼い子供が小さな声で母親に聞いた。


「しぃー!そんなこと、今口にしてはいけません!!」

母親は人差し指を口元に当て、小さな声で子供を叱った。

「ごめんなさい…」

素直に謝る子供。そして、そんな子供をそっと抱く母親。


「いい子ね…もう少しの辛抱だから…ね?」

子供は、母親の言葉に小さく頷いた。


二人は今、『絵踏み』という神の書かれた絵を踏むために、役人たちの指示の元、列に並んでいる。

「おい、女とガキ」

背後から急に声をかけられた二人は驚いた。


「何でしょうか、お役人様」

落ち着いた口調で答える母親。


「今、神がどうとか言っていたな?」

「いいえ、そんなことは一言も申しておりません」

あくまで白を切る母親。

「いいや、言った。少なくとも俺にはそう聞こえた。よって、お前らを死刑とする」

「そんな!!私たちはそんなことは一言も申しておりません!!」

そんなことは知らない、と言い刀を抜く役人。


「ま、待って下さい!!どうか、この子だけはお許し下さい!!」

土下座して許しを請う母親を「邪魔だ、ドケ!!」と言い蹴り飛ばした。

「母様!!」

母親に近づこうとする子供の前に、役人が立ちふさがる。

「…誰か、私…の子供、を助け…て」

地面にひれ伏し、涙を流しながら言う母親。


だが役人を恐れてか、誰も助けようとしない。

目を逸らし、足早に逃げる者さえもいた。


「いいかぁ、ガキぃ。これは、お前を殺すための道具だ、わかるよなぁ?」

「あ、…あぁ…あぁあ…」

恐怖で声にならない叫びをあげる子供。

逃げようとするが、恐怖で足がすくんで動けない。


「ひっひっひ。あぁ、こわいよなぁ!!もうすぐ自分が死ぬってんだからなぁ!!」

一人酔いしれる役人。

刀を舐め、不気味な光を帯び始める刀。



「なんてひどいことを…アレが役人のすることなのか…」

うなだれる町人。


「悪名高い役人だ。

 確か…相模大二郎(さがみだいじろう)だったか?」

うなだれるが、誰も助けに行こうとはしない。


「運がなかったんだ…」

やはり、自分の命が大切なのだ。



「運が悪かったなガキ!この俺、相模大二郎(さがみだいじろう)の名を冥土の土産に持っていきな!!」

名乗りながら、下品に笑う相模。

「死ねぇ――――!!」

という役人の雄たけびと共に刀が振り下ろされていく。

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――!!」

緊迫した空気に母親の悲鳴が、町一帯に響き渡る。


その光景に目を伏せる町人たち。

「あんな小さな子供が何をしたって言うんだ…」


次に口を開いたのは母親だった。


「…あの子が、殺された…?…い、いや…嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

顔を抱えながら泣く母親。


「なっ!」

驚きの声を上げる相模。

それもそのはず。

男の振り下ろした刀は、子供に届いていなかった。



二人の間に割り込んだ男が、両手で振り下ろされた刀を、片手で受け止めていたからだ。

しかも、その男の手は手甲というには、あまりにも薄い布をはめた手で止めていた。


「て、てめぇは何者だ!!」

建物の影のせいで、男の顔がよく見えない。


「何者だって聞いてんだよ!」

男は吸っていたキセルの煙をはいた。


   フゥ――――――――


月明かりが、男の顔を照らし出す。


相模の顔が明らかに青ざめていく。


「お、お前は…!!」

相模は何か言おうとした。

が、男の声にさえぎられた。


「うせろ、目障りだ」

男は役人の刀を握ったまま、相模の腹に膝蹴りをかました。

「グァッ!!」

なすすべもなく、その場に崩れ落ちる相模。


男は目障りな奴は消えた。用なし。

とふんだのか、何も言わずにその場から立ち去っていった。


●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○


「久しぶり、(しゅん)クン」


瞬は背後から急に声をかけられた。

振り返るとそこには一人の少女がいた。


「久しぶり、お夏ちゃん」

「三年ぶりかな?懐かしいなぁ」

「そうだね~…」

笑顔で答える瞬。

が、その笑顔には「用がないのなら話しかけるな」としっかりかかれていた。


「私ね、今そこの食堂で働いているの。君は?」

「うん、まあ、それなりにやってるよ」

(世間話しにきたのかな~)


「え~何それ。教えてよ」

苦笑いを浮かべる瞬。

隠す気すら起きない。

(早くここから立ち去りたいんだけどね…)


「あ、いたいた。こんなとこで何してんだよ、瞬」

話に割り込んできてくれたのは、一人の大柄な男だった。


「ったく、ちょっと休憩入れてくるって行ってから、どれだけ経ってると思ってるんだよ!」

「ごめんね、昔の知り合いに会って、会話に華を咲かせてたんだよ~」

(ぐっどタイミングだ、炎龍…!)


「ったく、帰るぞ瞬」

そういうと瞬の腕をつかんで、引っ張っていこうとする炎龍。

「まぁ、そういうことだから。じゃ」

炎龍の手を振り払うと瞬は、炎龍に続いて人ごみの中へと消えていった。


●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○


「ったく、相変わらず人間に関わりやがって」

ぼやく炎龍。

「いいだろ~別に。元は人間だし~?

 ていうか、一応人間の血が流れてるんだけど、僕。

 それに、さっきのは向こうから話しかけてきたんだよ?」


()、な。一応(・・)、な今はもう妖だってことを忘れんなよ」

言葉を詰まらせる瞬。




「なぁ、炎龍」

急に立ち止まる瞬。


「なんだよ、急に立ち止まったりして」

頭の後ろで腕を組みながら、振り返る炎龍。


「僕はなんていう名前…種類の生き物なんだろう」

真顔で瞬の顔をのぞく炎龍。



「お前…頭でも打ったか?」



    ブチッ―――――



何かが切れる音がした。



    はぁ―――――――――



長いため息をもらす瞬。

「…うん。お前に聞いた僕が悪かったね~」

そうつぶやくと家へ、別名『妖が巣食う屋敷』へと帰るべく、とまった足を動かしはじめた。


「おい!」

炎龍が後ろから怒鳴っている。

「どういう意味だ、そりゃ!!」

「そのままの意味だよ~」

そっけなく返す瞬。


(屋敷に帰ったら、砂雪にでも聞くか…)

後ろではまだ何か炎龍が言っている。


(無視無視…)

そう心の中で言うと、瞬はそのまま足早に城下をあとにした。

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