襲撃と反撃
「何があったんだ!?」
さすがの雨莉もビックリした様子だ。
「て、敵襲ですっ!!」
廊下を歩く、1人の若者が叫ぶ。
それに呼応するかのように、屋敷の庭へと何人もの陰陽師たちが飛び出す。
瞬たちも便乗して表へ出てみると、巨大な火の玉の妖がいた。
それも、30体ほどの集団でこの屋敷に押しかけていた。
「これは…」
翔が呟く。
「炎玉だね」
雨莉が言う。
「父上、ご存知なのですか?」
「うん。一度だけ見たことあるけど…ここまで大きくなかったと思う」
(確かに、炎玉にしては大きすぎる…)
半径3メートルはあるであろうその巨体は、庭に飛び出した陰陽師と格闘中だった。
が、炎玉に対して陰陽師の数があまりにも少なすぎる。
それに向こうは群れで来ていて、とてもじゃないが対処しきれない。
「父上、俺も行きます」
「私も行きますわ」
「僕も行きたいところだけど…」
チラッと、瞬たちを見る。
「僕たちの事は、構いません。行って下さい」
ニッコリと微笑む瞬。
「でも…」
それでもためらう様子の雨莉。
「大丈夫です。―――――琳麗」
瞬は心を決める。
まぁ、こいつら全員に実力の差を見せつけるのも、悪くない。
「呼んだか」
音も立てず、忍び装束の琳麗が姿を現す。
驚いて言葉を失う雨莉。
「君は一体…」
雨莉が瞬に問う。
「さぁ?人間のなりそこない…とでも言っておきましょうか」
瞬はシニカルな笑みを浮かべる.
「とにかく、僕は大丈夫なんで行って下さい」
そう瞬に言われると、雨莉は渋々戦線へと向かっていった。
「さて、と。琳麗」
琳麗に向き直る。
「選択肢は2つだ。俺と戦線に出て後ろを守るか、砂雪たちを呼びに行くか…どっちがいい?」
「戦線に出る。―――――礫、お前はどうしたい?」
琳麗が礫の視線までしゃがんで問う。
「兄ぃと、姉ぇと一緒がいい!」
礫が瞬の衣にしがみつく。
「分かった。瞬」
「分かってるよ。―――――礫、しっかり摑まっててね?」
そう言い、いつかの時のように左手で礫を抱く。
「うん!」
瞬の言葉の通りに、しっっかりと瞬の首にしがみつく。
瞬は前髪をクシャリとかきあげる。
露になる、濃紫の左目と蒼の右目。
左耳に光るイヤーカフ。
「さ、僕たちも行こうか」
その言葉を境に、2人は戦線へと飛び込んで行った。
◇ ◆ ◇
戦況は最悪と言っても、過言ではない状態だった。
ほとんどの陰陽師が防戦一方で、攻撃を仕掛けられていない。
数が多い上に、一個体の強さも半端じゃない。
翔や愛、雨莉はまだ戦えている方だが、その他はボロボロだった。
「瞬、こいつら馬鹿か?」
思わず琳麗が後ろにいる瞬に問う。
「うん。馬鹿だと思うよ」
瞬も同意した。
2人は背中合わせの状態で、炎玉と戦っていた。
琳麗は炎玉に封印符を貼り、その紙へと封印し、
瞬は父から・和莉から受け継いだ陰陽術を駆使し、炎玉を結界の中に閉じ込めて戦っていた。
正直、2人からすれば、たとえ通常の炎玉より遥に大きくても大して問題はない。
雑魚だ。こんな奴らからの攻撃は、痛くも痒くもない。
だが、ここにいる翔、愛、雨莉を除く陰陽師にとっては、雑魚ではない。
滅するためには、たくさんの霊力を必要とする。
にも関わらず、全員が戦線に出てしまっている。
一体誰が最前線の者を守るというのだろうか。
誰かが攻撃専門、誰かが防衛専門という風に分ければいいものを、
分けずに全員で一斉に攻撃しているため、防戦一方になってしまうのは、当然だ。
「翔と愛、あと雨莉の3人はまだ許してやるとしても…」
攻撃の手は緩めずに、言葉を止める琳麗。
そしてまわりを見渡す。
「他はダメだな」
瞬も軽く回りに目をやる。
が、まともに戦えているのが本当に先の3人以外に誰もいない。
「天下の久遠家も落ちたものだね」
「まったくだ。この家の恥さらしになっていることに、気付かないのか?」
「人間だからじゃない?」
「なるほどな。道理で学習しないし、恥をさらし続けるわけだ」
手は休まずに炎玉を攻撃し、口も休まずに毒を吐く2人。
2人の周りだけ圧倒的なスピードで、炎玉が姿を消していく。
と、そこへ翔がやってきた。
「兄ぃ。しょうくん、きたよ?」
礫が瞬に言う。
少し視線を翔にやるが、すぐに前へと戻す。
「瞬、どういうつもりだ?」
翔が真剣な眼差しで問うてくる。
「別に…。深い意味はないよ?」
そう言うと、右手で刀印を結ぶ。
(また、陰陽術の構え!?こいつ一体…)
翔の疑問は瞬に聞こえてはいるが、瞬は無視した。
「遡上水流」
瞬たちを取り囲む炎玉すべてを包み込むように、地面から空へと水が吹き上がる。
「兄ぃ、すごいね!」
礫が目を輝かせる。
「そうでもないよ?礫にもできるよ?」
「ほんとう?!」
「うん。―――――家に帰ったら、また教えてあげるよ」
「やくそくだよ?」
「うん、約束」
と、戦火の中2人は約束をした。
完全に翔を無視して。
翔の横にはいつの間にか雨莉、愛も来ていた。
「君が誰で、どういう人なのかは置いておいて…」
雨莉がまわりを見渡す。
そうしている間にも限界を迎えた陰陽師たちが、次々と倒れていく。
「とりあえず、滅そうか」
その言葉を境に、その場にいる動けるものたち全員が炎玉の掃討に全力を注いだ。
頑張って、このくらいのペースで更新します。
これからも、よろしくお願いします。