総本山
「うわぁ…来ちゃったよ…」
大きな陰陽師の屋敷、久遠家を前にしてたたらを踏む瞬。
「兄ぃ、おうちイヤ?」
礫にそんなウルウルした悲しそうな目で見られると、イヤとは言えない。
「いいや、イヤじゃないよ。
―――――ただ、初めてだから緊張するだけだよ」
と、片手で抱く礫の頭をそっと撫でる瞬。
「ほぉ。いい事を聞いた。お前でも緊張することがあるんだな」
突如現れる少女。
例のごとく、琳麗だ。
「…結局ついてきたのか?」
「見ての通りだが?」
「…よし、今すぐ帰れ」
「断る」
即答だった。
「何しに来たんだよ…」
「お前の護衛に決まっているだろう?」
琳麗が当然のことのように言う。
「俺には必要な」
「ないワケないだろう、普通」
琳麗の言葉の意味が分からず、首をかしげる瞬。
「兄ぃ。姉ぇは、兄ぃしんぱいなんだよ」
礫が瞬に進言する。
「そうだ。心配で心配で…」
琳麗が自らの指で泪をすくうしぐさをする。
「何しろ、瞬がいなくなったら私は…。
―――――雇ってくれる奴がいなくなっちゃうからな★」
一気に空気がしらけた。
「薄情者め」
「なんとでも言えばいい。なんと言われようが、私は帰らん」
大きなため息を一つ吐く。
妖と結婚した父は、家の反対を押し切って…否、無視して母の家に嫁いだらしい。
それ以来この陰陽師の総本山「久遠家」には帰ってきていない。
それどころか、瞬自身もここ最近になってやっと知ったレベルだ。
「うわぁ~…。魔よけの結界張ってるし」
強力な霊力も持ち主にしか見えないように造られた、強固な魔よけの結界。
「僕、滅されちゃうかなぁ~」
「お前は半妖だから、完全に滅されないだろう。
―――――御託はいい。とっとと行け」
琳麗が瞬を後ろから蹴っ飛ばし、強引に屋敷の中へと放り込んだ。
「うわっ!!」
前のめりにこけそうになるが、必死にバランスを取り直して持ち直す。
「はぁ…」
心の底から安堵する。
結界に反応しなかった。
(まぁ、妖気を抑えている状態で反応されたら、たまったもんじゃないけどね)
「兄ぃ、なにかいってるよ?」
そう礫に言われて、視線を上げると大柄の男が瞬を見下ろしていた。
「主、ここに何用だ?」
堅い口調で、目つきも怖い。
(あぁ…やだやだ。これだからお堅い家は…)
「はじめまして。翔くんと愛ちゃんの友人なのですが…2人に会えますか?」
最大限の笑顔を作る。
「翔と愛に何用だ?」
(チッ、いちいち面倒な…)
「街で兄弟2人、性質の悪い妖に絡まれていたのを、2人に助けてもらって…。
ぜひ、お礼をと思い迷惑とは思ったのですが、来させていただきました」
何故“兄弟2人”といったかと言うと、気がつけば琳麗が姿を消していた。
おそらくは、どこか近くにいるのだろうが姿が見えない奴をカウントしても、使えないだけだ。
そう判断し、男に“兄弟2人”と言った。
「そうか。上がってくれ。2人も連れてこよう」
「お邪魔します」
「おじゃまします」
お行儀よくそう言った礫の頭を瞬はそっと撫でてやった。
更新が滞ってしまい、すみません!
これからも、よろしくお願いします。