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妖の巣喰う屋敷  作者: 雪りんご。
序章 -妖-
1/13

はじまりの日


―――――――ねぇ、この噂を知ってる?


にぎやかな町のとある遊女たちの間で、ささやかれる言葉。


―――――――あの山にある屋敷…あそこには古くから、妖が住み着いているだって。


小さな声で、しかし断定的な口調で話す花魁たち。


―――――――だから、昔の人たちは、あの屋敷をこう呼んだらしいわ…。


女が間をおく。


―――――――「妖の巣食う屋敷」、と…


●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○


ここは、城下の近くの山に佇む一軒の屋敷。

その一画で今日もまた、深夜二時(・・・・)だというのに騒いでいる連中がいた。

   ガラッ―――――

勢いよく少年が(ふすま)を開けると、その先にはいつもの事ながら、奴らがいた(・・・・・)


「おや?(しゅん)…久しぶりだな」

部屋の奥に座す、一匹の毛並みのよい大きな狼(?)に声をかけられた。


「えぇ…お久しぶりです、氷狼(ひょうろう)様。…半年ぶり…ですね?」

軽く会釈する少年。


奴ら(・・)とは、妖のことだ。

そう、ここは城下で噂の「妖の巣食う屋敷」。

ここには、瞬以外の人間はいない。

正確に言うのなら、瞬も人間ではない。


それが、この屋敷の現状だった。


「おぉ?瞬じゃねぇか!久しぶりだな!!」

「久しぶり、炎龍(えんりゅう)

微笑む瞬。


皆と軽い挨拶をしながら、部屋の奥の氷狼の近くに寄っていく瞬。

久しぶりに瞬が来たことに驚き、そして喜ぶ妖たち。


「えっとね…やっとコントロール出来るようになりました!!」

瞬の言葉に歓声が沸きあがる。

「おっそいぜ、瞬!」

炎龍が自分よりかなり小さな瞬を持ち上げる。

「わ、わっ、ぁぁぁ!炎龍おろしてよ~!」

持ち上げられた瞬は足をじたばたさせ、降りようとする。

が、もちろん降りれない。


「もう…。瞬は、私たちと違って、人間なのよ?」

一応、と付け足し、あきれた様子で言う雪女。

「砂雪の言うとおりだ。

―――――だが、瞬。今日からお前が我ら妖の主だ」

氷狼が静かに言う。

「我らの力を今、お前に授けよう」



主…それはこの場合、人の子でありながら妖の力を宿し、コントロールする者をさす言葉。

主になるには、陰陽術を習得し、さらに、体術も習得、そして、主のみ使うことが出来る灰術(はいじゅつ)を習得しなければ、主となり、妖の力を制御することが出来ない。


そして、人間としての生涯を終えること…つまり、一度死亡し、主の体は人間から妖へと創り変わる。

現在、主となれるのは、世界中の何処を探しても一人しか存在しない。

それが、瞬だった。


瞬の父親は陰陽師。

母親は妖だったが、人の子を守りたい…その一心で、影から人の子を守る体制を一代で整えたのだった。

先代が隠居した今、一人息子の瞬があとを継ぐことになっていた。


氷狼の体が淡く光りはじめる。

他の妖たちも同様に光りはじめる。


(わが)血に眠りし力よ。今この場にて解き放て」

瞬の中に妖たちの光が流れこんでゆく。


「うっ…」

悲痛な声を漏らす瞬。

「大丈夫か?」

心配そうにそばにより、声を掛けてくる炎龍。

その問いに微笑み、無言で頷く瞬。


「多くの時が流れても、(わが)血に誓い、そなたらと契約を交わす」


光の本流が瞬の中に流れ込む。


それは、そのあとすぐに終わった。


「はぁ、はぁ…、はぁ…」

荒い呼吸を繰り返す瞬。

「思って、いたよりも、きつかったや…」

「ははっ、先代も通ってきた道だぜ?それぐらい我慢しろってことだ」

(は、はは…。簡単に言ってくれる…)



「さて、瞬。今をもって、お前の人間としての“生”が終わった。これでお前も妖だ」

「…複雑ですね。妖の体というものは…。血が暴れている…っていうのかな?」

苦笑しながら、呟く瞬。


「そうだ。それを押さえ込んでいるのが今の俺たちだ。例外は、町の外の奴らだ」

炎龍が神妙な面持ちで言う。

「いいか、瞬。その血に呑まれるな…お前はお前だ。そこを(たが)えるな」

「うん…分かったよ、炎龍」


「さて…瞬が完全なる妖になったってことは…

 今日が妖としての誕生日だな!」

「そうなるね」


(やな予感しかしない…なんでだろう…)

その予感は的中する。

(陰陽師の予感かなぁ~…)

などと、適当に思っていると


「てめぇらぁ!!今から誕生日会だ―――――――――!!」


おぉぉぉぉ―――――!!


(…え゛?)


「で、でも、深夜三時だよ?今からは…」

「何言ってんだよ!妖の時間はこれからだぜ!!」

と、炎龍が言うと妖たちは宴をはじめた。


「…僕…もう知らない…」

そう瞬は言い残して、忽然と姿を消した。

長くなってしまい申し訳ない…。

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