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ニッポン駐在記~元日本人航宙軍士官日本駐在員になる~  作者: 鷹羽 樹


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第7話 瑠沙の里 1

 ルサ・ロワール星間王国から地球までの定期航路便の四十日間の旅程は、残すところあと一時間となった。

 エイミー・クリス少佐はダークネイビーのパンツスーツに白いブラウスと言う姿で部屋に備え付けのソファーに座り、メイクをしていた。

 本来エイミーは航宙軍内での駐屯地の異動と言う事であるため、航宙軍制服を着用してでの着任と言うのが正しいのであるが、異動先が地球と言う星間王国の存在が、一部を除いて秘匿されているという環境から、航宙軍制服に似たビジネススーツの着用を選んだのである。

 

 客室内に出していた私物やクローゼット内に多く入れられてあった服などは、昨日の内にODC(空間収納)に収納済みである。

 あとは船を降りるのをのんびり待つのみと思っていると、室内に小さい音で流していたBGMが止み艦内インフォメーションが始まった。


「当艦にご乗艦頂きますお客様にご連絡いたします。当艦は一時間後に地球に到着いたします。到着予定地点は地球の、日本上空四万五千キロメートル地点です。到着地点ではステルスシールドを展開いたしますので、身体内蔵式やお手持ちの通信機器に一部不調が見られることがありますが、一時的なものですのでご安心ください。

 乗降地、日本国秋田県は二月十八日、午前九時の到着予定です。現地での天気は晴れ、気温はマイナス一度です。外出される際は防寒対策をお忘れ無きようお願いいたします。

 乗降用テレポートゲートは到着時間十五分前より受付いたします。

 客室を出られる際は、お忘れ物の無いようにお願いいたします。

 当艦にご乗艦頂き誠にありがとうございました」


 艦内インフォメーションを聞き、エイミーは現地の気温が気になった。マイナス一度だと雪が積っていることも考えられるか? 今日は室内から出ることは無いだろうが、一応それなりの対策はしておこう。

 ODCから紺の毛織の軍用ロングコートに白いスカーフ、靴底に滑り止めのパターンの刻んであるヒールの低いパンプスを取り出した。

 日本に着いたら、まず現在の駐在員の責任者と瑠沙の当主に会い、事務的な手続きを済ませなければならない。そして、第三王女殿下との会見だ。着慣れた航宙軍の制服でいられたらどれだけ楽だったことか。



 テレポートゲートルームには、受付開始時間に合わせて入るようにした。

 入口の自動ドアを抜け中に入ると、部屋の右手には高級そうな応接ソファーセットが二つ並べられ、そこがテレポート開始までの待機場所らしい。

 一つの応接セットには、すでに瑠沙家の四人娘が来ており、座って各々好みの飲み物を飲んでいる様だ。入り口を入って横の壁際にはドリンクサーバーが置かれており、好きなものを自由に飲めるようだ。


 入り口を入ってすぐにあるカウンターで虹彩と指紋、掌紋の生体認証で本人確認をした。エイミーの場合は右目と右手のものである。

 手持ちの荷物の有無を聞かれ、ある場合の荷物の大きさなどを聞かれた。もちろん、ODC持ちのエイミーは手ぶらである。


 ソファーに向かうと瑠沙家の四人が立ち上がり頭を下げ挨拶をしてきた。


「おはようございます。こちらのソファーにどうぞ」


 麻里絵が、応接セットの一つ空いた一人掛けのソファーに招いた。


「おはよう。じゃあ、失礼するよ」


 エイミーは空いたソファーに座った。


「少佐、何かお飲みになりますか? それに、そのコート軍服みたいでカッコいいです」


「もう、時間になるだろうから飲み物はいいかな。ああ、このコートは軍から支給されたものだから軍服だよ」


「少佐はお荷物をお持ちじゃないようですけど、全てカーゴルームの方ですか?」


「いや、私はODC(空間収納)持ちだからね。荷物は全部その中だよ」


 麻里絵はODCと聞いて驚いた。ODC技術は比較的新しい技術で軍関係以外ではまだ普及はしていない。民生技術として落とし込まれるのは、もう少し先のことになりそうだった。


「ODCをお持ちの方は初めてお会いしました。とてもうらやしいですね。早く民間でも使えるようになるといいですけど」


「そうだね、まあ、私が前に所属していた部隊がちょっと特殊な所でね、新しい技術の実験部隊みたいな所だったから、その恩恵みたいなものかな」


「あの、とても失礼かもしれませんが、少佐の左右の目が、いえとてもきれいですけど、眼の色が違うのももしかして……」


「ああ、やはり不自然に見えるかな? その通りこの左目は義眼だよ。でもちゃんと見えてはいるよ。しかも、詳しくは言えないが、色んな便利機能付きさ。

 君たちとは、これから日本で長い付き合いになるかも知れないから、あまり隠し事はしたくないからね。もちろん機密情報などは話せないがこのくらいの話はしてもいいと思ってね。ついでに言うと、この左手も義手だよ」


エイミーは、左手を麻里絵の前にかざして見せた。そして、表、裏と返して見せる。

 麻里絵は、エイミーのその一見華奢に見える左手は、軍製品と言う事もあって、その見た目通りでは無いのだろうなと考えた。



「テレポートゲートの利用を開始いたします。皆さまゲートルーム内にお入りください」


 定期航路便が、予定の停泊位置に固定され安定したのだろう、テレポートゲート担当員が、ソファーで待機していたエイミー達に声をかけて来た。

 テレポートゲートルームは、前面が透明なガラスの様になっており中の様子がうかがえる。小部屋の中は直系五十センチ、高さが五センチほどのお立ち台の様なゲートポイントが一メートル間隔で前後二列に五個配置されている。ここでは五人までの同時転送が可能の様だ。

 エイミー達五人はゲートルーム内へと一人ずつ入っていく。


「円形のゲートポイント上にお一人ずつお立ち下さい。ポイント上では動かずにお願いいたします。別送の荷物があるお客様は貨物用テレポートゲートにてお受け取りください。皆さま四十日間の船旅お疲れ様でございました。またの当艦のご利用お待ち申しております。それでは転送いたします」


 テレポートゲート担当員の口上の後、目の前の景色が切り替わった。



 日本側のテレポートゲートルームは、艦上のものとほぼ同じような作りだった。あえて違うものを挙げるとすれば、内壁の色がホワイトからやや黄色がかったベージュ色なくらいだろうか。前面のガラスの仕切りも同じで向こうの待機部屋の様子が見て取れた。

 ガラスの向こうには六人の人物が立っているのが見える。二十代後半と思われる女性が四人並んでこちらを見ている。そして、三十台と思われるスーツを着た男性が一人。もう一人はネクタイに作業着風の上着を着て胸に所属と名前の書かれた札を付けている、四十代くらいの男性だった。彼がテレポートゲートの担当員なのだろう。


 まずは、瑠沙家の四人娘がゲートルームから出て行った。エイミーは最後にゲートルームを出る。

 エイミーがドアから出ると、四人の娘たちは迎えに来たのであろう四人の女性たちと、抱き合うように再会を喜び合っている。

 エイミーがそれを微笑まし気に見ていると、スーツの男性が声を掛けてきた。


「エイミー・クリス少佐でありますか? 瑠沙健人るさけんと中尉であります。これから私がご案内いたします」


 瑠沙健人中尉と名乗った男性は王国式敬礼をエイミーにした。


「エイミー・クリス少佐だ、よろしく頼む」


 エイミーは中尉に答礼した。


「クリス少佐、少々よろしいでしょうか?」


 エイミーの後ろから女性の声が掛かった。エイミーが振り返ると、瑠沙家の四人娘を迎えに来ていた女性の内の一人だった。


「初めまして、麻里絵の母でございます。航海中は大変娘がお世話になったようで、ありがとうございました」


 麻里絵の母親と言う事は本家の奥様と言う事だ。


「いえ、こちらもお嬢様には大変お世話になりました。長く日本を離れて世情に疎い私に、現在の日本の状況などを教えてもらって大変助かりました。着任の事務手続きなどが終わりましたら、ご本家にご挨拶に伺いますのでその時にまたよろしくお願いいたします」


「はい、お待ちしております。それではまた後ほど」


 麻里絵の母と麻里絵は揃って頭を下げた。その後ろでは三人の娘とその母親たちが合わせるように並んで頭を下げた。そして麻里絵の母を先頭に部屋を並んで出て行った。


「少佐、それではこちらにお願いします」


 瑠沙中尉がエイミーを端末機器などがある受付カウンターへ促す。


「少佐の生体認証を確認いたします。それと、本星出国許可証、渡航許可証、地球特別保護領入国許可証の書類データの提出を、少佐はODC(空間収納)をお持ちと言う事ですので、収納品リストの提出をお願いします」


 テレポートゲート担当員が入国時に提出する標準書式を求めてきた。


 エイミーは生体認証を済ませると、COP(意識操作)を使いカウンターに有る端末への通信周波数を探った。するとここの端末は王国の標準通信周波数も使えることが分かった。エイミーはこちらから操作してデータを送り込むことはせずに、ゲート担当員に一言声を掛ける。


「データを送るが、端末のスタンバイを頼む」


「はい、少々お待ちください……、どうぞ」


 エイミーは手持ちの入国関連データと収納品リストを送り込んだ。


「書類の方は確認させていただきました。頂いた書類と収納品リストは駐在事務所とも共有させて頂きますので、そちらからの判断があると思います。それではここでの手続きは以上になります。お疲れ様でした。これからの駐在所任務をよろしくお願いします」


 ゲート担当員の労いの言葉と共に、エイミーはゲートールームを送り出された。


「ここからは、私がご案内します」


 瑠沙中尉が先導して歩き出す。

 

 廊下に出ると、柔らかい茶系の絨毯のひかれた高級ホテルを思わせる装いだった。廊下の先には幾つかドアが並び、その先には外の明かりを思わせる光が差し込んでいるのが見える。

 少し歩いた所で、中尉は右に折れて先に進もうとした。


「中尉、ちょっと待ってくれないか。この先は、外の様子がみられるのかい?」


「はい、この先はテラスルームになっています。外の景色が一望できますよ」


「すまないが、少しの時間いいだろうか? 長く日本を離れていたのでね」


 中尉はうなずいて、手のひらをテラスルームの方へ差し出しOKを出した。


 エイミーはまっすぐに進みテラスルームに近づいていく。外から入る日の光は近づくにつれ強くなっていった。ここの建物自体が東向きに建てられているのだろう、真正面からの冬の日差しに手をかざしながら、エイミーは外側に貼られた一面のガラス越しにおもての景色を見降ろした。


 『 白 』 『一面の白』 第一印象がこれだった。昔、東京に住んでいた時に雪が降ったことは何度もあった。しかし、ここまで降り積もっているのは初めて見るものだった。そして、その中心には湖がキラキラと湖面を輝かせている。その美しさに思わず見入ってしまった。


「中尉、バルコニーには出られるかい?」


「いえ、おやめになった方がよろしいかと。外の気温は現在マイナス二度になります。それに、時間の方も少々……」


「むう、そうか残念だな。もう少し見ていたいところだが、しょうがない行こうか」


 エイミーと瑠沙中尉はテラスルームを出て駐在事務所へと向かった。


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