第4話 出頭そして再会
航宙軍206中型輸送艦アノマルスは、定刻通りの現地時間800時にルサ ロワール星間王国本星のエルファクタル航宙軍基地に到着した。
兵員輸送区画の一室で据え付けの簡易椅子に、シートベルトをして座り着陸待機をしていたエイミー・クリス大尉はCOPで艦内リンクに接続して降艦手続きをおこなった。降艦許可が出るとシートベルトを外し椅子から立ち上がると、身嗜みのチェックをして兵員輸送室を出た。
輸送艦から外へと降りるには、兵員輸送室からは最後尾の貨物搬出口が一番近い。輸送艦からの兵の出撃時を考えれば効率的ではあると思う。しかし、兵士からしてみれば人であっても貨物同等の扱いかよと言う思いは誰もが感じていることであった。
大型重機を使って艦内の貨物が運び出されているのを横目に見ながら、搬出口のスロープを歩いて地上へと降りる。
入国手続きを行う基地司令棟までは、輸送艦停泊区画からは三マディル(≠五キロメートル)の距離がある。兵員移動用の車両があるはずなので、周囲を見回して探していると、エイミーの横に一台の軽移動車両が停まった。運転席から若い兵士が降りて来るとエイミーの前に立ち敬礼をする。
「エイミー・クリス大尉でしょうか? 自分はダレス・ディラム伍長であります。 軍警本部の命によりお迎えに上がりました」
「あら、よく私だとわかったわね。軍警本部からなんて指名手配の写真でも出回っているのかしら?」
エイミーは若い兵士をからかうように尋ねる。
「いえ、上長から黒髪の目立つ美人だからすぐわかると言われまして」
若い兵士は顔を赤らめながら答えた。
「うれしいことを言ってくれるわね。じゃあ、エスコートしていただこうかしら」
エイミーは若い兵士に開けてもらった助手席のドアから軽移動車両に乗り込んだ。
基地司令棟の発着地側エントランス前に車両を付けると、運転していたディラム伍長は飛び降りるようにして車を降り、助手席側へと回った。そして、助手席のドアを開けると、中からエミリーが降りてきた。
「ありがとう、伍長。早く着けて助かったわ。ああ、あなた甘いものはすき?」
「はい、好きですが?」
伍長は首を捻りながらこたえた。
エイミーはODCから手のひらサイズのチョコレートのパッケージを取り出すと、伍長に渡した。
「私が任務に就いていた駐屯地のある、メル ファローズ星系のお土産よ。お礼として差し上げるわ」
エイミーが渡したチョコレートは現地では、どこのスーパーでも買えるような値段なのだが、現地星系を出ると高級チョコレート扱いとなり値段が数倍に跳ね上がるらしい。なんでも原料に使われるものがその星系固有種のもので、他星系では大変に希少なものらしい。
ディラム伍長はそのことを知っていたのか、パッケージを見て少し驚いて、エイミーに敬礼をした。
「有難うございます、大尉。お気を付けて」
エイミーは伍長に敬礼を返すと、入国手続きへ向かった。
入国手続きは、いささか面倒臭い部分もあったが何も問題なく通り、航宙軍司令本部に向かうためテレポートターミナルへと足を運んだ。
入国手続きの何が面倒かと言うと、本人確認の為の生体認証は自身も必要だと思うのでまあ良いとしても、ODCの全収納リストを提出しろと言うのは、女性と言うこともありプライベート的な面からもいささか抵抗があった。さらに退役を考えているために、駐屯地の宿舎は全てかたずけて収納してきており、後は事務手続きを残すのみとなっている。その収納してきた量と言うのが実に膨大な量となっていた。危険なものを持ち込ませないと言うことは理解している。手続き自体も書類など物理的なものを渡すわけではなく、データを送るだけなのだが、面倒なものは面倒なのである。
テレポートターミナルは、やや人で込みだしていた。航宙軍基地は終夜稼働している。この時間帯は夜勤と日勤の交代の時間帯なのだろう。
ターミナル入口ゲートを通過するときに手をかざし、埋め込まれた認証チップで身分確認をした。
入口ゲートをくぐると、左に出発専用ゲートが五十基ずつ二列に並び、右には到着専用ゲートが同じように二列に百機が並んでいる。
テレポートゲート一台は、地球で言う公衆電話ボックスの様に、人一人が入る大きさで透明なガラスのようなもので囲われており、それが整然と並べられている。
エイミーはそのうちの空いた一台のドアを開けて入ると、正面にある操作パネルにタッチして表示させた。パネルにはこの惑星の世界地図と主要都市が表示される。エイミーは目的地である王国首都セント ロワールを中央部分にスライドさせ、拡大する。更に航宙軍司令本部のある中央区を拡大すると、司令本部のビルの一番近くに表示されたテレポートゲートをタッチした。すると画面には必要な金額が表示された。支払い了承の表示をタッチすると、認証チップを通じて必要な金額が支払われる。すると画面には『テレポートを開始します』とカウントダウンが表示された。
カウントダウンがゼロになると、エイミーは司令本部ビルの近くの地下に設置された中央テレポートターミナルにいた。
王国首都の中央区は官公街で各省庁ビルが立ち並び、商業施設も多くある。そのため人の流れも多く、ここ中央テレポートターミナルは国内でも最大規模ともいえる大きさだった。
エイミーがゲートのドアを開けて出ると、そこはターミナルの中央部だったらしく左右には半(0.5)マディル(≠八百メートル)程の距離でずらりとテレポートゲートが並んでいる。左右で見た距離を立幅だとすると横幅も同距離あるようでゲートの数は数千の規模で設置されているのだろう。
エイミーは司令本部ビルに一番近い中央一番出口へと向かった。歩きながら今回呼び出しを受けた星間航宙軍第一特殊作戦群司令のオフィスにアポイントメントを入れた。ここの人物がエイミーが所属する部隊の現場に接する最高位の上長と言える。
余談だがさらにその上の立場の上長となると、参謀閣下や将軍閣下、大臣閣下に最高位には国王陛下となる。いや、今は王太子が代行していたんだっけ?
アポイントメントを取った所、1100時に出頭せよとのことだった。現在時刻は1005時だから、どこかでお茶でも飲んで少し時間を潰せばいいだろう。その間にアストリット・ウォレス大佐にお礼のメールを入れておこう。航宙軍基地のお迎えは、おそらく彼女の手配だろうから。
1045時、航宙軍ビルの入り口横にある警備詰所兼受付窓口で用件を告げた。エイミーの航宙軍内の個人データの確認と本人認証を済ませると、第二級入館許可データを送られた。これは今回出頭命令を受けた、第一特殊作戦群オフィスまでの進入が認証チップによって行える様になる。ただし、これは一度限りのもので、このビルを出た時点で無効化され、再度オフィスに向かうには再登録しなければならないものだ。
これから向かうオフィスには、これまでも三度訪れたことがある。二度の異動命令の時と、左目と左腕を失うことになった作戦で授けられることになった、勲章授与の時だ。
勝手知ったる、と言うことで迷わず三十階にあるオフィスへと向かった。
エイミーはオフィスに着くと、ノックをして中からの反応を待った。すると秘書官がドアを開け中へ招き入れてくれた。
オフィスの奥にある執務机に座る、グレアム・ハリス准将の前に立ち敬礼をする。
「エイミー・クリス大尉、出頭いたしました」
ハリス准将は手にした書類を置くと答えた。
「うむ、一週間の長旅ご苦労だったな。君の退役願いはこちらで受け取っている。そのことを含めてこちらからも話があるのだよ。そのためにもう一人こちらに来ることになっている。それまで、そこで少し待っていて欲しい」
ハリス准将はオフィス中ほどの壁際にある、透明なパーテーションに仕切られた応接セットを指していった。
「ハッ、了解いたしました」
エイミーはパーテーションのドアを開け中に入ると、下手のソファーに座った。パーテーションの中はしっかりと防音対策されており、空調の音のみが微かに聞こえてくる。
五分ほど待ったろうか、パーテーションの外ではハリス准将が訪れた人物と言葉を交わし握手をすると、パーテーションの中へと入ってきた。
「エイミー、顔を見るのは二年ぶりかしら。会えて嬉しいわ」
「アスティ!」
エイミーとアストリット•ウォレス大佐は、お互いに再開を喜びハグをし合った。
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