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シナスタジア心霊事件ファイル~共感覚霊視者と心霊詐欺師の霊能者業界成り上がり~  作者: 十凪高志


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19/20

第19話 それが、あなたの罰なんです

 僕たちは、再びネットでの情報収集を開始した。

 仮設事務所のテーブルに、三台のノートパソコンとスマホが並ぶ。

 獅堂が警察から入手した当時の名簿を表示する。


「2年A組の名簿。40名の生徒。失踪した13人を除くと、残り27人」

「その中に、主犯格がいるってことですね」

「ああ。詩織の日記には、桐島、相良という名前が出ていた。他にも複数の人物が関与しているようだが、具体的な名前は書かれていない」


 僕がSNSを検索する。


「桐島健太、相良美月……いた」


 画面には、二人のSNSアカウントが表示される。

 桐島健太。30代半ば。大手企業の人事部勤務。

 プロフィール写真は、スーツ姿の爽やかな笑顔。

 投稿内容は、ビジネス書の紹介や、自己啓発的な内容。


「学生時代の失敗から学んだ」

「過去を乗り越えて、今がある」

「マネジメントの極意は、人を見極めること」


 相良美月。30代半ば。中学校教師。

 プロフィール写真は、生徒たちと一緒に写っている写真。

 投稿内容は、教育に関する熱い思い。


「弱い生徒を守ることが、教師の使命」

「いじめは絶対に許さない」

「生徒一人一人に寄り添う教育を」


 吉宗ちゃんが画面を見て、呟く。


「なんか、めっちゃいい人そうですけど……」

「表向きはな」獅堂が冷たく言う。「だが、14年前、彼らは陽菜をいじめていた」


 僕がさらに検索を続ける。


「他にも、当時のクラスメイトのSNSが見つかった」

 画面には、複数のアカウントが表示される。

 その中で、特に目を引くものがあった。

 匿名掲示板のスレッド。



【未解決事件】聖ヶ丘学園「教室の13人」について語るスレ Part 5

 512: 名無しさん

 俺、当時同じ学年だったけど、あの13人は優しい子たちだったよ

 いじめの主犯格じゃなくて、むしろ止めようとしてた側


 513: 名無しさん

 じゃあ誰が主犯格だったんだよ


 514: 名無しさん

 桐島、相良、西園寺、田所、森下


 この5人

 515: 名無しさん

 マジかよ

 で、そいつら今何してんの?


 516: 名無しさん

 桐島は大手企業の人事部

 相良は教師

 西園寺と田所は結婚して主婦/主夫

 森下は精神病院


 517: 名無しさん

 森下だけ病んでるのか


 518: 名無しさん

 らしいな

「13人が迎えに来る」って怯え続けてるって


 519: 名無しさん

 自業自得じゃね?


 520: 名無しさん

 でも他の4人は普通に生きてるんだろ

 許せねえわ



 獅堂が画面を注視する。


「5人。桐島健太、相良美月、西園寺梓、田所雄介、森下拓也」


 そして僕たちは彼らの情報をまとめた。


 1. 桐島健太


 当時のクラスのリーダー格

 現在は大手企業の人事部勤務(東京)

 SNSでは「学生時代の失敗から学んだ」と投稿


 2. 相良美月


 当時のクラスの中心メンバー

 現在は中学校教師(横浜)

「弱い生徒を守る」ことに執着している様子


 3. 田所雄介


 当時のクラスのムードメーカー

 現在は専業主夫(横浜)

 SNSのアカウントは削除済み


 4. 西園寺梓


 当時のクラスの副委員長

 現在は専業主婦(川崎)

 子供に完璧な優しさを強要している様子


 5. 森下拓也


 当時のクラスの問題児

 現在は精神病院に入院中(東京)

「13人が迎えに来る」と怯え続けている


 獅堂が方針を決める。

「まず、森下拓也から当たる。精神的に不安定ということは、何か重大な秘密を抱えている可能性が高い。罪悪感が彼を壊しているなら、真実を語る可能性もある」

 高野さんが病院の住所を調べる。

「東京都内の病院です。面会は制限されていますが、工藤さん経由で許可を取れるかもしれません」

 工藤栞さんが頷く。

「やってみます。遺族として、事件の関係者に話を聞きたいと伝えれば、許可が出るかもしれません」

 栞さんは電話をかける。

 数分間の会話の後、彼女は電話を切った。

「許可が出ました。明日の午後2時、面会可能です」

「ありがとうございます」


 その夜、僕たちは瑠璃宮で戦略を練った。


「森下拓也へのインタビューで、注意すべきことは何か」


 獅堂が問いかける。

 その時だった。吉宗ちゃんがおずおずと手を挙げる。


「えっと……それなんすけど、私の特技っていうかスキルっていうか、そういうの役に立つかもっす。

 霊感、ってほどじゃないんすけど……」

「ああ、嘘がわかるんだろ」


 吉宗ちゃんの言葉に、獅童は何げなくさらっと言った。

 ……嘘がわかる?


「えっ!? な、なんでわかるんすか」


 吉宗ちゃんが驚きの声を上げる。獅童は何のことはない、という感じで答えた。


「お前の過去の配信だよ。インタビューやらなにやらを見てると、相手の嫌がる事を的確に突いている。

 これはホットリーディングの達人か、あるいは……嘘を見抜けるか、だろう。

 そしてお前はバカだから事前調査は無理だ」

「ひどいっ!?」


 吉宗ちゃんは大げさに嘆くポーズを取る。


「嘘を見抜く能力は、相手の表情などから読み取るコールドリーディング

 か、あるいは……エンバスと呼ばれる共感力の強さだ。

 だけど、お前はエンパス気質じゃない。

 となると……祐介と同じく、何かの……」

「共感覚?」


 僕がその言葉を口にする。

 脳神経の混線、と言われるその特性は、ある刺激感覚に対して別種の感覚が歓喜されるというものだ。


「おそらくな。どんな共感覚かはわからないが……」

「味っす」


 吉宗ちゃんは言った。


「人の言葉に、味を感じるんす。いわゆる、おっと……この味は嘘をついてる味だぜ、べろおっ、てやつっすよ」


 なるほど、後ろの方はよくわからない。


「嘘の味は、腐った味……なんすよ」


 吉宗ちゃんは静かに言った。

 その言葉に僕たちは黙ってしまう。

 腐った味。

 そんなものを、嘘にまみれたこの現代社会で常日頃から感じてしまう。

 それはどんなに……。


「甘いんすよね、腐った味って。これがなかなか」


 ニヤつく吉宗ちゃん。

 いや確かに、肉は腐りかけが美味しいというけどさ。


「ゲテモノ趣味でよかったな。自分の共感覚に壊される人間もいるらしいぞ、望まぬ感覚にノイローゼになって」

「まあそれはマジで運よかったっすね。

 ともかく、それで私は先輩の言う通りに配信の時の取材で使ってるっす。今回も使えると思いますよ」

「ああ。期待してる」

「でも、精神病院に入院してるってことは、マジでヤバい状態なんですよね」

「可能性は高い」


 獅堂が答える。


「だが、それだけ追い詰められているということは、真実を知っている証拠でもある」

「でも、彼の証言って、信用できるんですか?」

「それを判断するのが、お前の仕事だ、吉宗」


 吉宗ちゃんは頷く。


「わかりました」


 獅堂は資料を整理する。


「明日のインタビューで、俺たちが知りたいことは以下の通りだ」


 獅堂がホワイトボードに書き出す。



 森下拓也への質問事項


 いじめの詳細(誰が、何を、いつ、どこで)

 陽菜の死について(事故か自殺か)

 13人の失踪について(知っていたことはあるか)

 他の主犯格4人の現状

 森下自身の罪悪感について



「これらを、慎重に聞き出す。ただし――」


 獅堂は三人を見回す。


「あのおっさん――スピの介の妨害がある。森下の主治医を通じて、クレームをつけてくる可能性が高い」

「どうすればいいんですか?」

「記録を取る。全ての会話を録音し、文字起こしする。そうすれば、『患者を追い詰めた』という言いがかりに対して、客観的な証拠を示せる」

「わかった」


 僕は頷く。



 翌日、午後2時。

 東京都内の精神病院。

 白い建物。清潔な廊下。

 だが、どこか重苦しい雰囲気が漂っている。

 受付で手続きを済ませ、三人は面会室に案内された。

 小さな部屋。テーブルと椅子が4脚。

 窓からは、病院の中庭が見える。

 数分後、扉が開き、一人の男が入ってきた。


 森下拓也。

 30代半ば。痩せこけた体。虚ろな目。

 髪はボサボサで、無精髭が生えている。

 看護師が彼を椅子に座らせる。


「30分以内でお願いします」


 森下さんは、三人を見て、怯えたような表情を浮かべる。


「……誰だ、お前ら」


 森下さんの声は震えている。

 

「初めまして。八坂祐介です。佐久間陽菜さんと、13人の失踪について聞きたいことがあります」


 佐久間陽菜。その言葉を耳にして、森下さんの顔が引きつる。


「陽菜……陽菜が……」

「森下さん、落ち着いてください」


 獅堂が冷静に言う。


「俺たちは、あなたを責めるつもりはない。ただ、真実を知りたいだけです」

「真実……」


 森下さんは震えながら、顔を覆った。


「……俺が、全部話したら、あいつらは消えてくれるのか」

「あいつら?」

「13人だよ。夜になると、聞こえるんだ。13人の声が。『森下、お前も来い』って。『陽菜に謝れ』って」


 吉宗ちゃんがスマホに文字を入力し、森下さんに見えないようにこちらに向ける。


『本当に聞こえてると思ってる。嘘じゃない』


 獅堂が質問を続ける。


「森下さん、あなたは佐久間陽菜さんをいじめていましたね」

「……ああ」


 森下さんは顔を上げる。


 その目には、深い後悔が宿っていた。

「俺が、陽菜を殺したんだ」

「殺した?」

「いや違う! 殺してなんかない、俺は、俺は……」


 森下さんは混乱しているようだ。言葉が支離滅裂になっている。

 吉宗ちゃんが割り込む。


「森下さん、落ち着いて。ゆっくりでいいんで、話してください」


 森下さんは深呼吸をする。

 そして、語り始めた。


「陽菜を……陽菜を追い詰めたのは、俺だ。桐島も、相良も、西園寺も、田所も。俺たち5人で、陽菜をいじめた」


 吉宗ちゃんが頷く。


『本当ですね』


「最初は、ただの悪ふざけだった」


 森下さんは顔を覆いながら続ける。


「陽菜が大人しくて、反応が面白いから。上履きに画鋲を入れたり、教科書を隠したり。そういう、よくあるいじめ」

「それが、エスカレートした」

「ああ……」



 森下さんの声が小さくなる。

「桐島が言い出したんだ。『透明人間ゲーム』を。陽菜を透明人間扱いして、クラス全員で無視しようって」

「そして、クラス全員が従った」

「ああ。最初は、何人かは嫌がってた。でも、桐島が『従わない奴も透明人間にする』って脅して。それで、みんな従うようになった」


 獅堂が記録を取っていく。


「陽菜さんは、どんな反応をしていましたか?」

「最初は……泣いてた。でも、だんだん無表情になった。何をされても、何も言わなくなった」


 森下さんの手が震える。


「それが、余計に面白かった。俺たち、最低だった」

「いじめは、どのくらいの期間続きましたか?」

「半年くらい。2010年の秋から、2011年の春まで」

「そして、2011年3月11日。震災の日に、陽菜さんは死んだ」

「ああ……」


 森下さんは両手で顔を覆う。


「あの日、地震があった。みんなパニックになった。俺は、必死で机の下に隠れた。揺れが収まって、外に出た。でも、陽菜はいなかった」

「陽菜さんは、どこにいたんですか?」

「屋上だって。後で聞いた。陽菜は、地震の時、教室から逃げ出して、屋上に行ったんだって」


 僕が尋ねる。


「なぜ、屋上に?」

「わからない。でも、陽菜は……」


 森下さんは震えながら、続ける。


「陽菜は、その前から、おかしかった。休み時間、よく一人で屋上に行ってた。そして、柵の近くに立って、下を見てた」

「自殺を考えていた?」

「今思えば、そうだったのかもしれない。でも、俺たち、気にも留めなかった」


 獅堂が尋ねる。


「陽菜さんの死は、事故として処理されました。でも、あなたは、どう思いますか?」


 森下さんは沈黙する。


 長い沈黙。

 そして、彼は言った。


「自殺だと思う」


 吉宗ちゃんが反応する。


『本当』


「陽菜は、飛び降りる前に、自分で舌を噛み切ってたって聞いた。事故で、そんなことになるか?」


 獅堂が目を細める。


「舌を噛み切った?」

「ああ。警察の調べで、わかったらしい。でも、学校は隠した。『パニックを防ぐため』って」

「つまり、陽菜さんは、舌を噛み切った後、屋上から飛び降りた」

「そうだ。だから、自殺だ」


 森下さんは泣き始めた。


「俺たちが、殺したんだ。陽菜を、追い詰めて、殺したんだ」


 僕は森下さんを見つめた。


 ――想いの残滓が見える。

 後悔。

 罪悪感。

 自己嫌悪。

 それらが黒いもや、澱のようにまとわりついていた。

 だが、それ以上のことはわからない。


「森下さん」


 僕は静かに言った。


「13人は、あなたを恨んでいません」

「嘘だ! あいつら、毎晩来るんだ!」

「それは、あなたの罪悪感が生み出した幻覚です」

「違う! 本当に来るんだ!」


 森下さんは叫ぶ。

 看護師さんが僕と彼の間に入る。


「興奮させないでくだい」

「……すみません」

「森下さーん、大丈夫ですよー」


 看護師が森下さんを落ち着かせる。

 獅堂が最後の質問をする。


「森下さん、13人の失踪について、何か知っていますか?」


 森下さんは首を横に振る。


「知らない。あいつらが消えた日、俺は学校に行ってなかった。怖くて」

「何が怖かったんですか?」

「陽菜の命日だったから。一年前、陽菜が死んだ日。俺、怖くて、家から出られなかった」


 吉宗ちゃんが確認する。


『本当』


「他の4人は?」

「わからない。あれから、俺たち5人は、会ってない。桐島も、相良も、西園寺も、田所も。みんな、バラバラになった」

「彼らは、今、どうしていますか?」

「知らない。俺は、ずっとここにいる。外の世界のことは、わからない」


 森下さんは疲れ切った様子だった。

 獅堂が立ち上がる。


「森下さん、協力ありがとうございました」

「待ってくれ」


 森下さんが獅堂の手を掴む。


「頼む。あいつらに伝えてくれ。13人に」

「何をですか?」

「俺は……俺は、毎日謝ってるって。ごめんなさいって。だから、許してくれって」


 僕は森下さんを見つめた。

 そして、静かに言った。


「13人が恨んでいたのは、自分自身です。陽菜を助けられなかった自分を、許せなかった。だから、死んだんです」


 森下さんは震えを止めた。


「……それでも、俺は許されない」

「……そうですね」


 僕は頷いた。


「許されません。一生、背負って生きてください。それが、あなたの罰なんです」

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