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シナスタジア心霊事件ファイル~共感覚霊視者と心霊詐欺師の霊能者業界成り上がり~  作者: 十凪高志


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第18話 いじめの主犯格を探す

 警察の鑑識が到着した。

 白い防護服を着た鑑識官たちが、教室に入ってくる。


「床下ですね」


 鑑識官の一人が確認する。


「はい」


 高野さんが答える。


「協会の受験者が発見しました」


 鑑識官は床下を覗き込む。


「……確かに、遺体がありますね。13体、間違いない」

「身元確認は可能ですか?」

「DNA鑑定が必要です。時間がかかります」


 鑑識官たちが作業を始める。

 僕たち三人は、教室の外に出された。

 廊下で待機する。

 吉宗ちゃんは、壁にもたれかかっている。


「マジで、キツいですね……」


 獅堂が尋ねる。


「当たり前じゃないですかー。私、普通の配信者ですよう。そりゃショッキングな画とか撮れればって思ってたけど、ありゃ流石に」

「……だな。確かにあれは」


「そうですけど……」


 僕も、複雑な表情をしていた。

 14年前、この床下で、13人の中学生が死んだ。

 誰にも気づかれず。

 誰にも助けられず。

 ――そして、僕は知っていた。

 あの映像で、彼らの最期の一部を見ていた。

 教室での儀式。

 睡眠薬を飲み、互いにいじめを再現する場面。

「ごめんなさい」と泣き叫ぶ声。

 最後の「お母さん……」という呟き。

 でも、床下の場面は映っていなかった。

 だから、誰も気づかなかった。

 13人が、この狭い空間で死んでいったことを。


「なんで、こんなことに……」


 僕の呟きに、獅堂が答える。


「それを解明するのが、俺たちの仕事だ」


 そうだ。

 僕たちの仕事は、真実を明らかにすること。


 だけど――

 その真実を、どう扱えばいい?

 僕は、彼らの死を「消費」した人間の一人だ。

 その罪を、どう償えばいい?



 ◇

 1時間後。

 工藤栞さんが戻ってきた。

 高野さんが栞さんに近づく。


「工藤さん、遺体が発見されました」


 栞さんの顔が青ざめる。


「詩織……?」

「DNA鑑定で確認します。結果が出るまで、数日かかります」


 栞さんは段ボール箱を落としそうになる。

 僕が慌てて支える。


「大丈夫ですか」

「はい……ありがとうございます」


 栞さんは深呼吸をする。


「14年間、待ちました。もう少し、待てます」


 彼女の声は、震えながらも、しっかりとしていた。


「それよりも、真実を知りたいんです。詩織が、なぜ死ななければならなかったのか」


 高野さんが提案する。


「工藤さん、現場を見ますか?」


 栞さんは首を横に振る。


「いえ。今は、まだ……」

「わかりました。では、仮設事務所で遺品を確認しましょう」



 仮設事務所に戻る。

 テーブルに、詩織さんの遺品が広げられる。

 中学の制服。白いブラウスに、紺のスカート。

 教科書。国語、数学、英語、理科、社会。

 ノート。几帳面な文字で、授業の内容が記されている。

 筆箱。ペンと鉛筆。消しゴム。

 そして、一冊の日記帳。

 ピンク色の表紙。角が少し擦れている。

 獅堂がそれを手に取る。


「読んでもいいですか?」

「はい」


 栞さんは頷いた。


 獅堂がページをめくる。

 僕と吉宗ちゃんも覗き込む。

 日記は、2010年4月から始まっていた。

 中学1年生の春。

 最初のページには、こう書かれていた。


 2010年4月7日

 今日から中学生!

 新しい制服、新しい教室、新しい友達。

 ドキドキする。

 頑張ろう!


 初々しい文章。

 希望に満ちた言葉。

 獅堂はページをめくり続ける。

 2010年、2011年。

 詩織さんの日常が綴られている。

 友達との楽しい時間。

 部活動(吹奏楽部)での思い出。

 テストの点数。

 些細な出来事。

 だが、2011年2月頃から、内容が変わり始める。


 2011年2月14日

 今日、陽菜ちゃんの机に、またいたずらがあった。

 上履きに画鋲が入っていた。

 私は見てしまった。誰がやったのか。

 桐島くんと、相良さんと、あと何人か。

 でも、何も言えなかった。

 怖かった。

 桐島くんたちは、クラスの中心的な存在。

 逆らったら、次は私がターゲットになるかもしれない。

 陽菜ちゃん、ごめんね。


 2011年2月21日

 陽菜ちゃんへのいじめが、ひどくなってる。

 今日は、給食に何か混ぜられてた。

 陽菜ちゃんは気づいて、食べなかった。

 先生は、「好き嫌いはダメ」って怒ってた。

 先生、気づいてないのかな。

 それとも、気づいてるけど、見て見ぬふり?

 2011年2月28日

 陽菜ちゃんが、給食を残した。

 先生は怒っていたけど、私は知ってる。

 陽菜ちゃんの給食に、誰かが虫を入れたから。

 私は見ていた。

 でも、何も言えなかった。

 私は、最低だ。


 2011年3月5日

「透明人間ゲーム」が始まった。

 桐島くんが言い出した。

「陽菜は透明人間だから、誰も気づかない」

 クラスのみんなが、陽菜ちゃんを無視するようになった。

 話しかけても、返事をしない。

 ぶつかっても、謝らない。

 陽菜ちゃんは、本当に透明人間になってしまった。

 掃除当番の時、陽菜ちゃんが教室の床下から出てくるのを見た。

 床板の隙間から、狭い空間に入っていた。

 あそこが、陽菜ちゃんの隠れ場所なんだ。

 誰も知らない、陽菜ちゃんだけの場所。

 でも、私は声をかけられなかった。

「大丈夫?」って、聞けなかった。


 2011年3月10日

 もう、我慢できない。

 明日、陽菜ちゃんに話しかけようと思う。

「大丈夫?」って。

 勇気を出して、言ってみる。

 怖いけど。

 桐島くんたちに目をつけられるかもしれない。

 でも、このまま何もしないのは、もっと怖い。



 そこでページが終わっている。

 次のページは、3月12日。



 2011年3月12日

 陽菜ちゃんが死んだ。

 昨日、地震があった。

 みんなパニックだった。

 そのあと、陽菜ちゃんがいなくなった。

 屋上から飛び降りたって。

 私のせいだ。

 私が、もっと早く声をかけていれば。

 私が、ちゃんと助けていれば。

 昨日、私は陽菜ちゃんに「大丈夫?」って声をかけた。

 陽菜ちゃんは、震えながら笑って「うん」って答えた。

 それが最後だった。

 私が声をかけたせいで、陽菜ちゃんは期待してしまったのかもしれない。

「助けてもらえる」って。

 でも、私は何もできなかった。

 陽菜ちゃん、ごめんなさい。


 2011年3月15日

 陽菜ちゃんの葬式。

 でも、私たち生徒は参加できなかった。

 学校が禁止した。

「震災の混乱で起きた事故だから、生徒は関わらせない」って。

 でも、違う。

 事故じゃない。

 陽菜ちゃんは、私たちに殺されたんだ。

 いじめた桐島くんたちにも。

 見て見ぬふりをした私たちにも。



 ページをめくる。

 2011年の夏、秋、冬。

 詩織さんの日記は、暗い内容が続く。

 罪悪感。

 後悔。

 自己嫌悪。

 そして、2012年3月。



 2012年3月5日

 もうすぐ、一年になる。

 陽菜ちゃんが死んで、一年。

 私は、この一年間、ずっと考えてた。

 どうすれば、陽菜ちゃんに謝れるのか。

 どうすれば、許してもらえるのか。


 2012年3月8日

 私と同じように、罪悪感を感じている子たちがいる。

 12人。

 私を含めて、13人。

 私たちは、いじめの主犯格じゃなかった。

 でも、傍観者だった。

 それは、同じことだと思う。

 みんなで話し合った。

 陽菜ちゃんの隠れ場所、床下のことも話した。

 何人かは知ってた。

 掃除当番の時とか、陽菜ちゃんが床下に入るのを見てたって。

 でも、誰も声をかけなかった。

 誰も、助けなかった。

 だから、私たちは決めた。

 陽菜ちゃんがいた場所で、一緒に過ごそうって。


 2012年3月10日

 明日で、一年になる。

 陽菜ちゃんが死んで、一年。

 私たち13人で、話し合った。

 陽菜ちゃんに謝ろうって。

 ちゃんと、謝ろう。

 生きてる私たちが謝っても、意味がないかもしれない。

 でも、謝らなきゃいけない。

 だから、決めた。

 陽菜ちゃんと同じ苦しみを受けて、それから謝る。

 陽菜ちゃんは、いじめられて、苦しんで、最後は自分で舌を噛み切って、屋上から飛び降りた。

 私たちも、同じことをしよう。

 そうすれば、陽菜ちゃんの苦しみが、少しはわかるかもしれない。

 そして、陽菜ちゃんがいた場所で、一緒に過ごそう。

 お姉ちゃん、ごめんね。

 私、明日、いなくなります。

 でも、これは私が選んだことだから。

 後悔はしてない。

 ただ、お姉ちゃんには、ありがとうって伝えたい。

 今まで、優しくしてくれて、ありがとう。



 日記はそこで終わっていた。

 栞さんが嗚咽を堪えている。


「詩織……」


 獅堂は日記を閉じた。


「工藤さん、詩織さんは几帳面な性格でしたか?」

「はい。とても」

「この日記、毎日書いているわけではありませんが、重要な出来事は必ず記録している。ということは――」


 獅堂は推理を続ける。


「3月11日の記述がない。つまり、詩織さんたちは、11日の夜には既に『計画』を実行していた。日記を書く余裕がなかったということです」


 吉宗ちゃんが震えた声で言う。


「つまり、あの教室で、13人は――」

「自分たちにいじめを再現した。陽菜という子が受けた苦痛を、自分たちも受けようとした。自傷行為をして、睡眠薬を飲んで、そして床下に入った」


 獅堂は続ける。


「床下に入る前にカメラは止めた。陽菜の隠れ場所は、彼らにとって神聖な場所だった。だから、記録に残さなかった」


 ――僕は知っている。

 あの映像で見た。

 彼らが教室で、互いにいじめを再現する場面。

 虫を食べさせ合う場面。

「ごめんなさい」と泣き叫ぶ声。

 最後の「お母さん……」という呟き。


 そこで映像は終わっていた。

 だから、誰も知らなかった。

 彼らがその後、床下に入って死んだことを。

 なぜ。

 なぜ、そこまでしなければならなかったのか。


「陽菜に謝るために、死ぬ必要があったのか?」


 僕の問いに、獅堂が答える。


「彼らにとっては、それしか方法がなかったんだろう」

「でも――」

「祐介」


 獅堂が僕を見る。


「俺たちは、彼らの選択を理解する必要はない。ただ、その選択がなぜ行われたのか、その背景を解明すればいい」


 僕は頷いた。

 そして、工藤栞さんに尋ねる。


「栞さん、佐久間陽菜さんのご遺族とは、連絡が取れますか?」


 栞さんは首を横に振った。


「陽菜さんのお母様は、事件の半年後に亡くなりました。心労で。お父様は行方不明です。親戚の方も、連絡を拒否されています」

「遺品は?」

「おそらく、処分されたと思います」


 僕は舌打ちした。


「手がかりが少なすぎる」


 獅堂が地図を広げる。


「いや、むしろ逆だ。手がかりは揃ってきている」


 獅堂がホワイトボードに書き出す。


 確定事項


 13人は床下で死亡

 死因は睡眠薬、出血、窒息の複合(推測)

 教室で自傷行為の後、床下に移動 ここまで動画撮影されていた

 佐久間陽菜の死といじめが関係している

 13人は「傍観者」であり、いじめの主犯格ではない

 陽菜は「透明人間ゲーム」の被害者

 陽菜は床下に隠れていた(13人はそれを知っていた)


 未確定事項


 陽菜へのいじめの詳細

 いじめの主犯格の現在

 陽菜の本当の死因(事故か自殺か)

 陽菜の最後の「想い」



 獅堂が立ち上がる。


「祐介、吉宗。次は、いじめの主犯格を探す。彼らが、この事件の鍵を握っている」



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