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シナスタジア心霊事件ファイル~共感覚霊視者と心霊詐欺師の霊能者業界成り上がり~  作者: 十凪高志


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第17話 私たちも、同じことをしよう

「まず、事件現場である2年A組の教室の確認だな」


 獅童の言葉に俺たちは頷く。


「あ、高野さん。事件当時の資料ってありますか」

「はい、あります」


 高野さんがタブレットを操作する。


 画面には、当時の警察の調査報告書が表示される。



 聖ヶ丘学園集団失踪事件 調査報告書(抜粋)

 日時:2012年3月12日 午前7時30分

 通報者:教員・田中一郎

 発見状況:


 2年A組教室が施錠されていた(内側から)

 窓は内側から板で打ち付けられていた

 机が円形に13個並べられていた

 中央に睡眠薬の空シート(複数)

 黒板に「ごめんなさい」の文字が多数

 床に血痕あり(少量、複数箇所)

 生徒13名の所持品(カバン、携帯電話など)が残されていた


 推測:

 集団で睡眠薬を服用し、自傷行為の後、何らかの方法で教室から脱出したと考えられる。ただし、密室状態であったため、脱出経路は不明。



「……ふむ」


 獅堂が画面を注視する。


「密室、か。これは興味深い」

「どういうことっすか?」


 吉宗が尋ねる。


「もし本当に集団自殺なら、なぜ密室を作る必要があったのか。

 普通に考えれば、遺体が発見されやすい場所で死ぬはずだ。

 だが、彼らは敢えて密室を作り、その上で姿を消した」

「つまり?」

「遺体を隠す意図があったということだ。あるいは――」


 獅堂は一息ついて、言う。


「教室の中に、まだ俺たちが気づいていない『何か』がある」



 僕たちは校舎の中へ入った。

 2012年から14年。建物は老朽化し、窓ガラスは割れ、廊下には落ち葉が積もっている。


 壁には、当時の学校生活を偲ばせるものが残っている。

 色褪せた掲示物。「合唱コンクール」「文化祭」「修学旅行」。

 生徒たちの笑顔が写った写真。


 だが、今やそれらは全て、過去の遺物だ。


「2年A組の教室は、3階の一番奥です」


 高野さんが先導する。


 階段を上る。軋む音が響く。

 吉宗が周囲を見回す。


「うわー、マジで雰囲気やべえですね」

「不謹慎なこと言うな」


 獅堂が睨む。


「だって事実じゃないですか」


 僕は何も言わず、廊下の壁を見ていた。

 ――残留思念の痕跡。

 だが、古すぎて、ノイズが多い。まるで何重にも重ねられた録音テープのように、様々な時代の「想い」が混ざり合っている。


 楽しかった。

 苦しかった。

 悲しかった。

 そんな感情の残滓が、この廊下に残っている。


 ただ、それだけだ。映像が見えるわけじゃない。ただ、感情の痕跡を感じるだけ。

 黒鏡を使えばもっと深く視えるのかもしれないが――今はその時ではない。


 2階を通過。

 3階に到着。


 廊下の奥、最後の教室。

 扉には「2年A組」のプレートが、今も残っている。

 錆びて、色褪せているが、確かにそこにある。


 高野さんが扉を開けた。

 軋む音。


「どうぞ」


 教室の中は、時が止まったようだった。


 机が円形に並べられている。13個。

 まるで何かの儀式のように、綺麗な円を描いている。


 中央には、何かの痕跡。おそらく、睡眠薬のシート。

 窓は内側から板で打ち付けられている。釘の頭が錆びて、茶色く変色している。


 そして、黒板。


「ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい」


 何度も何度も重ね書きされた文字が、白いチョークで刻まれている。

 文字は乱れている。震える手で書かれたことがわかる。

 吉宗が息を呑む。


「うわ……マジっすかー……」


 獅堂は床を調べている。

 懐中電灯で照らしながら、床を這うように観察する。


「血痕の痕跡がある。ルミノール反応が出るだろうな」

「どのくらいの量?」

「少量だ。致命傷を負うほどではない。おそらく、自傷行為による出血だろう」


 獅堂は床の血痕の位置を、ノートに記録していく。


「13箇所。机の数と一致する。つまり、13人それぞれが、自分の机の前で自傷行為をした」


 僕は――黒板を見つめていた。

 黒鏡を使わなくてもわかる。

 強い想いが残っている。


 謝罪。

 後悔。

 悲しみ。


 でも、それだけじゃわからない。何に対する謝罪なのか。誰に対する後悔なのか。


 ただ、一つだけわかる。

 この謝罪は、黒板に向けられたものじゃない。

 別の何かに向けられている。


 僕は教室を見回す。

 机は13個。

 でも、何かが足りない気がする。

 窓際。最後列。

 そこに机がない。

 でも、床には跡がある。


「獅堂」

「なんだ」

「あそこに、もう一つ席があったはずだ」


 僕は窓際を指差す。

 獅堂が立ち上がり、窓際に向かう。

 そこには、確かに机がない。

 だが、床には微かな跡がある。

 机が置かれていた跡。


「ここに、誰かの席があった」


 獅堂は床を調べる。


「他の席と違って、血痕がない」


 高野さん凛が記録を確認する。


「当時の座席表では、窓際最後列は――佐久間陽菜。2011年3月11日、校舎屋上から転落死」

「……その人だ」


 僕は確信した。

 黒板に残った想いは、この空席に向けられている。


「13人は――佐久間陽菜に謝罪していたんだ」





 獅堂が頷く。


「そうだな。だが、問題は――」


 獅堂は教室を見回す。


「13人の遺体は、どこにあるのか、だ」


 吉宗ちゃんが黒板の文字を見ている。


「これ、全部同じ『ごめんなさい』なんですよね」

「ああ」

「でも、よく見ると、筆跡が違うんですよ。13人が、それぞれ書いたってことですよね」


 吉宗ちゃんが黒板に近づく。


「しかも、めっちゃ重ね書きされてる。何回も何回も、同じ場所に書いてる」


 獅堂が吉宗ちゃんに近づく。


「どういうことだ?」

「つまり、13人は交代で黒板に文字を書いたんじゃなくて、同時に書いてたんですよ。全員が、同じタイミングで、同じ場所に『ごめんなさい』って」


 獅堂は黒板を注視する。

 確かに、吉宗ちゃんの言う通りだ。

 文字は、何層にも重なっている。


「これは……儀式だな」

「儀式?」

「ああ。13人は、何かの儀式を行っていた。そして、その儀式の最後に、全員で『ごめんなさい』と書いた」


 僕が尋ねる。


「何のための儀式なんだ?」

「わからない。だが、陽菜に対する謝罪であることは間違いない」


 獅堂は教室を見回す。


「この教室には、もっと手がかりがあるはずだ。徹底的に調べるぞ」


 僕たちは教室の隅々まで調査を始めた。

 獅堂は、机の中を一つ一つ確認している。

 ほとんどの机は空だが、いくつかには忘れ物が残っている。

 消しゴム。鉛筆。ノートの切れ端。

 獅堂はそれらを丁寧に記録していく。

 吉宗ちゃんは、窓を調べている。


「この窓、内側から板で打ち付けられてるんですよね」

「ああ」

「でも、釘を打つには、金槌が必要じゃないですか。そんなもの、どこにあったんですかね」

「いい質問だ」


 獅堂が吉宗ちゃんに近づく。


「警察の報告書には、『工具類は発見されず』とある。つまり、13人は金槌を持ち込んで、窓を塞いだ後、その金槌を持ち出した」

「でも、教室は密室だったんですよね?」

「そうだ。矛盾している」


 獅堂は窓の板を調べる。

 釘は、やや雑に打たれている。


「素人の仕事だな。しかも、急いでいた形跡がある」

「どうしてわかるんですか?」

「釘の頭を見ろ。一度で打ち込めていない。何度も叩いて、やっと打ち込んでいる。つまり、慣れていない人間が、急いで作業をした」

 吉宗ちゃんが頷く。


「なるほど」


 僕は、教室の中央に立っていた。

 13個の机が作る円の中心。

 ここに、睡眠薬があった。

 僕は目を閉じる。


 ――想いの痕跡が感じられる。

 でも、断片的だ。


 謝罪。

 後悔。

 決意。

 何かを決意した想い。

 そして――

 苦痛。


 肉体的な苦痛の痕跡が、ここに残っている。

 だけど、それ以上のことはわからない。

 僕の能力では、過去の映像を見ることはできない。

 ただ、残された感情の痕跡を感じるだけ。


 ――だけど、僕は知っている。

 あの動画で見た。

 13人が円の中央に集まって、睡眠薬を飲む場面。


「これで、陽菜ちゃんと同じ苦しみを味わおう」


 誰かがそう言っていた。

 僕は目を開けた。


「獅堂」

「なんだ」

「13人は、ここで睡眠薬を飲んだ。そして――」


 僕は床を見る。


「どこかに行った」

「どこへ?」

「わからない。でも、この教室から出ていないはずだ。密室だったんだから」


 獅堂は考え込む。


「つまり、教室のどこかに隠れた?」

「可能性は高い」


 獅堂が床を叩き始める。

 コンコン、と音を立てて、床の各所を叩いていく。

 そして――


「……ここだ」


 獅堂が立ち止まる。

 床の一部。

 他の部分と、微妙に音が違う。


「空洞がある」


 獅堂は目を見開いた。


「床下に空間がある。しかも、この教室だけ」


 吉宗ちゃんが床を踏む。確かに、軋む。


「マジですか。うん確かに……」

「これは……調べてみる必要があるな」


 獅堂が雫ちゃんにに連絡する。


「雫、この校舎の建築図面を確認できるか? 床下構造について知りたいんだが」

『あ、はい、わかりました、調べてみます』


 数分後、彼女から着信。


『管理者さんに確認しました。この校舎は1972年建築です。当時の設計では、配管工事用の点検口と空洞が各教室に設けられていたそうです』


 ……すごいな。雫ちゃんは探偵に向いていそうな気がする。


「各教室に?」

『はい。ですが、1985年の大規模改修で配管システムが刷新され、点検口は全て床板で塞がれました。その際、設計図も更新され、旧来の床下構造は記録から削除されたそうです』


 獅堂が眉をひそめる。


「つまり、2012年当時、この床下空間の存在を知っていた人間は――」

『ほとんどいなかった……んだと思います。学校関係者も、改修後に赴任した人ばかりみたいから』

「だから警察も気づかなかった」

『そうだと……思います。密室の教室内部を徹底的に調べてけど、床下の古い構造までは調べなかった……んじゃないかと」


 獅堂が頷く。


「だが、陽菜は知っていた。そして、13人も」

「どうして知ってたんですかね?」


吉宗ちゃんに僕は答える。


「詩織さんの日記に書いてあった。『陽菜ちゃんが隠れていた、床下』って」

「つまり、陽菜は偶然この床下を見つけて、いじめから逃れる隠れ家にしていた」

「そして、掃除当番の時とか、13人の何人かがそれを目撃していた」


 獅堂が続ける。


「だが、誰も助けなかった。誰も、声をかけなかった」


 吉宗ちゃんが俯く。


「だから、13人は罪悪感を感じてたんですね……」


 獅堂が工具を取り出す。

 バッグから、バールを取り出す。


「床板を剥がすぞ」

「お、おい?」


 僕の制止も聞かず獅堂がバールを床板の隙間に差し込む。

 そして力を込める。

 ギシギシと音を立てて、床板が浮き上がる。

 吉宗も慌ててそれを手伝った。


「せーの」


 二人で床板を持ち上げる。

 板が外れる。

 そして、現れたのは――


「な……っ!?」


 暗い空洞が、そこにあった。


 深さは約1.5メートル。

 獅堂が懐中電灯で照らす。

 そして、その底に。

 白骨化した遺体が、折り重なっていた。


 ――13体。


「うっ、わああああ!」


 吉宗は叫びを上げた。後ずさりし、壁に背中をぶつける。


 僕は――遺体を見つめていた。

 ――想いの痕跡が残っている。

 後悔。

 悲しみ。

 諦め。

 だが、同時に――

 安堵のような、何か。

 彼らは、ここで陽菜に謝ろうとした。

 そして、死んだ。

 ――僕は知っている。

 あの映像で見た。

 ただし、映像は教室内での儀式部分だけだった。

 床下に入る場面は――映っていなかった。


「獅堂」

「なんだ」

「あの流出した映像、覚えてる?」

「ああ」

「あれ、42分だったよね。でも――」


 僕は床下を見る。


「床下の場面は、映ってなかった」


 獅堂が頷く。


「そうだな。映像は教室内での儀式で終わっていた。最後は、誰かの『お母さん……』という呟きで終わる」

「つまり、13人は床下に降りる前にカメラを止めた。あるいは――」

「流出させた人間が、意図的に床下部分をカットした」


 吉宗ちゃんが震える声で言う。


「なんで……なんでカットしたんですかね」

「わからない。だが、おかげで13人の遺体の場所は、誰にも知られなかった」


 僕は呟く。


「だから、14年間も――誰も気づかなかったんだ」

「なんで、こんなところに……」

「それが、俺たちが解明すべき謎だ」


 吉宗ちゃんの呟きに、獅童が答えた。


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