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白い水着とニャーと鳴く生き物

 海から吹く潮風が、海独特の匂いを運んでくる。この匂いを嗅ぐと、海に来ていることを実感させられる。

 今2人は海に面した街に来ていた。海水浴場が有名な街で、海水浴客で賑わっている。この街にいる人口の半分以上が海水浴客だから驚きだ。

 では、なぜ2人はこの街にいるのだろうか。

「なんか、しんみりしたいなぁ。そうや、海が見たい」

 突然、サナエがこんなことを言い出したのがきっかけでこの街に来ることになった。この発言には特に理由はなく、なんとなく海が見たかっただけである。

 この街にも役所があるので一応訪れることに意味はあった。しかし、それは二の次で、マルがこの発言を受け入れた本当の理由は季節が夏だからである。

 夏と言えば、あなたは何を想像するだろうか。夜店が並ぶ花火大会、浴衣姿のカップル、蝉がざわめく緑に染められた森を走りまわる少年達。

 色々とあるが、マルの頭に浮かんだのは、将来のお嫁様が、海で波に水着をさらわれるドッキリわくわくポロリハプニングだ。彼の脳の35インチの妄想専用テレビに手ブラの女性が映った瞬間。

「行こう。今すぐに行こう。召喚者なんてどうでもいい。今すぐだ今すぐ」

 と鼻息を荒げたマルはサナエの腕を掴み、男の夢を求め走り出した。


「いやっほぉーうーみーやああ。」

 太陽の光を反射する白のビキニを装着したサナエが海に向かって全力で走りだし、海に飛び込んだ。水しぶきが飛び、それが太陽の光と調和し美しい虹を作りだす。

「うーみーはーひろいーなーおおきーなー」

 ご陽気に歌を歌ってるサナエは自分に向けられる多数の好奇の視線に気づかず、平泳ぎをしている。視線を集めている理由は、サナエが歌っているからではない、まあそれでも視線を集めるには十分だが。好奇の視線の理由はサナエの持つボディラインのせいだ。

 空手で鍛えられた体はモデルのように均整がとれている。胸が大きいわけではなく全体的に引き締まったスレンダーな体だ。その体は周りの水着ギャルの中でも異彩を放っていた。本人は気付いていないようだが、周りの男どもは皆頬を赤く染めており、女どもは嫉妬の眼で見ている。体は大人、頭は子供、逆コナンである。

「おい、あまり暴れるな、周りに迷惑だろ」

 トランクスタイプの水着を着ているマルが注意をした。常識人のような行動を取っているが、彼はすでに、この短時間で30人もの水着ギャルに声をかけ粉砕している。決して顔も体形も悪くない彼だが、いかんせんしゃべり方が好みの女性の前になると馬鹿になってしまう癖があった。今回もその癖が作動し、頬に平手の痕を残す結果となった。

 やはり、第一声が

「俺の、未来のお嫁様ああああ」

なのがいけないのだろう。頬をさすりながら、クロールで高波を作り周りの人間を吹き飛ばしているサナエを見つつ、もう帰りたいと思っていた。

「ピピピピッ。84 60 85。なかなかの数値だ。まさかあいつがこれほどのスタイルをしているとは思わなかったな。・・・中身がなぁ、もうすこし、素直でかわいらしいかったらなぁ、もったいない。残念。ピピピピッ、むっあそこに95 62 88のグラマラスな女性が」

 生まれながらに持っている女性の天敵になるであろう3サイズスカウターが作動した。意思とは関係なく、マルの足は、赤い水着を着たボンキュッボンの女性のもとに走って行く。

 マルが海に居た女性約100人に声をかけている間、サナエはずっと海で泳いでいた。

 彼女の起こす高波で、溺れる者が続出しライフセーバーは大忙しだったようだ。


「いやー満喫満足、大満足やわ・・・ところで、顔どうしたん?」

 心おきなく海を満喫し、海の家特製の、かき氷メロン味を楽しんでいるサナエは、マルの顔がえらく腫れていることに気がついた。

「・・・ドッジボールで6年生のボールが顔面に当たったんだよ」

 ルール上顔面ならセーフであるが、マルの顔面のボロボロ具合はアウトである。

 意味の分からない言い訳をするマル。

 しかし、彼の顔の腫れ具合はその程度でできるものではない。いくら6年生のボールが速くても、たかだか高学年である、それほどの威力があるとは到底思えない。顔の状態は、両目は腫れ上がりまったく開いていない。そして、頬は殴られた衝撃でへこみ、唇はたらこのようになっていた。

「アナゴさん・・・」

「違うわ、誰が27歳の老け顔の嫁の尻に敷かれているマスオさんの同僚だ」

「相変わらず、変な所に詳しいな。しっかし、どうせその顔の傷はナンパした女にヤクザみたいな男がおって、その男に殴られそうになったから、走って逃げてんたら、走った先にはバナナの皮があって、それを避けたら、5歳の女の子がおってその子にぶつかり、その保護者のお母さんにロリコン変態野郎に間違えられて弱パンチから始まるエアリアルを使ったコンボでやられたんやろ」

「見てたな」

「どこかの誰かさんが相手してくれへんかったから暇で暇で仕方なかったからなぁ」

「うむ、すまんな。どっかの洗濯板の誰かさんと違って胸の大きなナイスバディのお姉さま方がたくさん居たからな」

「ふーんそうですか・・・おい、受身取る準備しとけよ」

「へっ?」

 サナエは軽いフットワークでマルの後ろに回り込みドラゴンスープレックスを決めた。鍛えられた腹筋と背筋により形成されたブリッジはとても美しい。


 この街の港で取れる巨大サザエが名産品であり、それを一度食べてみようと言う事で着替えた2人は港に来ていた。サザエが焼けるのを待っている間2人はボーと海を眺めていた。

 ニャーニャーニャー。

「んあ、ウミネコや」

 港の上空をウミネコが元気よく飛んでいた。どうやら、漁師が捨てる商品として扱えないキズ物の魚をもらおうとしているようだ。

「ウミネコ?なんだそれは」

「何って、あれやん」

 サナエが空を旋回している鳥を指差した。

「あの鳥か、あれはウミネコと言う意味のわからん名前じゃないぞ」

「へっ?」

「あれはネコだ」

 意味のわからないことを言い出すマル。

「どういう事?あれがネコやったらあれはなんやねん」

 漁師にもらった小魚をはぐはぐ食べている子猫をサナエは指差した。しかし、その子猫はとても愛らしい顔をしていて、今すぐにモフモフしたい魅力を持っている。

「あれは、リクネコだ」

「リクネコ!?」

「ああ、空を飛んでいるのがネコで、あれは陸に居るからリクネコだ」

「なんでぇ、ニャーはネコ・・・ああややこしいからここはリクネコって言うとくわ、そのリクネコがニャーって鳴く声に似ているから、飛んでるネコはウミネコって言ううんやろ」

「いや違うって、最初に確認されたのがネコで、リクネコは後だ」

「ええ!?」

「知っているか、元々リクネコはニャーじゃなかったらしいぞ」

「うぇえ!?」

 新しい事実ばかりでサナエは軽く混乱している。

「なんでも、昔、海付近に住むリクネコは食糧不足で困っていたらしい。そこで、やつらが目をつけたのがあのネコだ。しかし、やつらは空を飛んでいて、近づくことが難しかった。そこで、リクネコはネコの仲間と惑わせるようにニャーと鳴くようになったようだ」

「うん?つまり、仲間と思わせて油断したところをガバッと行くってこと?」

「そうそう。この世界はそう言う事が多いんだよ。例えば、港付近に住んでいた生き物で、これまた食糧不足で困っている生き物が居たんだ。そこでその生き物が目をつけたのはリクネコだ。それ以降、その生き物はリクネコ食いと呼ばれている」

 そう言って、マルは港の食料店の檻に入れ売られているワニを指差した。失敬、この世界ではワニではなくリクネコ食いだった。指差されたリクネコ食いはニャーと鳴いた。

「なんや、ややこしいなぁ」

「うむ、つまり同じ鳴き声の生き物は何かしら食物連鎖の関係あるんだよ」

「へぇ」

「1つ話をしてやろう」

 マルは一息おいて、神妙な面持ちになった。

「話?」

「ああ、これは『ラムダ警護団夏のドキッ男だらけの水泳大会ポロリもあるよ』の時に宿で先輩から聞いた話だ」

 筋肉隆々の男だらけのむさ苦しい見たくもない水泳大会だ。しかし、これはマルの話にはほとんど関係ないのでここではスルーさせてもらう。

「先輩の実体験なんだがな、昔その先輩は夜の山の見回りの任務に就いていたんだ。なんでも、山で遭難してしまった人がいたら助けたり、山賊を見つけたりするのが目的だったらしいんだ。その任務について2年目くらいかな、先輩がいつものように森を明かりを照らして歩いていると山の奥から声がするんだよ」

「ちょっちょっと、それって恐い話?」

「おーい、こっちだよーって声がしたらしいんだよ」

「無視かい、私そう言うん無理やって」

「まあ、いいから聞けって」

 今にも逃げ出したそうな涙目のサナエをなんとか逃げ出させないように腕を掴み制止させる。

「それでだ、先輩は、もしかしたら遭難をした人が助けを求めているんじゃないかと思ったんだよ。それで、先輩は声のした方に走って行ったんだ」

 ゴクッとサナエが生唾を飲む音がした。

 今は時間で言うと夕方でまだ、周りに人が結構いて色々な音がするのだが、サナエとマルの耳には全く届いていないようだ。なんやかんやで、サナエも嫌だと言っているがマルの話に聞き入っているようだ。

「先輩が声のした場所に着くと誰もいなかったらしい。なんだ、空耳かと先輩は翌日に耳鼻科に行こうと考えていたら後ろに気配がしたんだ」

「けっ気配がして?」

「そこで、勇気を出して振り返ったら・・・顔面しわだらけの獣のような牙をもった老婆が立っていたんだ!」

「ひぃい」

 それほど怖い話ではないのだが、サナエに恐怖を与えるには十分だったようだ。

「先輩は無我夢中に走り出してなんとか、仲間の居る山小屋に逃げ込んだらしいんだ。そして、さっきした体験を話したらしいんだ。すると、先輩のさらに先輩がこういったらしいんだ。その老婆は幽霊じゃない、この山にする人間を喰らう魔物だって」

「魔物?」

「ああ、つまりだネコとリクネコと同じように、俺達を喰らうために俺達の言葉を使う生き物が居るってことだ。それら人間を喰らう生き物を総称して魔物って呼んでいるんだ。これからの、旅もしかしたら遭遇するかもしれんから気をつけろって話だ」

「よかった・・・幽霊やないんや、それなら実体あるから殴ることできるんやな。でも、しわだらけの老婆がいきなり後ろ立ってたらめちゃくちゃ恐いな」

「ああ、考えただけでもぞっとする」

 先ほどの話を自分が体験することを考え身震いする2人の、背後に人影が迫っていた。その人影はまだ、恐怖のさめていないサナエの肩を後ろから掴み

「あの・・・」

 肩を掴まれ驚いたサナエはゆっくりと振り返った。そこには先ほどの話に出てきた老婆と同じようにしわくちゃの白髪交じりの老婆が立っていた。

「いっいやあああああああああ」

 心拍数が一気に上昇し、恐怖ゲージが極限まで溜まったサナエは、正面に立っているマルに向き直り、マルの髪を掴み、全力で走りだした。

「いた、いたたたたた、痛いから、あの本当に禿げるからねぇ、ちょっとああああああああ」

 髪の毛が毛穴から抜ける音を聞かされながら、マルは改造モーターを搭載したミニ四駆のごとく疾走するサナエに引っ張られ、宿へと連れ去られていった。

「あの、お客さん、サザエ焼けたんだけど」

 港の看板娘のトメさん87歳が焼けたアツアツのサザエを皿に乗せ、走り去っていく2人をただ茫然と見つめていた。



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