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流されちまった2人の少女

 日が昇り、一面を太陽が自分色に染め始めた頃、サナエは目を覚ました。雀のさえずりが心地よいアラーム音だ。一度体を捻り、大きく伸びをした。腰の骨が鳴る音が微妙だったため、もう一度捻ってみる。しかし、腰が鳴ることはなかった。気持ちの良い目覚めとはいかなかった。

 傍らでうずくまり眠っているアイコを起こさないように、ゆっくりと立ち上がり、近くを流れる川へと向かった。川は先日の雨のせいか流れが急になっていた。

「はぁ。変な夢見たなぁ」

 鯖人間対鮎人間の抗争に巻き込まれ、ようやく解決したかと思えば鮪人間が現れ、戦っていた鯖人間、鮎人間が手を組み鮪人間と戦うと言ったところで目を覚ました。

「生足が気持ち悪かったなぁ」

 登場魚人全てがツルツルの生足を体から生やしていたのだ。しかし、魚人たちが使う拳法は何か実戦で利用できるかも知れんと考えた。

 川辺に座り顔を洗い始める。水の冷たさにより、徐々に頭が覚醒していく。

「ぷっふぅ。うんあ、タオルタオル」

「はい」

 用意し忘れていたタオルが差しだされた。タオルはなかなかのフワフワ加減を保持していおり心地よい拭き加減であった。

「あっありがとう・・・・・・って誰!?」

 アイコはまだ眠っているし、マルは昨日の失言により木に縛りつけている。じゃあ、誰なのだろうか。

 ゆっくりと顔を覆うタオルをずらし、自分に親切にしてくれた名も顔を知らぬ人の顔を確認した。

「あっ・・・えっと・・・誰やっけ?」

 その言葉が対象の人物に届くと同時に、サナエの首元に短剣が突き付けられた。良く研がれているようで、飛んできたハエを華麗に真っ二つにした。

「・・・・・・忘れたの?」

「あああ、えええぇと、ああ、クイナやったけ」

「・・・・・・そう」

 クイナが短剣を下した。以前サナエの命を狙った凄腕の殺し屋である。いきなり剣を抜くやつがあるか、なかなか常識外れの奴やなとサナエは思った。

「なんで、あんたがここに」

「・・・・・・仕事」

「仕事・・・・・・まさかまた私を襲う気か!?」

 急いで距離を取り、タオルを構えた。タオルを鞭のようにしようと考えているようである。

「違う、人を殺す仕事じゃない」

「ふーん。殺し屋やのに」

「この業界も不景気で、仕事を選んでいる余裕はない」

「現実離れした仕事やのに、妙に現実的やな。でなんで私の前に現れたんや」

「歩いていたら偶然見かけたから」

「なんや寂しがりか」

「・・・・・・」

「まあ、ええわ。タオルありがとう。それじゃあまた」

 タオルを返し、サナエはキャンプ地へと歩いて行こうとした。

「なに付いてきてんねん」

 サナエの後を追うように、クイナも歩いていた。足音を一切立てず気配も絶ち、サナエが10歩程歩きやっと気付くほどの抜き脚であった。

「・・・・・・まだ、決着付いていないから」

「げっ、そう言えばまた襲ってくるって言ってたな。言っておくけど、もうやらんからな。絶対にあんたとは」

「・・・・・・なんで?」

「なんでって、嫌やよ。あんた強いもん」

 前回戦った時、サナエよりも体力面技術面において圧倒的にクイナが勝っていた。サナエが勝てたのはクイナの油断と奇襲のおかげであった。

「・・・・・・でも、負けて終わるのは癇に触る」

「剣出すな剣を。うーん。じゃあ、ちょっとこの石握って」

 河原にあった石をサナエが、クイナに差し出す。怪しむことなく素直にクイナは受け取った。

「ええか、そのまま握っててや。いくでジャーンケンポイッ」

 サナエがチョキを出し、握ったままのクイナの手はグーの形をしていた。

「あっああ! 負けてもうた。いやぁ強いなぁクイナさんは・・・・・・これじゃあかん?」

「・・・・・・デコピンさせてくれるなら納得してあげる」

「結構あっさり納得したな。・・・・・・切られるよりも数倍マシやな。さあ来い」

 髪をかき上げ、デコを無防備にする。そして出来る限りダメージを減らそうと眉間に皺を寄せた。

クイナは、手を構え、サナエのデコの前に止めた。どうやら、中指を親指にひっかけて行う、スタンダードなデコピンである。

 サナエはデコに神経を集中させ、襲いかかってくるであろう痛みに備えた。目を瞑らずしっかりと瞳を開き、力を込められた中指が放たれるのを待った。

 いつだ、いつ放たれるんだ。意識を集中させ、中指の一挙一動を見逃さないようにしている。しかし、一向に放たれることが無い。サナエが集中し始めて1分が経とうとしている。

「ちょっ、はよ、せえ、ぎゃあっ」

 サナエが集中を切り、文句を言おうとした瞬間、クイナの全力のデコピンがサナエに放たれた。放ったクイナも驚くほどの会心の一撃であった。最も威力を伝えることのできるタイミングで中指がサナエのデコにクリーンヒットしたのだ。生涯最高のデコピンであったと後日クイナは語ったそうな。

「ぬうううあああ!」

 デコを押さえ、悶え苦しみ続けるサナエ。

「満足」

 頬を赤く染めクイナは満足そうに息を鼻から吐いた。

「そっそうか・・・・・・もう一回だけジャンケンしやん?」

 真っ赤に腫れたデコを撫でサナエは再戦を要求した。なかなか痛みが取れないようでずっと撫で続けている。

「・・・・・・うん」

「「ジャーンケン」」

 サナエチョキ、クイナグー。

 同じ個所に追撃を受けサナエは悶え苦しんだ。  


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