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水の街の水産者(5)

サンタフェを携え、街を歩き回り始めた。探すものは黒色腕章の水産者、水のカタログに描かれていたサラエボの顔、ミリーがサラエボを見つけたであろう路地、この3つである。

 とりあえず、この3つの中で1番簡単であろうと思われるミリーがサラエボを発見した路地を探すことにした。まず現在分かっていることは、ミリーの家からマルの待つ待ち合わせ場所までの道の途中であると言うこと。

仲間を呼びに行ったので本部にもその連絡が伝わっているかと思われたが、緊急のことだったので本部に居た団員全員が連れて行かれ、当時のことを知る全員が殺されてしまったのだ。

仕方なく、辺りを見渡しながら歩き回るしかないのだ。だが、マルにはある程度確信があった。先日、サナエとアイコが見つけたサラエボの事務所である。今は看板が外され、空き物件として扱われているが、ミリーの家から待ち合わせ場所の道中に有ると言う条件を満たしていたのだ。

 サラエボの事務所だった場所に行くと、近くに設置されていたごみ箱がへこんでいる。まだ新しい傷だと思われる。それに、乾いた血液も少しばかり付着している。どうやら、ミリー達が戦った時に付いたものだろう。

「どうやら、ここで間違いないな」

 ドアに耳を当てると中から話し声が聞こえる。会話が成立していることから2人以上いるようだ。

「さてと・・・」

 サンタフェを抜き、一閃。一拍置き、ドアはいくつもの木片へと姿を変えた。

「なっ!?」

 ドアがなくなり入口はすっかり吹き抜けになっている。そこには黒色腕章の男が2人立っていた。

「ハロー」

 挨拶をするや否や、サンタフェは2人を打ちのめしていた。切ることなく、側面でどついたのだ。

「さて、聞きたいことがあるのだが。サラエボはどこだ。抵抗せず言ったほうが身のためだと思うが」

 首に刃を当てられて断るやつはいないだろう。よほど忠誠心があれば別だが、この水産者は金で雇われているにすぎないのだ。いとも簡単に口を割った。


「くそっ、どうするんだ。もう俺は終わりだ。なんてことしてくれたんだお前は、ラムダの人間を殺すなんて!あいつら血眼になって犯人を探しているんだぞ」

 髪を乱し、サラエボは男に食ってかかった。現在サラエボは、エイモンの襲撃から命からがら逃げだし街外れに持つ自分の倉庫に隠れていた。

「しょうがないでしょう。エイモンの手先だと思ったんだから。それにラムダにしても、遭ったらまずかったはず。こういうことをさせるために俺を雇ったんでしょ?そこは割り切ってくださいよ。エイモンを襲った時点でこうなることを覚悟しておくべきだ」

 サラエボの威圧的な攻めにアーツは動じずに言い訳をした。アーツの腕には黒色腕章が付けられていることから彼も水産者であることが分かる。ただ、どうやら彼は水産者ではなく暴力の方が専門のようだ。

「くっ。いいか、これ以上俺の不利になるようなことはするなよ。なんとしても俺を犯人と分からないように名」

「へぇへぇ・・・そうですね、代役で立てましょうか?パンクがその辺に山ほどいるんでいくらか金を積んだら喜んで出頭してくれますよ」

「そうか、それがあった。よしそれでいこう」

「了解。ところで、エイモンがサラエボさんを襲撃するのに雇ったのは街の外の山賊らしいですよ」

「そいつらが来てもお前は勝てるのか?」

「もちろんですよ。あの時は俺がいなかったから逃げるようなことになりましたが俺が居たら返り討ちでしたよ。それに今回は結構な人数を集めましたから、負ける気はしないですね。エイモン達をやっちまって、後はラムダ殺しの代わりを出頭させればサラエボさんの天下ですよ。その後少し金を積んでくれたら俺たちは何も文句ないです」

「頼むぞ。高い金を払っているんだからな」

「わかってますよ。この仕事で俺らは食ってんだから。信用問題にかかわりますからね、がっちり仕事させてもらいますよ。もう貧乏暮らしの黒色腕章はコリゴリだ」

 机の上に置かれている水を飲み、アーツは椅子に座った。ビンにはサラエボの字が書かれている。

「おや、どうやら来たようですよ。思ったよりも早かったなぁ」

「何を言ってるんだ?お前は」

 すると、倉庫の扉が開かれ、山賊を従えたエイモンだ立っていた。

「へぇ、ここにいたんだ。兄さん」

「エイモン」

「正解。ちょっとさあ、兄さん、逃げないでよね。手間かかるんだから、さっさと降参して、殺されてくれよ。兄さんもがめついんだよ十分稼いでいるんだろ?別に僕が居てもいいじゃないか」

「何言ってやがる。ただ俺が先に行動を起こしただけだ。お前も俺を殺そうとしていただろうが」

「それも正解。昔からだよね、いつも一歩兄さんが早いんだよ。それが僕は大っ嫌いでね。殺したいくらい。というわけで、兄弟の感動的な再会の場面もなくて悪いんだけど」

 エイモンが手を挙げると、続々と武器を構えた男たちが入ってきた。

「俺の名はアルト」

「僕はイルト」

「エルト・・・後、この写真はウルト兄ちゃん」

「「「3人合わせて、あ行三兄弟」」」

「ふふふ、決まった」

 サナエとマルを襲った山賊達であった。どうやらこんな遠方まで出張に来ているようだ。

「てめえら黙ってろ。エイモンさんよ、あいつらを全員殺すのか?」

 悦に浸っていたアルトの頭を一蹴したのはこれまた懐かしい鎌使いのレイトルであった。彼らのことを知らない、忘れたという方はファイトオアエスケープ?イエスッ!エスケープを参照してください。

「うーん。サラエボ兄さんだけでいいんだけど、僕の顔見られてるからなぁ。報酬は弾むから全員やっちゃって」

「あいよ」

 レイトルが鎌を取り出し、臨戦態勢に入った。アルトとイルトも剣を取り出し、エルトも急いで写真をしまい、剣を取り出す。合図があればいつでも飛びだせるようになっている。前かがみになり足先に力を込める。

「ふーむ。4人か、こっちよりはるかに人数が少ないなぁ。おい山賊ハンデをやるよ。武器を使わないでおいてやる」

 そういうとアーツ達は武器を地面に落した。

「てめえら何を考えてんだ」

「ハンデだよハンデ。人数はこっちのほうが多いんだ。これぐらいのハンデがないとやりがいがないからなぁ」

「よっしゃ」

 ガッツポーズのアルト。

「ラッキーだね兄ちゃん」

 同じくガッツポーズのエルト。

「ちょっと腹が立つけど」

 少しだけプライドを傷つけられたイルト。

「ふざけんな。てめえら武器拾え。拾わねえと殺す」

 殺そうとしている相手に殺すと脅していると矛盾を言い放つレイトル。

「分かっていないなあ。こっちは楽しみたいだけなのに、君たちくらいならこれくらいが丁度かと思っているんだよ」

 アーツは相手を馬鹿にするような表情を一貫として崩さない。それほど自分の実力に自信があるようだ。

「おっおい、アーツお前、なにしてるんだ」

 できる限り安全な位置であるアーツ達の後ろに隠れるサラエボは声を荒げた。

「大丈夫、心配しないでください。金はもらっているんだちゃんと守りますよ。ただ、俺たちは戦うことが好きなんです。殴るのも殴られるのも斬るのも斬られるのも、突くのも突かれるもの全部好きなんですよ。数少ない命のやり取りだ。楽しまないと損だ。とくにあの鎌男、あいつは上玉だ」

「ひゃはっはっはっ、なるほどなるほど、ただの戦闘ジャンキーか・・・いいぜぇ。気に入った。おい武器を持て、お前らが武器を持って初めて俺と対等だ」

 どうやらレイトルは3兄弟を数に入れていないようだ。しかし、6人もいる相手に向かって立った1人で十分というレイトルもかなりの自信があるようだ。

 レイトルは鎖鎌を振り回し放った。しかし、鎌はアーツ達のほうには向かっていない。金属同士がぶつかる音がし、アーツ達が捨てた武器が宙を舞い、それぞれの手元に飛んでいった。

「へぇ、器用だなぁ」

「ああ、どうだ?使いたくなったろ」

「・・・そうだね」

「それでいい。手加減している奴なんか殺しても面白くもないからな」

 レイトルはアーツ同様余裕の表情を作っているが仲間のあ行3兄弟はそうでもなかった。

「ああああ、レイトルこの野郎なんてことしやがんだ。せっかくの大チャンスなのによお」

「どう見てもあの男は僕たちより強い。素手ならまだ勝てたかもしれないけど」

「ううう、ウルト兄さんもうすぐそっちに行くかも」

 3人共々弱気の及び腰である。エルトなんて自分達の写真を額縁にセットし始めていた。

「縁起でもねえぇ!」

「アルト兄さんどっちの写真がいい?僕はこの髪の毛を掻きあげている方が好きだけど」

「そうだなぁ、俺はこっちのひげを整えているところかな」

「あっそれもいいね。兄さん写真映えするよね」

「そうだろうそうだろう。女たちは分かんねえんだよなこの俺の魅力がよお」

「今話している場合じゃないんだと思うけど。ちなみにエルト、僕はそっちの白目で寝ているアルト兄さんの方が死を暗示しているようで好きだな」

「うるせぇな。てめえら真面目にしやがれぇ、ぶっ殺すぞ」

 いつもなら迷わずボコボコにするところだがレイトルもある程度アーツの実力を認めているのである。一対一なら、なんとかなるかもしれない、しかし、向こうは6人もいるのだ。その数の差を少しでも埋めるためにあ行3兄弟を欠かすことはできないのだ。

「ねえ、もう漫才は終わった?そろそろやろうよ」

 受け取った武器を構え、アーツが声をかけた。アーツの持つ武器は極々普通の剣タイプだが、柄に刃が付いているのだ。

「ああ、おい、てめぇら俺はあのアーツって野郎をやる。お前ら、なんとかして残りのやつらを倒しな。いいか、俺たちの戦いに邪魔が入ったら、てめぇら殺すぞ」

 3人で5人倒さねばならないというかなり実現不可能に近い注文を要求された。しかし、断れば殺されることは分かっている確実な死よりも、まだ未確定の死を選ぶ方が賢い。それを察した3人は腹を括った。

「くそったれ行くぞ弟達よ」

「なんとかするしかないね」

「なんとかなるよ。兄さん、ウルト兄さんが助けてくれるよ」

 レイトルが姿勢を低くし、臨戦態勢に入った。鎖を左手に右手に鎌を持ち、突進する。

「行くぞぉ!」

「来い」

 数回レイトルの頭上を回った鎌は遠心力を味方にものすごい早さを身に着けていた。動くごとに空気を切り、鎌のケツに付いているはずの鎖が肉眼では捉えられないほどであった。レイトルの腕の動き、視線を見て鎌の動きを予測し、アーツはギリギリで避けた。そして、何度も放たれる鎌を避け続けた。少しずつ距離を縮めていく。そして、遂にアーツは武器を振るった。ピンポイントで鎌をはじき返したのだ。予想外の力を喰らった鎌の軌道は乱れ、先ほどまでの力を失っていた。レイトルが鎌の制御に力を入れるその隙に、アーツは一気にレイトルの命を取ることのできる間合いまで入った。

「もらった」

 武器を横振りし、レイトルの胴を狙った。しかし、武器は胴に傷をつけることはかなわず、鎖鎌の鎖にその軌道を妨げられた。そして、いつの間にかレイトルの右手に戻って来ていた鎌がアーツに向かって振り下ろされる。大きく後退し再び距離を取り、アーツはその攻撃から逃げた。その時、武器を引き柄の刃でレイトルの腕に傷をつけた。

「ふぅ。やるね、山賊さん。今のはもらったと思ったのに、たったかすり傷しか負わせられなかった」

「あぁ。てめぇもなかなかいいじゃねぇか。楽しくなってきたぜ」

 2人がさらにボルテージを上げていく。

「ぬあああああ。逃げろ逃げろ。とにかく避けろ」

 3兄弟は相手を倒すことに専念せず、ただ死なないようにする戦い方を心がけていた。正面から迎え撃てば死角から攻撃されることが目に見えているからだ。よって3人背を向け合いかたまって戦っていた。そして、少し攻撃すれば全力で距離を取るという作戦であった。レイトルがさっさとアーツを倒し、そして、ついでに今戦っている敵を倒してくれるであろうと言う目論見である。3兄弟とくにアルトはレイトルのことが大嫌いなのだがレイトルの実力だけは認めていた。だから、アーツを倒すと信じていてこの作戦を取ったのだ。

「早くやっちまえレイトル!」

「黙ってろ。うんなこたぁ分かってんだよ」

「でも、俺が思っていた以上に強いからなかなか倒せないって?」

「勝手に邪推すんじゃねぇよ。そんないいもんじゃねぇ。タダもの足りねえからゆっくりと味わってんだよ」

「本当に口だけは達者だね」

「だけじゃねぇよ」

 再びレイトルが鎌を回し始めた。その時、倉庫の扉が音を上げ、縦に真っ二つになり何の仕事ももたないタダの鉄屑に変わった。

「なんだ!?」

 サンタフェを構えたマルであった。その表情は無表情で何を考えているのか全く掴めない。

「お取り込み中失礼する」

 マルの口の筋肉だけが動いた。


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