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水の街の水産者(2)

というわけで3人は紋章確認ついでに役所で腕章一覧表を手に入れた。

 当然のごとく紋章登録簿はいつも通りどのページを開けばいいのか迷っていた。結構ボロい登録簿のため耐久力がなく、数ページが飛んでいった。

「ほうほう。結構な種類の腕章があるんだな」

一覧表には緑が飲み水、青が植物用、緑色が飲料水、白が塩水。黒がその他の用途に用いられる水であった。

主に黒の腕章を付けている水産者が多く、緑が一番少ない。飲み水の清潔基準は高く、それに適用するような清潔な水は滅多にいないためだ。

「ほんまや。そういえば、緑付けてる人の服装は高そうやったしな」

 逆に黒の腕章をつけている水産者は大量生産されている安物の服やマントを多く装着していた。

「うむ。通りで先ほどの水産者からセレブ感があふれ出ていたのか、ほら見てみろあれなんて有名ブランドのマントだぞ。あれだけで俺の給料3回分だ」

 サナエはかなりの額を取られたことを思い出した。あれだけの水であれほどの額を奪い取るのだ。自然とセレブになっても不思議ではない。

「ねぇ、サナエあの腕章はなんだろう。灰色だよ。白色が汚れたのかな」

 サナエの袖をひっぱりアイコが指差した。アイコが言うような白色が汚れたため作られた灰色ではなく、業者によってきれいに染められた灰色である。

「それはだな。なんでも水を作り出せなくなった水産者のようだ。パンクと呼ばれていて水産者再生学校に通うようになっているようだ。全員が回復するわけではないが、それでも何人かは回復しているらしい」

「ほな、回復せえへんかった人は?」

「もちろん水産者を続けることはできない。まあ水産者の中には貯めた金で起業したりして副業で稼いでいたりするそうだが。大体のパンクは水産以外できないからホームレスになることが多いそうだ。それに水産者はこの街では高い地位に位置付けられているそうだから、偉そうにしていたやつはホームレス社会でも村八分状態らしい」

 この街は水が豊かで美しい街ではあるが、その反面格差がひどく、あたりを見渡すとホームレスが必ず視界に入るほどだ。

「おっ、この街の歴史が書いてあるぞ」

およそ100年前までこの街は水不足であえいでいた。雨が一向に降らず次々とこの街を離れる者が続出した。作物も取れずにこの街はもう長くないと思われていた。

しかし、ある日1人の男が現れた。その男は、気力を無くした民衆に声をかけ、自分に注目を集めた。そして、手のひらを空へ向けた。すると、男の手のひらから大量の水が放水された。その日以降この街を悩ます水不足を解消する水産の技術が伝わった。

「ほうほう、どうやら水産は魔術の1つのようだな。しかし、水を作り出すような魔術など聞いたことがないがなぁ」

「伝えた男の人のオリジナルなんちゃうん?」

「そうかもな。でもオリジナルの魔術は相当な魔術師じゃない使うことは難しいんだがな。そんなホイホイ使えるものなのかなぁ」

3人はクタクタの体を休めようと今日の宿を探し始めた。

すると、どこか遠くのほうから男の叫び声が聞こえた。

「聞こえたか?」

「うん聞こえた」

「どうする?」

 空耳であってほしかった。

「・・・ゆっくりとお風呂に入って、フカフカのベッドに入ってアイコを愛でながら疲れをとるために寝たいからなぁ。やめとく?」

「そうだな。俺も熱いお湯に浸かって、その後ゆっくりとサンタフェの手入れをしたいからなぁ。最近サボり気味だから」

「こらぁ、行こうよ。助けを求めてるんだよ。一応主人公なんでしょ」

「主人公やから助けなあかんってそんな義務ないやろ。だいたい主人公やカラって正義の味方って定義どうかと思うで私は」

「いいから!行くの!」

 やれやれアイコはやさしいなぁと疲れすぎて行動を起こす気がなかった2人はアイコにひっぱられ、渋々声の聞こえた路地へと向かっていった。完全にスイッチをオフした自分たちのスイッチを入れ直した輩を粛正するために。


路地裏に入ると先ほど飲み水を売ってくれた緑色の腕章をした水産者が5人の男に囲まれていた。男たちは黒の腕章をつけていることから水産者だと予想することができた。黒色の割に、男たちは高価な服を着ている。マルの給料1回分といったところだ。

「何なんだ君たちは。失礼じゃないかいきなり腕を掴んでこんなところに連れてくるなんて。いいかい僕は緑腕章なんだぞ。偉いんだぞ。君たちのような黒腕章とは地位が違うんだ。僕が声をかけたら、君たちなんかこの街で生きていけなくすることなんか簡単なんだぞ。分かっているならさっさとそこをどいて」

自分で作った水を飲んで喉を潤しているのだろうか、ペラペラと言葉が出ている。

「黙れ。ペラペラしゃべる豚め。俺たちはそんな言葉を聞きに来ているんじゃない」

顔のエラが出ている男が無限に言葉を生産する水産者の口を手で覆った。

「エイモンよく聞け。お前は邪魔だ。この街から消えろ。以上だ」

「何を言って、ごぶぅ」

 エラ男の言葉を遮るようにしゃべろうとしたエイモンの言葉が止められた。

「黙れと言っているんだ」

 エラ男の掌から大量の水があふれ出た。掌がエイモンの口をふさいでいるため放出された水は逃げ場をなくし、エイモンの胃、口、鼻、目、いたるところからあふれてきた。

「がぼぼおっぼぼぐぼぉ」

 息ができず胃がはちきれんばかりの量の水が入ってきている顔面は蒼白である。死ぬこのままでは死ぬとエイモンが思うと助けが現れた。

「こらぁ、何やってんだぁ。それいじょうやるとあたし達が相手だぞ」

 身長140cm未満の少女アイコだった。まさか、こんな小動物に喧嘩を売られると思っていなかった黒腕章たちは微笑した。助けを求めていたエイモンが愕然とした。

「なんだ。おじょうちゃん。俺たちに喧嘩を売っているのかい。それとも俺たちに如何わしいお店に売られたいのかい?」

「喧嘩じゃないもん。成敗だ。ただしあたしじゃないけど。あんたたちを倒すのは、ヘイ!カモン!主人公(笑)達」

「サー!どうもどうも主人公(笑)どもです。このちっこいのに引っ張られて嫌々その暴行を止めにやってきました。ちなみに抵抗すると息の根を止めちゃうぞキャハッ」

「目が笑ってないぞ」

「あったり前やろこっちはさっさと寝たいねん。ほら、どうすんねん抵抗すんのそれともさっさとそこのペラペラ豚を放すのか」

 黒色腕章の男たちは一瞬にしてエイモンから離れた。どうやら相手の力量を見極める力は備えられているようで、かなわないと判断したようだ。まあ、笑顔で殺すと言っている奴が相手なのだから即座に逃げるだろう。

「ちっ行くぞ」

 リーダー格であるエラ男は一度エイモンを蹴り、いいかこの界隈から消えないと次はないぞと告げ街へと消えていった。素晴らしく雑魚らしい行動である。

 エイモンは口から大量の汚水を吐き出していた。さすがその他の用途のための黒腕章である。水が緑色である。いったい何に使うのだろうか。

「ワッショイ」

 胃を酷使し吐いているエイモンに追撃のボディーブローがサナエから放たれた。

「ウボロロロロロロ」

 さらに大量の汚水、胃液が吐きだされていった。

「よし」

「よしじゃねえ。何してんだお前」

「いや、吐くん手伝ってあげよかなって。ほら胃液出てきたからOKや」

「ゲホッゲホッOKじゃない。いきなりなにするんだ。君たちは・・・あっさっきのお客さんか」

 吐き終わりようやく顔をあげたエイモンは3人に気づいたようだ。

「さっきはどうも。大丈夫か一体何なんだあいつらは」

「ああ、多分僕の競争相手だと思う。目星も付いている。覚えていろよぉ。思いつく限りのこの世の苦行を味あわせてやる」

 メラメラと燃えているエイモンは助けてくれた3人に礼も言わずにそそくさ走り去っていた。

「なんやねんあいつ、礼も言わんと、これやから金持ちは、まったくブツブツ・・・んっ?」

 ぶつぶつ愚痴を垂れていたサナエは一枚の手のひらサイズの紙を拾った。

「なになに、あなたの日常生活に極上の飲み水を組み込んでは如何でしょうか?緑腕章所持の水産者サラエボ・ドーソン。なんやこれ名刺?」

 名刺に極上の飲み水と書く程自信があるようだ。言うだけのことがあり、サラエボはこの街で一番の稼ぎ頭である。ただ手売りをするだけではなく、業者と結託し、極上の水として商店で売られるようにしている。それが大変好評で、あっという間にサラエボはこの街一番の緑腕章水産者になったのだ。

「なんでこんなんあるんやろ」

「なるほどな」

 顎に手を当て、何かを察したようだ。サナエはなぜかそのしたり顔がイラついた。

「んっ、マルどうしたの?」

「どうやら、さっきの男たちはそのサラエボの手下なんだろう。さっきの男の水を考えるとあんな汚い水であの高そうな服を着るのは無理だろう。おそらくだがこのサラエボってやつに高い金で雇われているんだろうな。そして、サラエボはエイモンが稼ぎすぎて目障りなんだろう。だから奴らを仕向けて脅迫した」

「ほうほう、でもなんでエイモンだけ?」

「いや、もしかしたら他の緑腕章も脅迫されていたのかもしれんがエイモンもなかなかの性格の悪さをしているからな、他の奴よりもひどくされたのかもしれんな」

「なんで性格悪いって言えるん?」

「ほれ」

 マルが役所でもらった一覧表の水相場表を見せた。 先ほどエイモンから買った水は、一覧表に書かれた相場よりも5倍ほど高かった。

「なんあっ、ぼったくられた。あのハゲ・・・殺す。よく考えたらお礼も言わんかったし・・・2回殺す。フシャー」

 爪を立たせ今にも走り出しそうなサナエの袖をアイコがひっぱた。

「あたしは助けてもらったらちゃんと言うよ。ありがとうって」

「おうおうええ子やなぁ。アイコはよしよし」

「へへへ」

 撫でまわし過ぎてアイコの首が取れるのではないだろうか。しかし、アイコのおかげでサナエの興奮が収まったようだ。もしアイコがおらず、走り出したサナエがエイモンを捕まえることができなければ、その向ける先を失った怒りはマルに向けられるだろう。そのため、マルは胸をなでおろした。

「・・・ほら、それ以上なでるとアイコにハゲができるぞ」

 中断されていた宿探しを再開するため3人は歩きだした。


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