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鈴鳴らせば狐が黙る

 全人口30人ほどの小さな村。若者が都会へ出稼ぎに行ってしまったので老人だけしか住んでいない。

その村で2人は一泊し、次の目的地に向け山を越えようとしていた。山はそれほど高くないので1日がんばれば越えられるほどである。

「うむ。さあ行くぞ。ここを越えれば。大きな街だ。早く若いぴちぴちの女性を見ないと俺は死んでしまう」

「こらこら、ここにおるやろ。若い女の子」

「・・・さあ行くぞ」

「がん無視かい」

 いざ山に入ろうとしたその時。

「待ちなされ、あなた方、山を越えるつもりかの?」

 80歳ほどの腰の曲がった老婆が話しかけてきた。後60年若かったらとマルが嘆いていた。

「そのつもりだが、どうかしたか?」

 見ればわかるだろと言いたくなったがそこは常識人、しかと我慢した。

「この山は、人を化かす狐の魔物が出るんじゃ」

「狐の魔物、化け狐か?」

「そうじゃそうじゃ。それが山に入ってきた人間を化かすのじゃ。今まで色々な被害者がいてな。馬糞を口いっぱいに詰め込まれた者もいれば、崖から落とされた者もいたなぁ」

「げっ、おばあちゃん、その化け狐なんとかならへんの?」

 馬糞を口に含んだ絵を想像しサナエは気持ち悪くなった。

「心配ご無用。どのようにしてこの村の若者が都会に行っていると思うのじゃ。もちろん化かされない方法はある。これじゃ」

 老婆は腰につけていた巾着袋に手を入れ、2つの鈴を取りだした。

「鈴?」

「そうじゃ、これはこの村で作られている特別な鈴なのじゃ。この鈴が出す音が狐の術をかき消すのじゃ。タダでやりたいところなのじゃが、私にも生活があってのう」

 悪徳押し売り業者の売り方をサナエは思い出した。

「ほんまに効くん?きかへんかったらクーリングオフやで」

「この村全員がこの山を越えるときに持っておるわ。良く考えてみい。仮にお主たちが私を疑って鈴を買わずに山に入ってみろ。もし偶然化け狐に会うことが無く山を越えることができた時、お主たちは、ああ鈴を買わなくて良かったと思うじゃろう。しかし、もし化け狐に遭った時はもう遅いのじゃ。化かされている最中お主たちはずっとああ、あのおばあさんの言うとおりケチらずに鈴を買っておけばよかったと後悔するはずじゃ。それに、鈴を持たずに入り、化け狐がいつ出るのかと常に不安な状態でいるよりは、鈴を買い安心して山を越える方がよいじゃろ。のうそうじゃろ。私は鈴を売ることにより安全と安心を提供しているのじゃ。ほれどうじゃ?買うじゃろ?」

 年齢からは想像できないほどの饒舌っぷりですっかりサナエは老婆の話術に取りこまれていた。

「うん分かった。ほな、おばあちゃん2個ちょうだい」

「ほい毎度」

 鈴業界の相場では考えられない金額を支払い、サナエは安心を購入した。

「ほほほ、後はそれを腰にでも付けて、常に音が鳴るようにしておくのじゃ。よいな、必ず音が出るようにしておくのじゃぞ」

 老婆の念押しを受け腰にしっかりと鈴をつけた2人は、老婆に見送られ山に入って行った。


 山に入り行程の半分くらいが過ぎたころ。

「えーんえーん」

 こんな化け狐が出るような山にも関わらず、進行方向に小学校低学年ほどの少女が1人でしゃがみこみ泣いていた。

「めっちゃくちゃ怪しいな」

「うむ。いかにもだな。おい見てみろ。あの子供尻尾が生えてるぞ」

 マルの言うとおり少女の尻からは毛でおおわれた尻尾が生えていた。尻尾は少女の、泣いている感情に反し良く動いている。

「ほんまや。しかも犬が喜んだ時と同じ動き方してるわ。私らを騙せるかも知れんからわくわくしてる感じやな」

「おい、ここは一丁、あの化け狐を懲らしめてやってはどうだ?」

「ほうほう、中々面白そうやんか」

「だろ。あいつの術にかかったフリをして騙してやろう」

「オッケー。それ乗った」

 そして、2人は鈴を大きく鳴らすような歩き方をしつつ少女に近づいた。

「お嬢ちゃん。一体どうしたんだ。こんな山奥で危ないぞ。なんでも化け狐が出るらしいからな」

 マルが声をかけると涙で瞳を潤ませた少女がこちらを向いた。後10年後ならとマルがまた嘆いた。

「グスッ、えっとね。お父さんと来たんだけどね、途中ではぐれちゃって、グス」

 いかにもと言った迷子理由である。引かれそうなおばあちゃんを助けていましたと言う高校生の遅刻理由くらいいかにもである。

「ほほうそれは大変だ。一緒に探してやろう。なんせ俺は」

「幼女の味方やから」

「っておい違う違う。ラムダ警護団の人間って言いたかっただけだから」

「ちゃうでお嬢ちゃん気をつけや。こんな大人がこの世に山程いてんねんから」

「ごく少数だよ。かってに子供の心に非常識を刷り込むな。この子の親父に許可取ってからにしろ」

「許可取ったらええんかい」

「クスッ、お兄ちゃん達面白いね」

 先ほどまで泣いていた少女はクスクスと2人の会話を聞いて笑い始めた。顔を袖で拭き少女は顔を整えた。もしこの少女が本当に化け狐でこれが演技ならば、かなりの役者である。

「ふはは。それでは行くとするか」

「うん。ありがとうお兄ちゃん」

 マルは少女の手を取り、中腰で歩き出した。マルが手を取ると、少女の尻尾がまたパタパタと振られた。2人は傍から見れば兄弟にも親子にも見えるだろう。しかし、サナエには幼女誘拐犯にしか見えなかった。

「おーい、当初の目的忘れんなよぉ・・・・・・やっぱあいつロリコンなんかなぁ」

 先を行く犯罪ギリギリの2人の後を追いかけサナエは歩き出した。



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