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ファイトオアエスケープ?イエスッ!エスケープ(3)

 「ああ、だめだよ。こんな公衆の面前でそんなこと大声で言えないよ。分かったよ、言うよだから怒らないでくれよ。いくよハニー、愛しているよ。世界中の誰よりも・・・・・・ぬはぁ!あれ、愛しのハニーはどこに、まっまさか・・・ゆっ夢?」

 激烈な攻撃によりお気楽な夢から目を覚ました。

「くそ、夢だったか、非常に残念だ。もう少しで結婚だったのに」

「なんちゅう夢見てんねん」

「うん」

 マルグロリアが顔を上げるとそこには、マルグロリアの理想とはかけ離れた、ショートカットで茶髪のサナエが立っていた。

「あっ、お前は悪党」

「ちゃうわ」

 軽くマルグロリアの頭をはたいた。

「それじゃあ、あれか悲鳴を上げたのはお前なのか」

「そうやけど」

「そんなバカな。貴様のような猿みたいな女があんな守ってあげたくなるような悲鳴を上げるわけないだろう」

「誰が猿や。私はこう見えても学校では麗しの美少女って言われたらええと思ってんねんで」

「思ってるだけかよ」

「うるさいなぁ。つうかここどこやねん。いきなり森の中やし、急に山賊見たいなん襲ってくるし。なんなんドッキリか、カメラどこや。はよドッキリのプレート持って来い」

「何を言っているんだお前は、ここはイリアリアの近くの森ではないか。山賊が出るから立ち入り禁止のエリアだぞ。有名だろ」

「イリアリア?何それどこの国、アメリカ?」

「アメリカ?貴様、俺を馬鹿にしているのか」

「・・・どういうことや。アカン意味わからん。いったいどうなってんねん」

 理解できない物事が重なりサナエの脳はすでに稼働限界を迎えていた。ショートボブの髪の毛を両手で今にもむしり取りそうなほど掴んでいる。

「むっ、お前その手の甲の紋章は」

「紋章?」

 サナエが右手の甲を見ると2頭の竜が首を噛み合っている絵が描かれている。

「なんやこれ、あかんとれへん。生んでくれたオトンとオカンごめんなさい、サナエはあなたたちがくださった体は傷物になってしまいました」

 手の甲を擦ってみたが取れる様子は無かった。

「その紋章は召喚された者の証だ。誰かが貴様を召還したようだな。なるほど貴様はどこか別の世界の住人のようだな。」

「召喚。えっじゃあ、私は異世界に来たってこと。まさかそんな漫画みたいなこと」

「貴様の手の甲の紋章が何よりの証拠だ。誰が何のために召還したのか分からんが、1つ言えることは、貴様は異世界のからこの世界に召還されたということだ」

「・・・なんてこった。ほな、私はどうしたらええんやろ。てか帰れるん?」

「うむ、帰ることはできる。ただし召喚した人間にしかできんのだ。普通は召喚者の近くに召還されるものなのだが、どうやら事故かなにかでまったく違う場所に出てしまったようだな。これは召喚者を探すのは骨が折れそうだな」

「ほな早く召喚者を」

 居ても立ってもいられなくなったサナエはすぐにでも駆け出しそうになっていた。

「まあ、待て。イリアリアの役所に行くのが一番手っ取り早いだろう。召喚物に付けられる紋章は召喚者1人1人で違うのだ。そして召喚者は召喚を行うには国に許可を取る必要がある、そうしなければ魔物や人間を召喚して国を混乱させるやつが現れるからな。貴様のようなはぐれ召喚物のことも役所が何とかしてくれる」

「なら、早く行かな。イリアリアってどっち?」

「連れて行ってやるついてこい」

 第一印象最悪の男が妙に優しくなり少しだけマルグロリアを見直したサナエ。

「ありがとう。私、サナエって言うねん」

「うむ、俺はマルグロリア・ドミニコフ、気軽に絶世の美男子マルグロリア様と呼んでくれ」

「・・・」

 見直した自分が恥ずかしく思ったサナエだった。

「むっどうしたほら呼んでみろ、絶世の美男子マルグロリア様と」

「うるさい、誰が呼ぶか。お前なんかマルで十分や」

「なっ貴様マルはないだろせめて、マルグロリアと呼べ」

 マルは初めて呼ばれたあだ名に対して嫌悪感を示した。

「作者も面倒臭くなってマルってなってるやろ。もう少ししたら読者もマルグロリアってこと忘れるわ」

「そんな一応俺は主人公の1人だぞ、こんな扱いはあんまりだ」

 

 話が妙にはずんでいる2人を物陰から見つめる者たちが20人。その中の3人は先ほどの山賊アルト、イルト、そして、ウルトの遺影を何故か持っているエルト。

「おい、エルト何故遺影を持っているんだ」

 エルトの行動に疑問を持ったアルトが質問した。

「ウルト兄ちゃんを馬鹿にした奴の末路を見てもらおうと思ってね」

「相変わらず陰気なやつだな」

「それほどでもないよ」

「おい、てめらそんな馬鹿な話してんじゃねえ。なんだありゃ女じゃねえか」

 顔中傷だらけ、服の下も傷だらけの男が2人の話を静止した。

「すんません団長。ありゃ女ですがとんでもねえ強さです。なんせ俺たちが束になっても全く敵わなかったんですから、特に蹴りがすごいのなんの」

「はん、お前たちなんか子どもでも倒せらあ」

 団長の横で草を咥え格好をつけていた長髪の男が口を挟んだ。長髪の男は他の者とは違い鎖鎌を備えていた。

「うるせえ、レイトル」

 3兄弟とレイトルは幼馴染である。常に仲が悪くいつも喧嘩をしている。結果はレイトルの圧勝で、3兄弟が最後に勝ったのは10歳のころだった。しかも内容は姑息な罠を使い勝ったというなんとも情けないものである。

 ちなみに他の15人は特にこれと言った特徴もないので簡単に説明させてもらおう、全員団員である、よくある山賊顔でいかにも悪党といった容姿をしている、エキストラである。はっきり言ってセリフもないのでいるという事だけ頭に入れてもらったらいい。

「団長、あの男ラムダ警護団の人間じゃねえか」

 ラムダ警護団の制服を着ているマルをレイトルが確認した。

 ラムダ警護団は、イリアリアまたその近辺を警護する団体だ。また、イリアリア以外の地域にも支部をいくつも構えており民間が運営する警護団体では最大級である。ラムダ警護団が本気を出せば、世界の4分の1を支配できると言われている。ちなみにラムダとは創始者の名前である。

「ああ、だが、あのガキのランクは下っ端だ。なんも勲章が付いてねえ、俺達の敵じゃねえ。さて、それじゃあ、てめえら殺すなよ2人とも商品だからな、行くぞ」

「うおおおす」

 むさ苦しい男19人が体育会ばりの良い返事をした。そして、各々物騒な物を持ち漫才をしている2人に向かっていった。


「とにかく、早く連れてって」

「むっ、人のことを散々貶しているくせにずうずうしい奴だな。しかし、これも仕事だ、来いさっさと行くぞ」

「わーい」

 座っていた2人は腰を上げお尻を払った。

「残念だが、イリアリアには行けねぇよ」

 団長が1人で湾曲した剣を構えて立っている。こんな人間道端で出会ったら、有無を言わさず逃げるのが一番の手段である。

「山賊か」

 不意の登場にマルが戸惑った。しかし、相手が1人だと分かると急に強気になる。

「なるほど、さっきの奴の仇打ちと言ったところか、俺がいる限りあの女に手は出させん。やりたければ俺を倒せ」

「そうかい、ならまずお前さんをやっちまうとするか、おい」

 団長が声をかけると潜んでいた山賊たちが出てきた。それは、もう、男くさい集団であった。

「へっへっへっ、これで女お前も終わりだな。借りを返させてもらうぜ」

 その集団の中でアルトの声だけ聞こえた。

 先ほどまで剣の柄を握っていたマルは剣から手を離し山賊を数えていた。

「123・・・・・・20、20人か。よし、お前らこの女を好きにしろ」

「っておい」

「無茶を言うな、さすがの俺でも20人は無理だぞ。それに見ろ、あの男を鎌だぞ鎌。それにあの目つき危なすぎるだろ、絶対に強いぞ・・・と言うわけだ。俺はお前と会わなかった。それじゃあ、達者で暮らせよ」

 確かにレイトルの眼は座っている。確実に職務質問の対象になるほどだ。。

「逃がすかぁ」

 そそくさと逃げようとするマルをサナエが全力で制止した。

「やめろ、襟を引っ張るな、伸びるだろ。ダルンダルンになった服を着てるのはかなり恥ずかしんだぞ」

「うるさい、もしこのまま逃げようとしたら襟の一部を千切ってブイネックみたいにするぞ」

「なっ貴様それはだめだ。俺はブイネック着ない主義だ」

「どんな主義やねん。なら嫌なら逃げんな」

空気を切る音を発しレイトルが投げた鎌が、しょうもない言いあいをしている2人の足元の草を刈った。

「ぎゃあぎゃあうるせえんだよ。おい警護団の男お前も俺達の獲物だ、奴隷として一生扱ってやるよ」

 今にも2人に襲いかかりそうなレイトルを抑え団長が一歩前に出た。唯一この凶暴なレイトル抑えることのできるのは団長だ。それほど、団長の力は強いのだ。

「さて、こちらとしては商品に傷をつけたくねぇから大人しくして欲しいんだがな」

「これは困ったぞ。どうやら見逃してくれる様子ではないな」

「ほな、どうすんの」

「決まっているだろ。戦力的には圧倒的に不利。勝てる要素は0。ならやることは1つ」

「1つ?」

「ああ、逃げる」

 マルはそう言うと懐に手を入れラムダ式と書かれた煙幕玉を取り出し、それを地面に向けて投げた。一瞬にして辺りは煙に包まれ視界がほぼ0になった。煙幕に呆気を取られているサナエの手とサナエの鞄の持ち手を握りマルは走った。


 煙幕が晴れた頃。ようやく山賊達は状況を把握した。さっきまで話していた2人が居なくなっている。

「どこに行った」

「団長。俺は鼻が利くんだ女の匂いなら覚えたぜ」

 アルトが鼻を指差し誇らしげに言った。アルトの鼻は本当に高性能で、シェパードをライバルと言うほどだ。

「相変わらず気持ち悪い奴だな。おめぇは」

「レイトル、アルト兄ちゃんの唯一の特技なんだから黙って見ててよ」

 ウルトの遺影を大事に抱きかかえているエルトが言った。遺影の中のウルトはものすごい笑顔だ。

「あんまり、フォローになってないぞ」

 少し頭の弱いエルトにイルトが呆れた。

「いいから、早く連れてけアルト」

「はい、こちらです団長」

 2人の逃げた方向に鼻息を荒くしたアルトが走って行った。


「はぁはぁ、しまったな」

「うん、しまったなぁ」

2人は途方に暮れていた。

「しっかし、驚いたわ、まさか、自分で投げた煙幕で方向が分らんようなって、適当に走ったらこんなとこに出るとはなぁ」

「うむ。予想以上に煙が強かった」

「しっかし、どうすんねん。逃げ場無しやで」

 2人がいるのは崖っぷち、落ちたら別の世界に旅立つことのできる高さである。場所と状況両方とも崖っぷちである。

「だが、大丈夫だ。こんな暗い森だ。もう俺達のことを見失って諦めているだろう。もうすぐ夜が明ける。ここは日が昇るのを待ってからイリアリアに向かった方が得策だな、道に迷ったし」

 そう言って、マルは座ろうとしたが、声がそれを止めた。

「残念だが。それは無理だな」

「なに!?」

 2人が声のした方を向くと先ほどの悪意丸出しの20人が立っていた。

「なんで、ここが」

「ふっふっふ。このアルト様の特技が嗅覚だからさ。女てめぇの匂い辿らせてもらったぜ」

 アルトが自慢げに胸を張り言った。

「匂いって。変態」

「うむ。変態だな。しかし、特技が嗅覚とはしょぼいやつだな」

「せやな。なんか如何にも脇役っぽいな」

「てめぇら好き勝手言いやがってもう絶対許さねぇからな。団長やっちゃいましょう」

 色々と一晩で馬鹿にされたアルトの怒りは最高になっていた。

「だそうだ。と言うわけでお前ら少し痛い目見てもらおうか」

 団長が声をかけると全員が一歩前に出た。アルト、イルト、エルトは剣を舐め威嚇してくる。そして、レイトルは鎖鎌の鎖を持ち、鎌をブンブン振り回している。その他はまあ、なかなか悪い顔で剣を構えている。

「こっ、これはまずいんちゃうん」

「うむ。絶体絶命と言うやつだな」

「どうすんねん」

「どうしようもないな」

「なんか、武器とかないかな。うーん、あっ」

 サナエは武器になるものを求めポケットを探っていた。そして、手になにか柔らかいものが当たった。

「これは風船キノコ」

 アルトにもらった風船キノコがあった。

「・・・せや」

 サナエは何か閃めき、風船キノコを見て、にやっと笑う。かわいらしい笑顔なのだが、どこか影を感じさせる表情だ。

「お前らかかれ」

 団長の声に合わせ一斉に全員が襲い掛かった。

「おいマル」

「なんだむぐぅ」

 サナエは手に持った風船キノコをマルの口に突っ込んだ。

「ええからよく噛んで呑み込め。そんで、落ちろ」

 マルの顎を掴み、風船キノコを咀嚼させる。そして、マルの尻を思いっきり蹴った。

「むぐうわああああ」

 強烈な蹴りを喰らったマルの体は大きく飛び、崖下へと落ちて行った。

「なんだぁとち狂ったか」

 山賊達は、サナエの凶行を目にし、動きを止めた。凶行に及んだサナエはゆっくりと山賊達に向かい。

「バイバイ、アホども」

 と山賊達を嘲笑し、崖を飛び降りた。とても無邪気な笑顔で。

「自殺しやがった」

 アルトが驚きを隠せない顔をしている。エルトは自分たちの行為が人を自殺に追い込んでしまったことに罪悪感を抱き落ち込んでいた。

「ああ、僕らはなんてことしてしまったんだ。すまない2人とも、頼むからお化けになって出てこないでよ。ウルト兄ちゃん僕を守って」

 エルトは上ってきた朝日に照らされた崖から2人を確認するため下を覗いた。

「ああ!兄ちゃん達あれを見て」

「なんだ?」

 山賊達は一斉にエルトの指差した方を見た。

「「あああああああああああ!」」

 山賊達の眼に映ったもの。それは一瞬、理解するのに時間がかかるものだった。逆光により最初は影しか見えなかった。丸い気球のようなものに人が捕まっているシルエットだった。そして、目が慣れてくるとどういった状態なのか理解できた。ぷっくりと膨らんだマルの足をサナエが握り宙に浮かんでいた。マルはサナエの重さによりゆっくりと下降している。

「あははははははは。アホな山賊どもばーいばーい。あっはははは、ばーかばーか」

 サナエは過呼吸になりそうなほど大笑いをしている。

「おい、後で一発殴らせろよ。俺をこんな姿にしやがって」

「ええやんか。逃げれんねんから。それより、あの山賊達見てみいや。アホ見たいな顔してんで」

「うむ、確かにそうだなバカ面だな」

「笑っとき笑っとき、あははははははひいひひひひひ」

「うむ、むははははははははは」

 どこかの閣下のような笑い方をするマルである。しかし、爆笑する二人は忘れている。風船キノコの効能時間を。

「「ははははははははは。はっ?・・・あああああああああああ」」

 10秒経ったのだ。マルの体からは空気が抜け、2人は結構な高さから森の中に落ちて行った。


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