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暗闇からの来訪者ー番外編ー(4)

 全ての豚がスタートゲートに入った。そして、機を見てゲートが開放された。レースが始まった。

 一斉に16匹が飛び出した。飛び出しは全匹同位置であったが、少しすると前集団と後ろ集団に分かれた。前集団は最初に飛び出し逃げ切りを図る走法、そして、後ろの集団はゴール直前で溜めていた脚を一気に爆発させ追い込みをかける走法。主にこの2つに分かれるのだ。トップ集団にはホットレーサー、中盤にダレンシアン、そして、最後尾にマイネルピッガーがついていた。ダレンシアンも追い込み豚であり、ここ最近のレースでは逃げ切りを図るホットレーサーを何度も差し、逆転勝ちを収めていた。そのため、この展開になった瞬間誰もが、ダレンシアンの勝利を予感していた。

「はぁっはぁっはぁっ、今日は調子がいい。全盛期のころのようだ。脚が思った通り動く」

 ホットレーサーはいつもと調子が違う脚に驚いていた。ここ最近は、水の中を走っているような重さを脚に感じていたが、今日は違う。とても軽く疲れを感じない、非常に良い状態である。

 勝てる。ホットレーサーは確信していた。

「くっ、なんだ年寄りめ。いつもならこの辺でペースが落ちてくるはずなのに、落ちるどころか速さが増しているじゃないか。くっ計算が狂った。このままじゃ差し切れない」

 いつものホットレーサーを想定して走っていたため、中盤を走るダレンシアンは困っていた。2匹の間にかなりの距離が空き、ゴールまでの残りの距離を考えると追い抜くのは難しい。

「くっ、仕方ないおいっ」

 ダレンシアンは並走する子分豚2匹に声をかけた。

「へい、了解です」

 何か耳打ちされた子分豚2匹はペースを上げた。

「んっ、なんだ今何したんだ」

 後方でダレンシアンの不審な動きにマイネルピッガーは気付いた。

 レースの勝利を無視した体力の限界までペースを上げた子分豚2匹はホットレーサーの横に付き挟み込んだ。

「なんだこいつら、勝つ気ないのか」

 2匹の走りに不信感を感じたホットレーサーであったが、久しぶりの絶好調に酔いしれ、一瞬注意しただけでまたレースに戻った。しかし、これがいけなかった。子分豚2匹はゆっくりとホットレーサーとの間隔を狭めていく。

「よし今だ」

 子分豚2匹は大きくホットレーサーに飛び込んだ。

「なっ」

 両側から体当たりされホットレーサーは大きくバランスを崩した。踏みとどまろうとするホットレーサー。しかし、さらに2匹は追い打ちをかけた。1匹が前脚にもう1匹が後ろ脚に体当たりをした。

「くそっ」

 走行妨害によりホットレーサーは子分豚に巻き込まれ転倒した。

 それに巻き込まれ先頭集団のほとんどが転倒した。中盤のダルメシアンはこの状態のことを想定していたので他の豚とは違い、巧みにこのトラブルを回避した。また後方のマイネルピッガーは離れていたため巻き込まれることは無かった。

「ホットレーサーさん!?あいつらやりやがった」

 子分豚2匹が妨害をしていたのを見ていたマイネルピッガーが叫んだ。視線をその奥に移すとダレンシアンが大きく笑っていた。

「あっはははは。じゃあな老豚。1位は僕のもんだ」

「あいつが仕向けたのか」

 心にある何かの2本目が切れた。マイネルピッガーのスピードが上がった。前方で転がっている集団を抜く瞬間、ホットレーサーと目があった。

「ホットレーサーさん!」

「マイネルピッガー。すまない。俺はもう駄目だ。後は任せたぞ頼む仇を取ってくれ。お前の脚をこの俺に、最後にこのレース上で見せてくれ」

「はい」

 最後の3本目が切れたマイネルピッガーはさらに脚の回転を速めた。

 レースは終盤に差し掛かっていた。最終コーナーを曲がり、残すは直線だけになっていた。ここからが追い込み豚達の本領発揮場所である。

中盤集団であったダレンシアンはスピードを上げ後続豚に1匹差をつけ単独1位になっていた。

「よし、もらった。ここから僕を抜ける豚はいない」

 ダレンシアンは勝利を確信していた。彼の頭に今あることはどれだけ差をつけて勝つかということである。大差をつけ後世に残るレースにしてやろうと考えていた。独走態勢のダレンシアンは後方を見る余裕もあった。後続豚はあの転倒により冷静さをなくしていた。

「よしよし、大丈夫だな」

 ダレンシアンは振り向き直った。

 ダレンシアンが再び正面を向いた瞬間マイネルピッガーがダレンシアンの後方で2着に躍り出た。他の豚が転倒騒ぎに驚き脚を抑えたため、抜き去ることができたのだ。

「今だ」

 後ろを向き少しスピードを落としたダレンシアンを見た瞬間、マイネルピッガーは溜めに溜めた脚を爆発させようとした。

その時だった。脳裏にマイネルサンダーのあの日のレースがよぎった。力を出し切り、脚を故障し2度とレースに出られなくなった父。それが頭に浮かび、脚が言うことを聞かないでいた。

「なんでだ。なんでだ。走れ。走るんだよ」

 しかし、脚は言うことを聞かない。それどころか減速しようとしている。頭には常に倒れた父親が浮かんでいた。そして、落ち着きを取り戻した後続の豚達が追いついてきていた。

「くそ、追いつかれる」

 マイネルピッガーも後ろを向いた。

あるものが弱気な豚の視界に入った。

転倒したホットレーサーがずっと後方で走っていたのだ。速くは無いが、なんとか追いつこうと右後ろ脚を引きずり走っていた。

「お前の脚を見せてくれ」

 この言葉通りマイネルピッガーの脚を見るためホットレーサーは怪我をしてもなお立ち上がり走り出していた。

「・・・うん。いけるよな。いや行け、俺の脚、限界を出し切れ!」

 マイネルピッガーに搭載されていたハイパワーエンジンが高速で起動し始めた。地面にめり込む脚が深くなり、蹴り飛ばす土の量が増えた。それにより一歩一歩の距離が大きくなる。それに加え、脚の回転数も増える。マイネルサンダーを彷彿させる追い込み脚が爆発した。

先ほどまで追いつこうとしていた後続豚を大きく引き離し始める。最高速度なぞ存在しないのではないかと思えるほどマイネルピッガーは加速し続けた。あっという間に、にっくきダレンシアンに並走した。

「なんなんだよ。なんでお前がここに居るんだよ・・・マイネルピッガー!」

 並走したのは一瞬だった。油断したダレンシアン、底力を出したマイネルピッガー、2匹のスピードの差は歴然であった。マイネルピッガーの頭がダレンシアンより前に出た。そのまま抜き去り。ゴール前ではマイネルピッガーの独走態勢になっていた。

「ああ、それだ。それが、俺の見たかった脚だ。あの時、敵でありながら俺を魅了した脚だ。最後に見られてよかったありがとうよ。マイネルピッガー」

 気力だけで走っていたホットレーサーはマイネルピッガーの走りを見て笑い、そして、倒れた。

 ゴールラインを切ったマイネルピッガーは大歓声を体に受け、優勝の感動を噛みしめた。

「勝った。俺が・・・この俺が。はっホットレーサーさん」

 倒れたホットレーサーの方を見るとすでに人間に運ばれレース場にはいなかった。

「・・・ホットレーサーさん。ありがとうございました」

 空を仰ぎ呟いた。

「なんでだよなんでこの僕が、負けるんだよ」

 辛酸を飲まされたダレンシアンは怒りに狂っていた。格下の豚に負けたことが信じられないのだ。

「なんでだ・・・」

 その元にマイネルピッガーが近寄った。

「簡単だよ。お前が・・・雑魚っ!だからだよ・・・あっははははははじゃあな雑魚」

 ここで、称えるセリフを言うのが正道であり王道かもしれないがマイネルピッガーは自分に正直な奴であった。

 そして、その後だが、ホットレーサーは種馬となり雌馬にモテモテの幸せな人生を送るようになる。ホットレーサーはこう語る。

「現役だったころは魅了されたのはマイネル親子の2度だけだったけど、今は毎日魅了されっぱなしだ」

すっかり腑抜けになっている。

屈辱の敗北を喫したダレンシアンは来年の冬季記念でリベンジするために特訓の日々を送ることになる。歴史に残るレースをしたマイネルピッガーは重賞だけに強い、無駄に勝負強い目立ちたがり豚となるのであった。

「ああ、36回の冬季記念?よくよく考えたら楽勝だったね。もう俺、親父超えただろ、うん超えたよね」

 と調子こいたことを言い続けているらしい。まあ、翌年突然現れたディープインパクト的な豚に完敗するのだが。


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