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暗闇からの来訪者ー番外編ー(2)

 場所は変わりレースに参加する豚達の待機場所。次にレースを控えた豚達が英気を養っていた。その中にマイネルピッガーがいた。

「よう、坊主久しぶりだな」

 隅っこの方で寝転がるマイネルピッガーに話しかける豚がいた。

「あっ、ホットランナーさん」

 ホットランナー。この競豚で史上最強と呼ばれた豚である。過去に幾度となく記録を作り、今なお50連勝と言う記録は破られていない。全盛期は常に単勝オッズが1.0倍であった。しかし、現在は歳のせいか身体能力が落ち、碌な成績を残せていなかった。

「浮かない顔してどうした。俺の方がしたいぞそんな顔」

「ああ、そうでしたね、ホットランナーさん今日が引退レースでしたね」

「早いものだ。生まれて3年でこの競豚に参加して、最強の豚と呼ばれて、気がつけば力が落ちて引退だ。一生なんてあっという間だな。ところでどうしたせっかくの重賞なのに」

 自分のことよりも相手のことを気にかける所からベテランの優しさがうかがえる。

「ええ、その俺の成績知ってます?」

「ああ、知っているそれが?」

「それがって、19戦18敗ですよ。しかも、唯一勝ったのは、トップ集団が転んだからですよ。俺が、この由緒正しき冬季記念に出られるわけないでしょ。多分、親父がホットランナーさんの唯一のライバルだったマイネルサンダーだからでしょ。だから俺が出られたんだ」

 マイネルピッガーが今日出場する冬季記念とはこの競豚では最も大きな重賞レースとされている。出場する16匹の内1匹だけ成績に関係なく人気投票で決定されるのだ。それが、マイネルピッガーだったのだ。

「マイネルサンダーか。あいつは強かったなぁ。俺の51勝目を止めたのはあいつだったな。あいつの追い込み脚は凄かった。あの怪我がなけりゃ史上最強って呼ばれてたのはあいつだったかもな」

 マイネルサンダーは成績こそ、それほどであったが、ここぞと言う時には絶対に逆転勝利する豚であった。堅実に勝利するホットレーサーと違い、常に見る者を魅了する華があった。

「そんな親父を持って俺は大変ですよ」

 マイネルピッガーが初出走する時、観客はマイネルサンダーの子供と言うことで、期待を込め皆マイネルピッガーの豚券を買った。そのおかげでオッズは新豚(レース初出走の豚のこと)にもかかわらず1.0倍を記録した。しかし、結果は散々8匹中7位と言う成績であった。ダントツの1番人気の豚が負けたことにより、このレースは新豚戦史上もっとも高値の豚券が出たレースと呼ばれるようになった。その後もマイネルピッガーは人気があるのだが成績が奮わなかった。

「しかし、皆がお前を応援するってことはお前が何か持っていると思って応援しているんじゃないのか?」

「応援に応えたいと思いますよ。でも、だめなんですよ。追い込みの時に脚が動かないんですよ。親父が追い込みの時に脚をやったでしょ。あれを見たせいなのか追い込みの時になると怖くなって」

 マイネルサンダーが脚を怪我したのは、夏季記念の時であった。ホットレーサーの連勝を止めた次のレースであった。このレースもホットレーサーが出場していた。観客は、ホットレーサーのリベンジとマイネルサンダーの連勝と両方を望んでいた。

 レース終盤。トップに立っていたのはホットレーサーであった。そして、それを追いかけるのがマイネルサンダー。着実に2匹の距離は縮み、マイネルサンダーがホットレーサーを差せるかとなっていた。ホットレーサーも懸命の走るが、確実に追い詰められ、ゴール1メートル前2匹は同位置にいた。そして、ゴール。結果は写真判定へともつれた。全員が結果を待っている中、レースを終えたマイネルサンダーが大きく転げたのだ。最後の追い込みの時、マイネルサンダーは脚を故障していたのだった。このレースを最後にマイネルサンダーは競豚から姿を消した。

「あのレースが原因か。確かにつらかったな。俺が連敗したのは後にも先にもあの時だけだったな。しかし、それでもお前は競豚なんだ。なんとかしないとスーパーの特売コーナーに並んじまうぞ」

 能力不脚人気不脚、また故障などの競豚は殺され食品として売られることが基本であった。ホットレーサーはその実績を買われ種豚として生きていく予定である。ふつうは引退してから子供を作るのだが、マイネルサンダーは夜中にこっそり飛びだし、同じ牧場に居た雌豚に手を出したのだ。そして、それがマイネルピッガーとなった。

「うっ、そうですよね。なんとかこのレースで結果を残して、それだけは回避したいですよ」

「はっはっはっその意気だ。命がかかれば恐怖もなくなるだろ」

「やぁホットレーサーさん」

 2匹の豚に近づいてくる豚達がいた。

「んっ、ああダレンシアンじゃないか」

 ここ最近若手豚の中で台頭しているのがこのダレンシアンである。今が、全盛期ではないとは言え、ホットレーサーに勝ち越している豚である。このレースの大本命とされている。その横に居る2匹もかなりの有名豚である。

「今日のレース、僕が1番人気ですって。ホットレーサーさんを差し置いてすいませんね」

「ああ、気にするな。俺は時代遅れの豚だからな」

「そうですね。何度も僕が勝ってますもんね。そう言えば今日で引退でしたね。すいませんね最後のレースなのに花を持たせられなくて」

 嫌味なまでに嫌味な奴である。こんなやつ同級生なら絶対にぶん殴っているタイプである。ダレンシアンはホットレーサーの前の世代に力を発揮していた超名豚の血を持つエリートである。ようするに実力のあるジャイアンの居ないスネオである。

「おやっ、そこに居るのは、確かマイネルサンダーの・・・ああ、そうだ思い出した。七光りでこのレースに参加できた場違いのマイネルピッガー君」

 見つからないようにホットレーサーの影に隠れていたのだが簡単に見つかってしまった。

「やっやあ、久しぶりだね。ダレンシアン」

「ああ、2歳のころの養成所以来だね」

「うん、・・・そうだね」

競豚の豚達は2歳になると養成所に1年間入ることになる。そこで、レースの基礎を学ぶのだ。マイネルピッガーとダレンシアンはそこの同級生であった。ダレンシアンは超優等生、マイネルピッガーは劣等生であった。そのため、マイネルピッガーはダレンシアンが苦手であった。

「ところで、聞きたいんだが、今どういう気持ち?」

「えっ?」

「いや何、実力を持ち合わせていないただ、父親の知名度だけで生きてきている君がだよ、こんな大舞台に出て、当然の最下位を取り大恥をかく気持ちだよ。僕なら死にたいけどね」

「えっうん、嫌だよ」

 痛いところを突かれて碌な事を返せないでいた。

「はははっ、偉く弱気だね。まあ、こけて僕の邪魔だけはしないでくれよ。じゃあね」

 言いたいことを言ってダレンシアンは子分である豚を引き連れてパドックの方へ歩いて行った。

「どうだ?」

 ダレンシアンに散々言い負かされて俯いているマイネルピッガーにホットレーサーが話しかけた。

「どうだって」

「悔しくないのか?俺は、悔しいぞ。あんな若造に馬鹿にされることがな。後、俺のライバルであったマイネルサンダーの子供であるお前が馬鹿にされることもな」

「悔しいですよ。でも、俺じゃあいつには」

「情けない。それでも男か」

「すいません」

「・・・親父があの世で悲しむぞ」

「そうですね」

 ただひたすら弱気になってしまったマイネルピッガーに呆れホットレーサーもパドックへと向かった。

「俺の最後のレースだ。不甲斐ない戦い方はするなよ」

「・・・はい」

 その後ホットレーサーに続きマイネルピッガーもパドックへと入って行った。



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