暗闇からの来訪者ー番外編ー
サナエが戦っていたころ、別の戦いが繰り広げられていた。
場所は、競豚場。9レース目が開催されていた。多くの観衆の中、その中にマルがいた。
「・・・ああぁ、どうするどうする」
なにやら茫然としているようだ。口は半開き、目はうつろになっている。
「もうこれだけしか残っていない、このままでは、無一文だ」
マルが財布を開くと、紙幣が一枚しかなかった。それも一番価値の低い紙幣である。
マルが競豚に参加したのは、3レース目からである。そして、これまでの戦績は6戦6敗と散々な結果である。まあ、この結果は仕方ないことである。ギャンブル素人のマルは、効率の良い買い方をしていないのである。1レースにいくつかの通りを買っているのだが、オッズをちゃんと見ないので、当たってもトリガミが起きているため、トータルでマイナスになっているのである。そして、今、本日の最終でメインレースが始まろうとしていた。
「どうするどうするどうする。どの豚を買えばいいんだ。はっそうだ。確かオッズがあったはず」
8レース目からオッズの見方を覚えていたのだが、それにより欲が出て8レース目は大穴ばかり買って玉砕していた。それに懲りず、マルは一発取り返そうとオッズ票を見に向かった。
「なんとか、この金を元に戻さないと、サナエに殺される」
2人はラムダ警護団からもらった給料を自由に使える金つまりおこづかいと、旅費に分けていた。そして、マルは自分のお小遣いをすっかり使い果たし、次の街までの旅費に手を出していたのだ。そんなことサナエに知れてしまった日にゃ、四肢の自由を奪われ磔にされ、超近距離ノックを1000本食らうのは確定である。ボールより先にバットが当たるほどの近距離である。
怯えた目でマルは、常に変化するオッズ票を見つめた。一発で負けを取り返そうとする行動は、ギャンブルを知らない、夢を見る素人の行動であり、マルの行動は見事にそれに当てはまっていた。人気の豚を見ずに、人気のない豚のオッズを食い入るように見つめている。その中で単勝(1匹豚を選び、その豚が1着になれば当たりの買い方)で、高倍率の豚を探した。3匹を豚だけにピッグアップした。その3匹の豚の情報を新聞で読みとる。過去の戦績、体重、血統、時計、短評、ありとあらゆる新聞に活字で書かれている情報を読んでいく。そして、
「これだ。この豚だ。マイネルピッガーだ」
オッズと新聞を照らし合わせ、マルは1匹の豚を選んだ。