暗闇からの来訪者(5)
一週間ぶりです。
以前に書いた話をところどころ加筆修正しています。暇つぶしにもう一度読み返ししてみてください。
サナエが逃げ込んだのは明日取り壊される予定の廃屋であった。1つだけしかない出入り口に入り建物中に避難していたのだ。廃屋に入ったサナエを確認し、刺客の少女は後を追いかけ、廃屋の前に立っていた。
このままドアを開け、待ち伏せての一撃があるかもしれない、いや絶対にあると確信していた。サナエが自分を倒すには奇襲しか残っていないはずだからである。だからするとしたら今しかない。
廃屋のドアは手前に引くタイプであった。刺客の少女には好都合である。自分が建物の中に入ってしまう押すタイプではなく、中と距離を取ることができる引くタイプは奇襲に備えることができるのである。
刺客の少女は備えてあったワイヤーを取り出しドアノブにかけ、そして、両手に剣を構えた。ドアから距離を取り、ゆっくりとワイヤーを引く。木で造られたドアは軋む音を鳴らし開かれた。ドアの前には人影はなく、ドア付近の気配を探ったがサナエが隠れている様子はなかった。慎重に歩を進め、廃屋に入って行く。中は、テーブルや椅子、タンスなどといった家具がそのまま残っていて、暮らしていた人間の生活が一目で分かる。タンスの上には、住んでいた人であろう人物の写真が立てかけられていた。ある程度、廃屋の中に入って行くと視界の端に、人影が映った。サナエである。
「こんな、逃げ場のない場所に来てどうするつもり?」
剣を構え、サナエに問う。
「うるさい、なんも考えてへんわ!」
やけくそなのかなぜかサナエはキレていた。長州力以上にキレていた。
「そう。この中だと柱とかが邪魔で剣が振れないから、それを考えて入ったのかと思った」
「えっ、あっそうか・・・・・・ふはははははは、その通りだよ、明智君。名推理だ。さあどうする。この不利な状況の中、君はどうするのだね」
「私の名前は明智じゃない」
サナエの窮地にも関わらず放った渾身の冗談も軽く流された。どうやら、刺客の少女は、この小説では珍しい、ノリの悪い人種のようだ。非常に扱いにくいキャラである。
「それに、こんな状況不利でも何でもない」
刺客の少女は剣の持ち方を変えた。先ほどまでは切ることを主とした構えであったが、切っ先をサナエに向ける構えに変え、突きを主体とした攻撃スタイルに変えたのだ。
「さあ、どうする?」
「どうするもこうするも、なんとかやるさ」
攻撃が面積の小さい突きに変わったことにより、避けることが比較的楽になったことは間違いない。しかしそれでも、実力差が埋まったわけではない。現に、攻撃スタイルが変わってもサナエは防戦一方を強いられていた。
腕が2本以上あるのではないかと思われるほどの早い突き、剣先は肉眼ではとらえることができないほどであった。相手の腕の動きだけを見て、サナエはなんとか避け続けていた。フットワークを使い巧みに避けていく。2人は攻防しつつ、大きく円を描きぐるっと180度回っただろうか。先ほどまで、サナエが家の奥に居たのだが、今は入口を背に向けて立っている。
いったん大きくバックステップをし、サナエは距離を取った。
「ちょっと待った。話があんねん」
手を出し、今にも襲いかかってきそうな刺客の少女を制止した。
「何。今さら命乞い?」
予想外の動きのため、刺客の少女は何かあるのではないか、例えばこの家の中で武器を見つけそれを隠し持っているのではないかと考えた。それを警戒し、刺客の少女は動きを止め、サナエの話を聞くことにした。
「あのさ、この家がどういうもんか知ってる?」
「ん?」
突然の話で刺客の少女は、遂に恐怖でサナエがイカれたのかと思った。
「この家はな、この村で一番古い、確か築150年の家らしいんや。そんで、明日に取り壊すらしいわ。ほら、窓とか封鎖されているやろ。古すぎて倒壊する可能性があるから、誰も入らんようにしてるらしいわ。まあ、私は入口のカギ壊して入ったけど」
サナエは入る時思いっきりドアを引き、カギを破壊していた。
「それが何?」
「だから、ちょっとした衝撃が加わると簡単に倒壊するらしいわ」
「!?」
説明を終えると同時にサナエは腰を捻り、あらん限りの体重を乗せ、この家を支える柱に回し蹴りを食らわした。渾身の蹴りを食らった柱はへし折れ、破片が刺客の少女の方へと飛んだ。それをたたき落とし、サナエの方を見るとサナエは1つしかない出口から外へと出て行くところであった。
「じゃあな、早くなんとかせんと巻き込まれることになるで」
一度、刺客の少女の方に振り向き、サナエは手を振って脱出した。
全体を支える大黒柱が無くなり家は崩壊を始めていた。大きく揺れ、今にも屋根が落ちそうになっている。崩壊を察し、最後の住人であったネズミが壁に空いた小さな穴から急の引っ越しを始めていた。
「まずい」
このままでは巻き込まれてしまう。
刺客の少女は、走った。落ちてくる木片を切り払い、進路上にある机は蹴飛ばし、刺客の少女は最短距離で出口へと走った。閉められていたドアを蹴り飛ばし開く。そして、そのまま体を外へ出した。
「危なかった」
危機を脱し刺客の少女は、ほっとした。しかし、 一息ついたのもつかの間、刺客の少女の顎に向かい飛んでくる拳があった。
「残念、本当に危ないんはこれや」
「しまっ・・・」
サナエが勝つには奇襲しかない。そのことを分かっていた刺客の少女は、常に奇襲を警戒していた。しかし、自分に迫る危機から脱する、この時完全にそのことが頭から抜けていた。
サナエの渾身の突きが、刺客の少女の顎を貫いた。強力な一撃により脳が揺らされ、刺客の少女は一瞬で意識を失い、その場に倒れた。示し合わせたかのように刺客の少女が倒れると同時に家屋は倒壊した。
「ふっ、安心しな峰打ちや」
拳に息を吹きかけ火を消すようなしぐさをした。ちなみに、拳なので峰打ちはおかしいと思われるのかもしれないが、サナエが本気で手刀をすると角材くらいなら一刀両断できるのである。なので、峰打ちと言う表現はあながち間違いではないのだ。
倒れこんだ刺客の少女に近寄り、サナエは一度突っついてみた。特に反応は無く、完全に意識が飛んでいるようだ。それを確認すると。
「いよっしゃあああああああああ!勝った勝った勝った勝った勝った!あっぶなかったあぁぁ。久しぶりやでこの空気。ずっとシリアスで命の奪い合いしてたんやもん。うおっ、今更足の震えがきた。やばっ止まらん。でもよかった死なんで。ほんまにこの作品はこう言う真面目な話やったらあかんて、表情の作り方が分からんもん」
何やら、訳のわからないことをほざいているようだが、とにかく勝って嬉しいのだろう。ずっと、両手を肩にまで上げ、力こぶしを作るような格好で左右にステップを踏み、勝った勝った勝った勝ったと懐かしい股間に葉っぱを付けているキャラクターのものまねをしている。
「しっかし、どうするかなこれ」
いったん冷静になり、サナエは目の前にある倒壊した家屋と、卒倒している刺客の少女を交互に見つめた。