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暗闇からの来訪者(4)

ダンシングを読む手を止め、この驚きの展開を少年達は茫然と見つめていた。その少年達の前で、やる気いっぱいの2人は攻め時を探っていた。

 はるかに、相手の方が場数を踏んでいて、戦い慣れしている。そして、おそらく身体能力でも負けている。さらに、触れれば確実に傷を負う、武器を持っている。この3つから自分が勝つことは、ほぼ0と言っても良いことがサナエには分かっていた。

「それじゃあ、行く」

 刺客の少女は一度、了解を取り、地面を蹴りサナエに襲いかかった。両手に持つ短剣を、リズム良く振ってくる。その攻撃の一刀一刀が風を切り、余りの速さに、少年達の目にはただの線に映っていた。

 髪や服を切られながらも、ギリギリでサナエは、その猛攻を避ける避ける避ける。バックステップ、ダッキング、スウェー、その他諸々の持てるディフェンス技術を駆使した。そして、攻撃の機会をうかがっていた。しかし、間髪いれずの攻撃のため、まったく隙がなく、防戦一方になっていた。

(くっ。せめて、短剣が1本やったら攻撃に移れるのに、二刀流はきつい)

 サナエが考えを張り巡らせている時、急に、猛攻が途切れた。刺客の少女が後ろに跳び距離を取ったのだ。

「よく避ける」

 先ほどから何度も自信のあるこれは絶対に当ると思った攻撃が次々と避けられたことに、刺客の少女は感動を覚えていた。

「結構今までの攻撃自信があったのに、全部避けられた」

「昔から痛いのは嫌いやったから、こういうことの練習を頑張ってきたんや」

 褒められたため、サナエは緊張しながらも照れていた。普段褒められることがないため、かなり嬉しいようだ。張りつめていた緊張がゆるんでしまった。

「分かった。じゃあこれは?」

 刺客の少女は右の剣を逆手に持ちかえた。そして、右手を前に出し、左手を後ろに下げた。先ほどまでの威圧感がさらに上がっている。

「うはっ、なんか益々怖くなってきた」

 これから来る攻撃を避けることの難しさを感じていた。そのおかげで、再び緊張の糸がピンと張った。

「それじゃあ、行く」

「来い!」

 先ほど違うパターンの攻撃が続いた。右手の不規則な動きが読めずに、避けることがかなり困難であった。

「すっげぇな」

 ダンシングなどすっかり忘れ、目の前の攻防に見入っている少年が呟いた。

「うんうん」

 もう1人の少年が頷いた。

 しかし、流石はサナエである。最初は、避けることに精一杯であったが、少しずつ、相手の隙を探すことに気を向けることができるようになって来ていた。

左手の振り上げ攻撃の後、右手の薙ぎ払いがくるとき、わき腹が空いている。

受ければ必ず致命傷になる攻撃の嵐の中、サナエは刺客の少女の隙を発見した。

人間と言うものは、ある程度の時間、同じ動きをすると、傍から見るとランダムに見える動きも実はいくつかのパターンが重なってできた動きであることがある。例えば、じゃんけんを連続ですると最初はランダムになるのだが、速度が上がってくると自然とグーチョキパーと順番に出すようになることが多い。まさに今、攻撃だけに専念している刺客の少女はそれに当てはまっていた。動きがパターン化してきているのだ。

もう一回あの攻撃がこれば、攻められる。サナエは、ひたすら攻撃を避け、そのパターンが来るのを待った。

それは、ほどなくしてきた。右手の振り下ろしを避けた直後、待望の左手振り上げが来た。

来た。サナエは、ついに来た攻撃の機会に頬が緩み、勝利を確信した表情を作った。待望の攻撃を避け、空いたわき腹に相手を一撃で倒せる攻撃を放つために初めて距離を詰めた。右手に力を込め、この一撃に全体重を乗せる。

 サナエの右こぶしがわき腹に吸い込まれそうになっていたその時、刺客の少女が小さく笑った。サナエと同じように勝利を確信した笑顔であった。

 攻撃に向かい体重を前にかけたサナエの右側頭部に衝撃が走った。

「ぐっ」

 衝撃を受けた右手側を見ると、刺客の少女の足の甲があった。

 刺客の少女は、わざと隙を作ったのだ。このままだと戦いが長引いてしまう。時間をかければ、いずれサナエのスタミナが切れ攻撃を食らわすことができるのだが、ラムダ警護団が来てしまうと面倒であった。そこで、防御に専念するサナエの気を変えさせたのだ。サナエの実力を測り、どの程度の隙なら故意に作ったものであるとばれないのか考え戦っていた。そして、サナエが見事釣り針に引っかかり、防御を失念したところでできた本物の隙に、相手を一撃で卒倒させる蹴りを放ったのだ。

 蹴りの衝撃を受けサナエは勢いよく飛ばされた。いや、攻撃を食らった瞬間、足に力を込め、蹴りの力も借りて大きく飛んだのだ。あの場所で足を止めてしまうと必殺の一撃が飛んでくるのが目に見ていたからだ。その予感通り、サナエが居た場所に短剣の軌跡が走っていた。

「なかなかやる」

 放った右手の振り下ろしを避けられた刺客の少女は、なかなかやられない獲物のしぶとさに感心していた。しかし、致命の一撃は避けられたが、状況はさして変わらないでいる。まともに、頭部に攻撃を食らい、サナエの足は言うことを聞かず、ストライキを起こしていた。立てないでいるサナエの目の前には刺客の少女が立っていた。

「なかなか、楽しかった」

「そりゃどうも」

 腕の力でなんとか立ち上がろうとしたが、目の前で、刺客の少女が短剣を振り上げていた。

「さようなら」

 別れの言葉を告げ、右手が振り下ろされた。

 刺客の少女の手には想像と違った感触が伝わった。いつもの、皮、肉、骨を切る感触ではなかったのだ。感触の違いを感じてすぐ、刺客の少女は自分の振り下ろした短剣の先を見た。

「なっ」

 刺客の少女の短剣は、月刊ダンシングに食い込んでいた。流石は激厚のダンシングである。骨をも両断する攻撃を受け止めるとは。サナエが飛んだ場所は、立ち読み少年達が居る場所であった。

「うしっ」

 ダンシングの中腹まで食い込んだ短剣を挟み込み捻る。力自慢のサナエの両手と細身の刺客の少女の片手の力比べである。簡単に、少女は短剣から手を離されてしまったのだ。そして、サナエの力に抵抗してしまった刺客の少女は、短剣越しに力が伝わり、バランスを崩してしまっていた。その隙をつき、サナエは前蹴りを食らわした。座った状態であるのでさして威力は無いが、距離を空けるのに十分であった。

「よっしゃ、これで、大分戦えるな」

 短剣を挟み込んだダンシングを、本屋の屋上に投げ込んだ。二刀流だと、攻撃の勢いの強さに攻撃する隙がなかったが、一刀流なら避けやすくなり攻撃の機会も生まれる。そうサナエは考えていた。

「本当にしつこい。初めて」

「そうやろ、そうやろ。私はそんじょそこらの奴とは違うからな。うんでどうすんの諦める?できれば、このまま帰ってほしいねんけど」

「残念。私は仕事を完遂する」

 刺客の少女は、腰に手をやりナイフを取り出した。長さは先ほどの短剣ほどないのだが、十分命を取れる長さは持っている。

「あれっ・・・二刀流やん」

「ふふっ。どうする?」

 構えた獲物を一度振り、ナイフに変わったことによる重心の調整を行った。

「・・・ずっずるいぞぉ!」

 せっかく、脅威の1つを取り除いたのに、あっと言う間にその脅威の息子がやってきたのだ。たまったもんじゃない。

 大きく後ろに跳び、サナエはこの場を離れ、敵に背を向け走り出した。武士なら罵倒されている所である。

「また逃げる」

「うるさい、こんなしんどい戦いやってられるか。くそ、勝てると思ったけど、絶対無理や。強すぎるわ、どうしよ・・・あー頭痛い」

 現状では絶対に勝てないことが先ほどの戦いで身に染みたサナエは、何か道中で使える物、また助けてくれそうな強いお方が居ないのか探すことにした。

「無駄なのに」

 刺客の少女は、再び逃走を図ったサナエの後を追う。はるかにサナエより早い動きである。

 残された少年達は、先ほどまで夢中になっていたダンシングを放り出し、高速で走っていた2人を目で追った。

「すっすげぇ」

 現実では考えられない、漫画だけの世界だと思っていた人間離れした2人の攻防に感動を覚えていた。

「うん。まるでアサミみたいだった」

「俺、ファンになりそう」

「俺も」

 2人の理想の女性像が大きく変わった瞬間であった。

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