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暗闇からの来訪者(2)

 時間が経ち、日が昇り始めた。光が木々の間を縫い、周りを光で照らし始める。

 マルたちが潜んでいる間、敵が攻撃してくることは無かった。また、敵の気配を感じ取れることも無かった。ただ、緊張が続き疲れただけだった。

「よし、見えるようになってきた。まだいるかも知れんから警戒しろよ」

「うん。分かった」

マルは立ち上がり、サンタフェを構え、ゆっくりと前進を始めた。その後をサナエは追いかける。緊迫している2人とは対照的に、森は平和な雰囲気で包まれている。朝を迎え、動物たちが行動を始めたようで、森中から鳴き声が聞こえた。

 マルの後ろのサナエが息を止めて歩く。どうやら、呼吸音すら鳴らさないようにしているようだ。しかし、1分もすると、足りなくなった酸素を得るため大きな音を出し深呼吸をしていた。

「意味ねえな」

 見ずにマルが呟く。

 元居た場所に戻ると、荷物はそのままであった。焚き火もマルが消したまま、散らばっていた。唯一変わったことと言えば、ナイフが無くなっているということだけだ。

「うむ。最初は山賊かと思ったが、どうやら物盗りの仕業ではないようだな」

 リュックサックの中身を確認していたマルが推理した。中身は全て無事であった。

「じゃあ、初めから命だけ狙ってたってこと?」

 刺客により地面に落されたマシュマロの、土の付いている部分を毟っているサナエがしゃべった。

「ああ、そうなるな、おい、汚いぞ」

「それはもう、かなりまずいことやんな、あんむ(マシュマロを食べる音)。このマシュマロも焦げてすっかり不味くなっているわ」

「ああ、大変まずいことだ」

 マルは焦っていた。このサナエのしょうもない意地汚いシャレで作り出された絶対零度の空気と自分たちを襲ってきた敵の強さに。

 最初の攻撃の時、まったく気配を感じ取れなかった。そして、隠れている間も気配を探っていたが、一切気配を掴むことができなかった。それほど、相手は強いと言うことがマルには分かっていた。

「どないしよ」

 くだらないことばかりしているがサナエは動揺を隠せないでいた。奇行は動揺を隠そうとするための苦し紛れの行動であったようだ。

これまで何度か似たような襲撃があった。主に、金目の物目当ての山賊であった。しかし、それは正面から襲ってくるある意味素直な敵ばかりであり、大体の者の実力は素人に毛が生えたような者であり、2人の敵ではなかった。しかし、今回は今までとは違うと言うことはサナエも分かっていた。

「お前何をしたんだ。ナイフはお前を狙っていたぞ。いったいどこで命を狙われるほどの恨みを買ってきたんだ」

「うーん」

 街中で暴れ回りぶつかってき、さらにババアと言う罵声を浴びせてきた子供に対し、鬼のような形相で脅し文句を言い泣かせたこと。老人を轢きかけ、謝ることなく罵声を浴びせ逃げて行った馬に乗った若者を引きずり降ろし老人の前で土下座させたこと。癇に障る行動を起こすマルを半死まで追い込んだことを思い出した。

「うーん。これと言って命を狙われるようなことをした記憶がないなぁ」

「うむ。俺がもう少し強くて忍耐力があったら迷わず命を狙っているな。しかし、命を狙われていることは変わりない。問答する暇があったら、さっさとここを離れよう。また戻ってくるかも知れんからな」

「うん。さっさと行こ」

 荷物を持ちそそくさと2人は森の住人である動物たちに見送られながら森を突っ切っていった。


 日が差し刺客の姿がはっきりと映った。眠たげな灰色の瞳を持ち、瞳と同じ色の髪を縛りポニーテールのようにしている少女がいた。歳はサナエと同じ程で、まだあどけなさが残っている。しかし、表情には感情がなく、表情から何を考えているか読むことはできない。

「荷物が無くなっている」

 辺りの捜索を行い帰ってきた刺客はサナエ達の荷物が無くなっているのを見つけた。周囲に付けられた足跡がまだ新しいことを確認した。

「まだ、遠くに行っていない。おそらく、この先の街」

 刺客は、この付近にある街に向かい森の中を走った。そこは、サナエ、マルが向かっている街であった。


 到着した街は街と言えるほどの大きさではなく、どちらかと言うと村であった。人工密度も低い、ほのぼのとした所だった。湖にはアヒルの親子が列を成して日光浴を楽しんでいる。

「うむ、ここまで来れば大丈夫かな。流石に街中では襲ってこないだろう」

「せやな、しかし、たまったもんじゃないわ。私が何したって言うねん」

「まったく、巻き込まれる方の身になってくれ」

「私も巻き込まれた方や」

 村の役所に向かい歩いているところ、村唯一の書店で学校帰りの少年達が、本日発売の少年誌を立ち読みしていた。極々ありふれた景色である。しかし、1つだけ異様な所があった。

「月刊少年ダンシングはおもしれーな」

「うんうん。ただよぉ一カ月ってのが長いよな。続きが気になって仕方ねえもん」

「いいじゃんか、その分こんなにぶ厚いんだから」

 少年達が読んでいるダンシングは60個もの漫画が連載されている全2000ページを超える超特大月刊誌なのである。余りの重さに、世界一立ち読みしづらい少年誌とされている。

 そのダンシングを談笑しながら読んでいる少年達。その腕はダンシングの重さに対応できるように、少年達の体には不釣り合いな筋肉をまとっていた。少年達を進化させてまで夢中にさせるダンシングとはどれだけ面白いものなのか。

「やっぱ、ファイトガールアサミはバトルが迫力あっておもしれぇ」

「そうだよな。憧れるよなぁ」

「うん。こんな女子がクラスに居たら一発で好きになるよ」

 少年達は、ダンシングの中で人気上位に位置するタイトル通りの格闘漫画を食い入って読んでいる。現実ではありえない超人的アクションを夢見ているようだ。

「なんなんあれ、辞書?」

 少年達が持っているダンシングの厚さを見てサナエが言った。

「漫画」

「うそっ、全然お手軽に読めないやん」

「ああ、読むのが遅い奴なら読み終わる頃には、次のダンシングが発売されているくらいだからな」

「本屋は発売日置き場所に困る大きさやな」

「ああ、俺が本屋のバイトなら絶対に入荷日にはバイトを休む」

「ほな、私が店長なら、お前をその日にしかシフト入れんようにする」

「月一か!?」

そして、2人はいつも通り役所でがっくり肩をうなだれ、本日の宿へと向かうのであった。


「それじゃあ、明日取り壊しを行いますね」

「はいはい、それでよろしくお願いします」

 住人が死去し誰も住むことが無くなったボロボロの家屋の前で、業者の人間と役所の人間が取り壊しについて話し合っていた。倒壊事故が起きてはいけないので取り壊すことになったのだ。家屋は、侵入を防ぐために、正門の入口以外、人が入れそうな場所全て、木を打ち付け閉鎖されていた。

「しかし、ここまでよくボロボロになりましたね」

「ええ、この村で一番古い家でしたからね。確か築150年くらいらしいです」

「はぁ、そんな古いんですか。流石ですね、ちょっとでも強い衝撃が加わればあっと言う間に倒壊してしまうほどですよ」

「そんなにですか。少しもったいないですけど、仕方ないですね。事故が起きたらいけないですし」

 役所の人間が少し悲しそうな顔をして俯いた。それを察し、業者の人間が話しかけた。

「何か思い出でも」

「ええ、昔よく、ここの前の住人の方にお世話になっていました。どんどん、村が変化していって、子供のころの思い出が無くなってしまうのはつらいことですね」

 役所の人間が、子供のころ遊んだ公園は今では、古い遊具は危険だということで撤去され、ただの空き地となっていた。唯一残された、馬の置物の瞳はどこか寂しげであった。

「・・・そうですね」

 業者の人間もなぜか申し訳なさそうに俯いた。彼も、この家には少なからず思い出があるようだ。

「くー、涙線のダムが決壊しそうや」

「ああ、雨が降ってきたのかな」

 会話を盗み聞きしていたマルとサナエの頬に水が流れていた。


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