山賊現る。変態現る。サナエ困る。(2)
サナエは戸惑っていた。さっきまで自分がいたのはコンクリートで作られた家や、まっすぐに天へと向かう電柱で構成された人工的な場所だった。しかし、今いる場所はどうだ、人工的なものは一切無い。あるのは自然と呼ばれるものだけだ。暗く視覚も利かない、その分聴覚が鋭くなる。風により葉がすれる音、セックスアピールしている虫の鳴き声、その一つ一つがサナエを不安にさせた。
「なななな、なんで、さっきまで帰り道におったやん。それやのになんやここ、森?いったいどうなってんねん。なんや、ワープしたんか。いやいや漫画か。ここは、現実21世紀やでそんなん有るわけないやろ。そりゃ、1回くらい別世界に行きたいなって思ったことあったけど。そうや、これはきっと夢なんや、よし、それじゃあ、空を飛べ」
サナエは両腕を翼のようにピンと伸ばし、いつでも浮遊してもいい準備をした。しかし、残念ながらこれは夢ではない現実である。当然、飛ぶことはない。腕を上下に振り羽ばたくが結果は同じ、ただその場で微風を起こすだけだった。
「うーん。夢を操るんは難しいのか、なら、ベタやけど・・・いててててて」
サナエは自分の頬を思い切り抓った。もちろん通常通り頬の痛覚が脳に痛みを伝える。
「・・・・・・夢や無いんか。これは現実なんか。どうしよ」
現実を受け入れたサナエは自分の今の境遇を確認し途方に暮れた。
サナエの10メートル後方。いかにも悪者といった顔をした男が3人いた。3人は同じ顔で同じように髭を蓄えていた。違うところと言えば、一人は髭を1つに縛っているのだが、もう一人は2つに縛りもう一人は4つに縛っているところだ。これでしか判別することができないほど似ている。
「おいおい、女がいるぞ」
1つ縛りが言った。外見通りの低い声である。
「本当だ。さすが兄さん。女に対する反応が早い」
2つ縛りが感心した。こちらも先ほどと同じように落ち着いているが低い声である。
「しかし、あの女、変った服装しているね」
4つ縛りが続けて言った。裏声で話しているかのような高い声である。
「こりゃあ、あの服と女で二度儲けることができるな、さぁいくぞ」
「「おう」」
3人は帯刀していた剣を抜きサナエに向かって行った。その眼は悪意を含んでいるように見える。
「何や」
長く育った草をかき分け自分に悪意を持ち向かってくる山賊3人組の気配を感じ、サナエは振り向いた。
「いよう。お嬢さん」
視界に入ったのは、髪の毛ボサボサ髭ボーボーの不潔度100の、いかにも一週間風呂入っていませんの男が3人立っていた。
「いやああああああああ」
サナエは大きく悲鳴を上げた。その悲鳴により、安眠をしていた鳥たちが一斉に騒ぎ出した。
サナエの居る森の中、少しサナエから離れた所。
「うぅん悲鳴?これはうら若き女性の声。助けを求めている悲鳴だ。行かなければ」
イリアリアに住むマルグロリア・ドミニコフの耳にサナエの悲鳴が届いた。心に秘める正義感のエンジンがかかり、マルグロリアの足を悲鳴の方へと走らせた。
「待っていろ。絶対に俺が助けてやる。そして・・・わあ、格好いいお方、どうもありがとう。何かお礼がしたいのですが、私は何も持っていません。よろしかったら私をいただいてもらえませんか・・・ってことになるに決まっている。行くしかない、さあ、我が愛剣サンタフェ、将来のお嫁様を助けにいくぞ」
サンタフェは今助けを求める少女を助けるため光を放った。サンタフェを振り、マルグロリアは自分の進行を邪魔する者を全て切り払って行った。
「ななななな。さっ山賊」
戸惑うサナエに、3人はV字フォーメーションを組み、自己紹介を始めた。
「俺たちは、1つにまとめられた髭がかっこいいアルト」
「2つにまとめられた髭がクール、イルト」
「4つにまとめられた髭が素晴らしいエルト」
「「「俺たち3人合わせて、この森を仕切る鬼斧山賊団戦闘員ア行3兄弟」」」
3人の背後で爆発とシュピーンと言う音が発生した。
「・・・」
「ふふふ。恐怖でグウの音も出ないようだな」
アルトが満足そうに笑った。確かに今日の登場文句はいつもよりキレがあり、自分の中でも高評価であったとあるとは考えていた。
「・・・だっさ」
「うん、なんだってお嬢さん」
キャー格好いい、やめて、襲わないで助けて等の、歓声、悲鳴を期待していたアルトの耳には予想外の返事が返ってきた。
「ださいって言うてん。なんやねんそれ、爆発と効果音は自分らで用意したん。格好悪すぎ、つうかさ、なんでアルト、イルトで最後がエルトやねん。そこはウルトやろ。どうしたんウルトはウルトはどうなってん?」
「うっ・・・ウルトは死んだ」
「あ・・・ごめん。気使わんで。なんで、なんで死んだん?」
アルトが神妙な面持ちで語り始めた。
「あいつは、風船キノコで死んだ」
「風船キノコ?」
「知らんのか、風船キノコとは食べた物を風船のように10秒間膨らます毒キノコだ。ほらこれのことだ」
地面にあった風船キノコを抜きアルトはサナエに投げた。キノコはいかにも毒キノコのハデな柄をしている。そして、傘にはひらがなでふうせんと書いていた。
「風船化してしまったものは浮遊を始めどんどん空へ上がっていく、そして10秒たつと空気が抜け墜落死だ。ウルトは空腹のあまり風船キノコを食べてそして・・・」
「ごめん。なんつうか、アホらし」
「ななな、なんだとこのアマ、許さねえ覚悟しろ、ある程度傷めつけていい、行くぞてめえら」
「「おおおおおおお」」
亡き兄弟をバカにされ、3人は激昂し剣を振り上げサナエに襲いかかった。
「ちょっちょちょちょ、ちょっ待ってえ」
「はぁはぁはぁ確かこの辺のはず」
マルグロリアは息を切らし暗い森の中で目を凝らし、自分の助けを求めるお嫁様を探した。
「全然見つからん。このままでは俺の髪は長い黒髪で清楚な感じのお嫁様が悪漢にやられてしまう。それだけは断じて阻止せねば。頼む俺の、第六感よ働け」
集中し辺りの気配を探る。
「きゃああああああ」
聞こえた。悲鳴がマルグロリアの耳に届いた。
「近い、向こうだ」
マルグロリアは神経を尖らしいつでも戦えるような状態になり、森の中を疾走した。
「いよおおしここだな。おい、そこの悪者ども何をしている。そのか弱き女性から手を離し、大人しくこの場から去れ。さもないとこの名剣サンタフェにより血を流すことになるぞ・・・・・・決まった。さあ、これできっと未来のお嫁様は俺にメロメロだ」
マルグロリアが着くほんのちょっと前。サナエとアルトが対峙していた。他に2人居たのだが、すでにイルト、エルトは白目を向き夢の世界へと旅立っていた。
「この女、よくもやりやがったな」
2人がやられアルトは腰が引けていた。しかし、こんな女1人に逃げるわけいかない、長年山賊稼業を続けているプライドが後退を許さなかった。
「そんなこと言われても、自分らが襲ってくるからやんか」
「うるせえ。このアマ絶対に許さねえ、くらえ」
アルトは恐怖のせいか手と足の動きが合致していない。当然まともな攻撃ができるはずない。その攻撃をサナエは軽々かわし、左足を軸に回転し体重を右足に乗せ、アルトの側頭部に叩き込んだ。
「うぬああ」
アルトは吹き飛び木に激突した。
「くそおお」
打たれた頭を振りアルトは何とか立ち上がった。
「嘘、立ち上がる?結構ええの入ったのに、頑丈やな」
「強い。どうする、どうすればこの女を倒せる」
その時だった。突然、沈黙を引き裂く大声が響いた。
「いよおおしここだな。おい、そこの悪者ども何をしている。そのか弱き女性から手を離し、大人しくこの場から去れ。さもないとこの名剣サンタフェにより血を流すことになるぞ・・・・・・決まった。さあ、これできっと未来のお嫁様は俺にメロメロだ」
頭に木の葉を乗せ、剣を胸の前に横一文字に構えた格好をつけた男マルグロリアが出現した。
「さあ、悪者どもかかってこいって・・・あれ」
マルグロリアの目に映るのは、いかにも山賊の男3人を、変わった服装をしている10代後半の少女が1人で倒しているところだった。
「・・・えーと、そうか。お前が悪者か」
マルグロリアは一瞬考え、剣を構えサナエの方に向いた。
「さあ、覚悟しろ。悪党、俺のサンタフェの力を見せてやる。さあ、お前たち今のうちに逃げるんだ」
アルトはその言葉を聞き逃げる決心をした。今はマルグロリアがサナエの敵になっているのだが、このままではいずれ自分たちがマルグロリアの標的になるのが目に見えていたからだ。
「この野郎。そこで待って居やがれ仲間を連れてきて復讐してやる」
アルトが負け犬の捨て台詞を吐き、のびている二人を連れてスタコラ森の奥へ逃げて行った。
「ふふふ。これで貴様と一対一だな。さあ、行くぞ」
剣を中段に構え隙が見当たらない。隙の無さがマルグロリアの強さを表している。
「なんでやねん」
隙があろうがなかろうが関係なくサナエは一瞬で間合いを詰め強烈なツッコミを裏拳で胸にくらわした。
「よう考えろや、なんで、こんなか弱くて、かわいいこの私が悪者やねん。あんな剣もった髭面の3人を素手で襲うかぁ!襲うんやったらもっと準備してから襲うちゅうねん!ええか、私はいきなり襲われたから抵抗しただけや。ほんま、この容姿を見て分らんかな、この可憐さを」
「いっ一体どこが可憐で、か弱いんだよ・・・」
マルグロリアは強烈なツッコミによるダメージで気を失った。
「あっ、やってしもた」