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究極の2択

 雲1つない青天の空の下、私の心は曇っていた。


 私の住むこの街は、1人の独裁者に支配されていた。

 その独裁者は、大変凄惨で残虐で惨たらしい性格をしていて、少しでも気に食わない者が居れば、すぐにその一族郎党全員処刑する男であった。しかもただ、殺すわけではなかった。ある一族は、徐々に温度の上がる鉄板の上でゆっくりと焼き殺された。またある一族は、1時間に1本ずつ剣を刺され殺された。こんな状況なら革命が起ってもおかしくないのだが、独裁者は強力な軍隊と我々から巻き上げた大金を持っていて、幾度となく革命は阻止されてきた。子供は教育で独裁者が神であり、全てであると刷り込まされ、従順な兵士として育てられている。また大人も何度も革命の失敗ですっかりと意欲をなくしてしまっていた。

 そんなこんなで、この街は地獄と化している。

 私は、独裁者の側近で、10年間仕事の手伝いをしてきた。その間、何度も気に食わないと言う理由で殺された同僚を見てきた。いつ矛先が私に向けられるのか不安だった10年間であった。なんとか独裁者の目に留まらないように生きてきたのだが、ついにその日がやってきてしまった。


 独裁者が提案した増税に意見をしたのがいけなかった。しかし、これ以上増税をしても民衆は払うことはできない。もう今がギリギリなのである。だから、私は意見したのだ。

 私の意見が癇に障り、凶悪な矛先は私に向けられた。

「お前は、私のそばで10年間働いてきた。そこでチャンスをやろう。ここに毒を塗ったナイフがある。少しでも傷つけばあっという間に命を奪う毒だ。お前には両親がいただろう。父と母どちらか1人を殺してこい。さすれば、お前を助けてやろう。期限は3日。できなければ、3人とも殺す。あとそうだな、証拠として殺したほうの首を持ってこい。ちなみに逃げようとしても無駄だからな。お前の両親に監視をつけておくからな」

 と言う、まるで、うんこ味のカレーとカレー味のうんこどちらを食べるといった究極の選択を与えられたのだ。

 両親にこのことを話すと、双方共が、自分が犠牲になると言うのだ。本当に泣かせる家族愛である。

 しかし、そんなことを言われると益々決めることが難しく、気がつけば約束の期限が迫っていた。

 あと1時間。私はどうすることもできないでいた。

 そんな時であった。視界の端に2人組が通った。

「あのっ」

 私が声をかけると、2人組が振り返った。急に声を出したので声が裏返り本当に聞こえたのか少し不安であった。

 1人は、茶髪のショートカットの女の子、そしてもう1人は剣を腰に携えた青年男子であった。女の子の方は人に好まれそうな笑顔をし、青年男子の方は勝手に見知らぬ男である私に無防備に近づこうとしている女の子をいさめようと少々怪訝な表情である。

 私は、この時どうかしていたのかもしれない、よほど精神が参っていったのだろう。

「あの、今悩んでいる問題があるんですが聞いてもらっていいでしょうか」

 そう言うと2人はいいですよと返答してくれた。この街では考えられない行動であった。いつ何時他人に襲われるかわかったもんじゃないほどこの街は腐っていた。にもかかわらずこの行動だ。少し泣きそうになった。

「もし、あなたが、ナイフ1本手渡され、父親か母親を殺せと言われたらどうします?」

 こういうと男性の方がブツブツ言いながら考え出した。

 こんな考えることも嫌な意味のわからない2択問題を本気で考えてくれるとは本当にこの男女は人がいいのだろう。

「うーむ、難しい問題だな」

「私なら」

「?」

 女の子の方が口を開いた。

「こんな胸糞悪くなることを命じた奴を殺すわ」

 第3の選択肢が出てきた。

「ばかっ、これはそういう問題じゃないんだよ。きっと問題文のどこかにおかしなところがあるんだよ」

「えっ、そんなとんちの利いた問題なん?」

 2人が何かを話しているが私の耳には届いていなかった。それがあったか。

「ありがとう」

 私は、新しい選択肢を提示してくれた2人に礼を言って立ち上がる。もう見ることもないかもしれない青い空を見上げ、震える手でナイフを持ち父と母が待つ家とは逆の方向に向かい走った。


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