趣味は金に換えるといくらになるのか(3)
「だめだめ、たった3時間とか雇えるわけないでしょ。ほらっ仕事の邪魔だからどっか行ってよ」
新鮮な無農薬野菜を提供することをモットーとしている、ウルチ野菜店の雇われ店長は、今日1日閉店まで雇えと言ってくる、怪しい旅人の申し出を断った。
「むーやっぱ、無理かぁ。これで8件目やなぁ」
超ド短期バイトを断られたサナエは、途方に暮れていた。今日の宿代だけでも稼ごうと奔走しているのだが、やはり思い通りにはいかなかった。
「マルはどうしてんかなぁ。このままやったらほんまに野宿やわ」
薄月が浮かぶ空をサナエは見上げた。
サナエとは別行動をしていたマルはリュックサックを探っていた。どうやら、売れそうな物を探しているようだ。
「うーむ、改めて見てみると、碌な物が入っとらんな。なんで俺は、便座カバーや分度器なぞ入れとるんだ」
リュックサックの中の8割が旅に不必要なものであったことが判明し、その中から売れそうな物を見つくろい、この街一番のディスカウントショップへと足を運んだ。
「うーん。そうですねぇ、これらの品全部合わせても」
店員の手から、現在発行されている硬貨の中で下から2番目の価値しかない硬貨が、チャリンとカウンターの上に置かれた。
「うぇ?!」
確かにいらない物であるが、総重量35キロもある数々の物品が、たったの小銭1枚と査定されたのだ。マルの驚きは計り知れない。
「なんで?」
「だって、基本的に全て開封されている物だし、なぜか全て少し汚れているし、便座カバーに至っては、茶色い物が付いているので。そうですねぇ、そちらのリュックの中に見えるあれ隙のフィギュアですか?今ちょうどそれの買い取りを行っているのですが、よかったらどうでしょう?」
「うーむ、よし、背に腹は代えられんよろしく頼む」
マルはリュックの中にある、あれ隙フィギュアを全てカウンターの上に出した。
まず、店員が起こした行動はカウンターの上にあるフィギュアの半分を占めるベムラリオンを全て端っこに寄せた。店の張り紙にベムラリオンはもういりませんと書かれていた。そして、残ったフィギュアを査定し始めて行った。
「どう?」
「そうですねぇ」
店員は少し考え、レジから札の一番貨幣価値の低い、大物海賊を退治した偉人が書かれているお札を出した。
「なんで?」
「いや、だって、ほとんどノーマルだし。それに唯一のレア物のプリンプリンも大破しているし。むしろ出した方だと思いますよ」
「うーむ。背に腹は代えられん。分かったこれで手を打とう」
「はい、毎度」
苦楽を共にしてきた愛剣サンタフェよりも大事な物と豪語したコレクションを、はした金に交換したマルは肩を落とし、店の出口に向かった。店頭に張られている只今絵画買い取り中強化中と言う張り紙を目にして
マルを見送った店員は、買い取ったフィギュアの中からいくつか取り出し、それらに買い取り額よりはるかに高い値段が書かれたタグを取り付けた。
日が沈みあたりはすっかり黒に染まっている。人工の明かりを出す街灯が辺りを照らしている。その街灯の下、金集めのために走り回った2人がいた。
「どうやった?」
「んっ」
マルは1枚の紙幣と貨幣を差し出した。
「お前は?」
「んっ」
サナエはポケットを探り、火種には最適のポケットの中のごみを取り出した。
「稼げなかったら無理してなんか出さなくてもいいぞ。役立たず」
2人の手元にあるのは夕食代くらい、もちろん宿に泊まれるわけがない。
「むー、困ったなぁ。元の世界のお金やったら少しあるのになぁ」
サナエは財布を取り出し、元いた世界の紙幣を取り出した。高校生なので、さほど額は入っていなく、紙幣が3枚ほど入っているだけであった。
「・・・っ!?」
サナエの取り出した紙幣を見て、マルは何かひらめいた表情をした。
「そうだ、おい、サナエそれ、1枚くれ」
「はっ!?」
サナエの返事を聞かず、マルは紙幣を1枚奪い取り、先ほどの店へと走った。
店に入り、マルは勢いよく店員に紙幣を見せた。途中に自分が売ったフィギュアが高値で売られているのを目にしたが、今はそれどころではないと自分に言い聞かしレジまで来たのだ。
「どうだ。確か、今絵画を買い取っているんだろ?見てみろこれを、この絵画を、両面に絵が描かれているんだぞ」
この世界の紙幣と同じサイズなのだが、とにかくクオリティがまったく違った。サナエの世界の紙幣は機械で大量に製造されるのに対して、この国の紙幣は違った。この国では国選印刷師と呼ばれる人間が、監視の元、版画を使い1枚1枚作っていくのだ。そのため、同一の出来の紙幣はなく、歪んだり、滲んだりしている。
なので、サナエの世界の紙幣を見て、紙幣とは思わないのである。
「こっこれは、すごい。ぜっ是非買い取らせてください」
店員は、レジからありったけの紙幣を出した。それはかなりの額で、この街の高級ホテルで連泊できるほどの金額であった。
「売った」
即決で売買契約は成り立った。
大金を手にホクホクしながら、マルは店を出た。
「よしよし、これで、一丁豪華なホテルで一泊するか、はっそう言えばサナエに了承取らずに来てしまったが、まあ、この大金を見せれば大丈夫か」
サナエに怒られることを心配しながらマルはおそらくサナエが待つであろう先ほどの集合場所に向かった。
マルが店を出たあと、店員は通信機器を取り出し、どこかに電話をかけた。
「もしもし、あの素晴らしい絵画が手に入ったのですが、いかがでしょうか・・・あっそうですか、ではその額でお取り置きしておきます」
マルに払った金額に0をあと2つつけた額でサナエの世界では最低金額の紙幣が売れた。