ガチャパン(1)
「ぬはー、これこれ、この味。これを私の舌は待っていてん」
遂に辿りついたパンの街。その街は、ごくごく普通の特に変わったところがない街。1つ変ったところと言えば、一軒のパン屋に行列があるくらい。その行列に並び、サナエはようやく、お目当てのパンを食べることができた。
「これで買えるだけのパン頂戴」
今自分が持っているお小遣い全てで買えるだけのパンを買い、サナエは貪り食っていった。プレーン味以外にもチョコ味、抹茶味があるため、その味の違いがますます、サナエの無限とも言える食欲を増進させた。
「ぬはー、まただ。これで6個目だ。いったいどうなっているんだ、絶対この呆れ顔の羽根人間ベムラリオンがこの中の8割を占めているだろ。もうベムラリオンはいらないんだよ。頼むから、洗いたてのTシャツの匂い星人でてくれよ」
子どもに大人気のヒーロー漫画『あれ、正義の味方が変身とか名乗り上げている時って隙だらけじゃね?』略して、『あれ隙』のガチャポンの前でマルは、おもちゃ業界のあくどい商法に怒っていた。
あれ隙は2ヶ月のペースで主人公の悪たれ小僧マサヒロのコスチュームと敵組織が変わるため、すぐにグッズが新しくなるのだ。よって男の子を持つ家庭から良く苦情がくるらしい。
「まだまだ、これからだ。とりあえず、おばちゃんこれ崩して」
マルは財布から札を出し、両替を求めた。
自由行動も終わり2人は集合場所に集まった。
サナエは両手に大量のパンが入った紙袋を、マルは洗いたてのTシャツの匂い星人以外がそろったフィギュアが入った袋を持っていた。ちなみに、ベムラリオンは21個入っている。これほどの数のベムラリオンがいれば、悪たれ小僧マサヒロもかなわないだろう。
「「うっはぁ」」
2人が2人とも相手の持っている袋の膨らみ具合を見て引いた。
これがオタクっていう人種か。私こんなやつと旅してたんかぁとサナエ。
こいつ、食い過ぎで死ぬつもりか、まあ、死んでくれた方がこの旅が終わるからありがたいけどとマル。
「なにそれ?その量。てか、このいかにも体に悪そうなことしてる人形はなんや?」
袋から、シーチキンの油を飲む怪人ジャンクフーダーが顔を出して憐憫の眼差しをサナエに送っている。
「見て分からんか、あれ隙のガチャポンフィギュアだ」
「何個こうたん?」
「30個先からは覚えていない。それよりもお前、それはなんだ」
「パン」
「分かっている。なんだその量はと言ってんだ」
紙袋から、カメパンがマルを見つめている。
「こんなん、夕飯前のおやつや」
小学生1クラス分のパンをおやつと言うのだから恐ろしい。
「たくっ、無駄遣いしやがって」
「お前もやろ。これ何に使うねん。私のは食べられるけど、お前の食べても栄養にならんやろ」
サナエは巨乳のオカンプリンプリンを袋から取り出しまじまじと見つめた。
「バカ野郎。見つめることによって目の栄養になるんだよ。とくにそのプリンプリンは激レアなんだぞ」
「女にはわからん世界やわ。こんなフィックション!」
サナエの手の中でプリンプリンが砕けた。
「うぉーい!!」