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ツンデレな2人(2)

 そして、今俺は街を歩いているのだ。

 どうすれば、あの女に復讐できるだろうか。

 まずは、そうだな。正攻法で、真正面から挑んでみるか。だめだ、マウントをとられボコボコにされている絵しか浮かばん。却下。

 あいつが寝ている隙に襲いかかる。そう言えば、過去にあいつが寝ぼけて暴れまわっていたな。またあの五連突きされるのか。だめだ。却下。

 そうだな、あいつに力で挑むのは無理だ。どんな作戦を考えても武力では勝てる気がしない。

 どうするどうするどうするどうする。普段爆睡しているんだから、たまには全力で動け我が脳。

「お兄さん。いい薬あるよ」

 どこに脳を動かすレバーがあるのか探していると路地から声がした。見てみると、いかにも怪しい格好をした、胡散臭い魔女のような格好をした老婆がいた。

「なんだ、ばあさん俺は現役だぞ。薬など借りなくても、いつでも90度だ」

「へぇへぇへぇ、お兄さん、90度だと使い物にならんでしょ。あたしの薬はそう言った手助けする物じゃないんだよ」

「うむ、ではどういった物だ。透明になる薬かそれともホレ薬か?」

「どれも外れじゃ。ホレ薬は惜しいかのう。あたしが売っているのは自白剤よ」

 老婆が懐から透明なパッと見、水のような液体が入った瓶を取り出した。

「自白剤?」

「ふむ。この薬を飲んだ者はの、1時間の飲ませた者の質問になんでも答えるのじゃ。しかも、薬の効果が効いていた間の記憶が一切無いのじゃ。本人からしたら1時間眠っていた気分になるのじゃ」

「なんと、便利な薬だ」

 こんなに、デメリットのない薬があるだろうか。これさえあれば、この世から拷問と言うものがなくなるのではないか。

「どうじゃ、買わんか?」

「買うに決まってんだろ」

 ポケットにあった小銭で事足りたので助かった。こんな良い薬がジュース1本分なんて老婆は生計が成り立つのだろうか。

 さてこの手に入れた素晴らしい薬をどう使おう。

 手に入れたのは良いが用途が思いつかない。

 そうだ。あの馬鹿女に飲ませて、秘密を手に入れて、それをネタに主従関係を作ってやる。

 早くこの薬を試してみたくて仕方ない。まるで、おもちゃ屋帰りの子供の気分だ。


「人間の屑マルグロリア、只今帰還しました」

 鬼になっているであろう馬鹿女の部屋に恐る恐る帰った。予想通り部屋の中は鬼気で満ちていた。首筋に刃物を当てられているようだ。

「なんやねん。1秒も一緒にいたくなかったんちゃうんかい」

「いやあの、勢いで出たのは良いんですが、お金も寝る場所も無くて、すいませんがここで一夜を過ごさせてもらってもよろしいでしょうか」

 ペコペコするのもこの時間限りだ。あと1時間もすれば、関係は逆になっているからな。楽しみで仕方がない。

「ふんっ、まあええわ」

 馬鹿女は一度鼻を鳴らすと、俺に背を向け布団にもぐった。

「あの、それでですね。ジュース買ってきたんですが。いかがですか?」

 今ここで寝てもらっちゃ困る。この自白剤入りのジュースを飲んでもらわなくちゃな。

「えー、果汁100%やんか。私30%が好きやのに」

「まあ、そう言わずどうぞ。なんでもこの街の特産品らしいですよ」

 嘘である。超大手の企業の稼ぎ頭の全国で広く売られているジュースである。今まで、旅して分かったのだが、この女は街々の名産品や特産品を口にするのが好きらしいのだ。そして、案の定このジュースを特産品と言うと

「ほんまに、こりゃ舌にブツブツできるの我慢してでも飲むしかないな」

 見事に食いついた。どうやら、たんぱく質分解酵素に弱いらしい。

「そうですね。是非どうぞ」

 自白剤入りとも知らず、馬鹿女は馬鹿な表情で馬鹿みたいに自白剤入りオレンジジュースを一気飲みした。

「すっぷあ、やっぱ100%はきっついわ、すっぱすぎ・・・んっ」

 馬鹿女は、ジュースの感想を言った後、急に静かになった。先ほどまでと違い目が濁っている。どうやら、薬が効いているようだ。

「よし・・・試しに、お前の名前は?」

 俺の言葉に反応し、馬鹿女は口を開いた。

「水本 サナエ」

 どうやら、薬は効いているようだ。よし、それじゃあ、この1時間たっぷりと質問させていただくか。


「・・・8歳のころの夏休み」

 馬鹿女は、最後におねしょをした歳を話した。この薬は本当にすごいものだ。ただこちらの質問に機械的に答えるのではない。例えば、恥ずかしいことなら、恥じらいながら答えたり、悲しいことなら少し俯き答える。

 なかなか、面白い薬である。

 さて、今まで、最後におねしょをした年齢、ここ最近恥をかいたこと、最近悲しかったこと、誰にも言えない趣味などを聞いたのだが、いかんせんこいつを脅す道具にはならない。

 どうするかなぁ。

 質問が思いつくまでどうするか。薬を飲ます前に質問をもっと考えておくべきだった。

そうだ。思いつくまで、今日のことを聞いてみるか。表面的には許してくれたような感じだが、本心はどう思っているのだろうか。

「今日、俺がお前にキレた時、どう感じた?」

「人の好意を踏みにじりやがって、帰って来てたら殺人プロレス技のフルコースを味あわせてやる」

 本当にこの薬があってよかった。もし、ジュースに薬を入れていなかったら、今頃俺の四肢の関節はすべて逆に曲がっていたことだろう。

 しかし、1つ疑問が残る。人の好意とはなんだ。あの時こいつが俺にしようとしたことは、足に対する新技のはずだ。もし、それが好意と言うのなら、こいつは根っからの鬼畜だ。

「人の好意とは一体何だ?」

 俺が質問すると、馬鹿女は俯き、頬を赤らめ、ゆっくりと答え始めた。

「あの・・・マルが狼に襲われた時に、足痛めていたみたいやから、その、新技をかけるって言うていで、足のマッサージをしてあげようと思って」

 おいおいおいおい、ここでいきなりのツンデレかよ。ちょっとそんな心の準備していなかったから、なんかキュンキュンするじゃないか。

 口は悪いが実は、とても素直な良い子って言う設定ができているじゃないか。いかん、落ち着け、もしかしたら気の迷いかも、知れんしな。

 なんせ、こいつは俺のことを嫌っているんだからな。ここで、この胸のキュンキュンをなくすために

「お前はマルグロリアのことをどう思っている」

 どうだ。どう返してくる。

「・・・マルグロリア、誰?」

 なるほど、この返しは予想外だ。

「だから、俺だよマルグロリア」

「知らん」

「・・・マルのことはどう思っている?」

「えっと」

 マルなら反応するんかい。

 馬鹿女は、俯き話し始めた。

「マルは、女たらし、口だけの男、剣を持たなければただの雑魚、ビビり、しゃべり方がいちいちうざい、たまに期待通りのツッコミをしてくれない、手軽に技をかけることのできる人物、考え方が人間の屑」

 うん。思った通りだ。あれっ目に涙が。違う、これは悲しくって泣いたんじゃないからね。オレンジジュースの酸味が目に染みただけなんだから。このキツイ答えは予想通りなんだから。

 しかし、ここで墓穴を掘ったことを感じた。こんな答えを聞いて、果たして俺は笑顔でこいつと旅をすることができるのだろうか。たとえ、こいつが表面で俺と仲良しを繕っても、内心俺のことを嫌っていることを嫌っていることを知っている。絶対に今までのように、遠慮なしに付き合うことは難しい気がする。

 どうしよう。今後気まずくて仕方ない。そうだ、逃げよう、もういいだろう。こいつも余所余所しく接してくる奴と旅するよりも1人のほうがいいだろう。

 荷物を整理しようと思い立ち上がった時。

「・・・こんなに悪いところが多くて碌でもない奴やけど・・・嫌いじゃないかな」

 馬鹿女は紅葉のような色をした頬を少し釣り上げ、はにかんだ。

 

「んっ。うーん、寝ちゃってたか」

 馬鹿女は、ベッドから起き上がり背筋を伸ばした。ばあさんの言った通り1時間経つと薬の効能が切れ、眠っていたと錯覚しているようだ。

「おはよう」

「んっ、ああ、どれくらい寝てた?」

「1時間くらい。あのさ」

「なに?」

「お願いがあるんだけどさ」

「なんやねん、はよ言いや」

 俺はベッドにうつ伏せに寝転がった。

「新技をかけてもらっていいかな。サナエ」

 サナエは、笑顔になった。母親に褒められて嬉しくなった子供のような無邪気な屈託のない笑顔だ。

「初めて私の名前呼んだやんか、もう、なんやねんお前ツンデレか、気色悪いな」

 ツンデレはお前だ。

「しゃあないなぁ、やったるわ。ほら力抜きや」

 サナエは俺に跨り、足を掴み、揉みほぐし始めた。

「なぁ、サナエ」

「なんやねん。呼ばれ慣れてないからなんかこしょばいな」

「俺の足を握る力強すぎないか」

 ボキッと心地よい快音を鳴らし、サナエの怪力を込められた右手は俺の足を握りつぶした。少しでもこの馬鹿女を信用した俺が馬鹿だった。

 


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