第62話 スマホ熱々☆でもアゲアゲ封印ミッション、完了ですっ!!
「ここで決めなきゃ、誰が決めるってーの!!」
甘奈が自分を鼓舞するように叫ぶ。
震える手でスマホを高く掲げると、画面には【警告:本体温度上昇】の文字が点滅していた。
本体は灼けるように熱く、じりじりと手のひらを焼いてくる。
――それでも、止めるわけにはいかない。
「あっつ……でも、これがラストぉ!!!」
もう止まれない。止まったら、全部終わり――!
「アゲアゲ☆ブーストぉぉぉ!!!」
次の瞬間、エルディスが描いた封印陣がまばゆい光を放つ。
それは暴発ではなく、まるで世界そのものを包み込むように広がっていく。
ピケの胸元に刻まれた封印紋が淡く脈打ち、やがて静けさを取り戻した。
そして、音が――止まった。
「……もうだめ、しんどい……」
甘奈は力尽きたように崩れ落ち、スマホを胸に抱いたまま倒れ込む。
本体は過熱しきり、画面は黒く沈黙している。
エルディスも杖を支えきれず、片膝をついた。
蒼白な顔で封印陣の中心を見上げると、そこには黒い玉――ノクスが静かに浮かんでいた。
まるですべての魔力の喧噪を吸い上げたかのように、ただ脈動だけが部屋の静寂に響く。
それを見て、エルディスは深いため息をついた。
ピケはうっすらと目を開け、ゆっくりと両手を開閉する。
「……魔力が……静か……? こんな感覚、初めてだ……」
誰も、息をすることさえ忘れたように、静寂が訪れた。
「……とりあえず……成功のようだ……」
エルディスが息も絶え絶えに呟く。
その手は赤く爛れ、皮膚がひび割れていた。
ピケの魔力に直接触れた影響だが、痛みを見せる余裕もない。
「何か違和感はないか?」
玉が静かに問う。
ピケは手を見つめたまま、ゆっくりと頷く。
「ああ……魔力の出口が狭まった感じだな。核の封印のおかげか……
次の月にならないと、完全に成功したかはわからないが……」
「えーー!? なにそれぇ!? ダメかもってこと!?」
甘奈は仰向けのまま、床から顔だけを上げて叫ぶ。
汗に濡れた頬を紅潮させ、息も絶え絶えだ。
黒い玉が一瞬、まばたきするように淡く脈動する。
その光が空間に滲むように広がり――
次の瞬間、そこに立っていたのは、いつもの彼だった。
「初めての試みだからな。……とりあえず様子見だ。よく頑張ったな」
玉が甘奈を軽々と抱き上げる。
「ちょ、ちょっと!? いや、普通に歩けるからっ!」
顔を真っ赤にしながら抗議する甘奈。
だが玉はまったく気にせず、そのまま歩き出す。
その後ろでは、スカルとオーガがピケのもとへ駆け寄っていた。
「ピケ様! お体は!?」「アーー!」
ピケは小さく息を吐きながら、彼らを見やる。
「……大げさだな。少し疲れただけだ。とりあえず、帰るぞ」
その声には、確かな安堵がにじんでいた。
◇ ◇ ◇
そんな最終場面から一転――
あたしは一ヶ月を待たずして、現代に帰ることにした。
封印はほぼ成功。もう居座る理由もないし、
なにより――遊くんのドラマの続きが気になって仕方なかった。
玉には引き留められたけど、
「座標はつけたから、まぁいい」
とか、また意味わかんないこと言ってたし。
気づけば、美術室だった。
時間も放課後のまま。
机の上には、遊くんの絵だけが消えていた。
「……んーー! 長い夢を見てた気分」
背伸びをする。
でも、あの世界の空気は――まだ、手のひらに残ってた。




