第56話 玉って人じゃないし!……ほんとだし!
やっほー、甘奈だよ!
今日ね、セラさんが登場したんだけど……まさかのエルディスさんへののろけ!?
え? 玉への気持ちはどこ行った? ヤーラもどっか行かないでー(涙)
場所は、金獅子亭に併設された食堂。
甘奈たちはそこで、セラと向き合っていた。
あの日――秩序の院で失明しかけ、甘奈の治癒魔法でどうにか視力を取り戻した彼女。
しかし完全には癒えず、エルディスに背負われてそのまま姿を消して以来の再会だった。
セラの視力は、今も完全には戻っていない。
少し重たそうな眼鏡をかけていた。透明な鉱石板を削り出して作られたもので、補助の魔法が施され、ようやく人並みに物が見えるのだという。
「まずは――あの時はありがとう」
甘奈が反応するよりも早く、セラは静かに言葉を落とした。
「それで――エルディスはどこにいるのかしら?」
「えっ……?」
てっきり今日も玉に会いに来たのだと思っていた甘奈は、間の抜けた声を漏らす。
秩序の院ではあれほど玉に執着していたのに――。
玉は目を閉じたまま無反応。
ヤーラはセラの姿を見た途端、気まずそうに席を立ち、そそくさとどこかへ消えていった。
「……エルディスさんなら――」
甘奈が口を開きかけた瞬間、
「甘奈。余計なことは言うな」
玉がピシャリと遮った。
続けて、落ち着いた声音で告げる。
「今ここで会わせたら、あいつの集中が乱れる」
そしてセラに視線を向け、きっぱりと言い切った。
「今は駄目だ」
「……そう」
セラは小さく答えると、視線を落とし口を閉ざす。
重たい空気に耐えかねた甘奈は、思わず話題を変えた。
「えっと……その眼鏡、素敵ですね」
何気なく発した言葉に、セラの表情がぱっと華やぐ。
「そうなの! エルディスが特注で作ってくれたのよ。あの人、今はお金ないはずなのに……無理してまで」
声まで弾んでいて、本当に嬉しそうだ。
けれど甘奈は、その様子にどこか違和感を覚える。
恐る恐る問いかけた。
「あの……今日って、玉に会いに来たんじゃ……?」
セラの表情がすっと陰を帯びた。
「……違うわよ」
さっきまでの華やいだ声が嘘のように、急に沈んだ調子に変わる。
「今回のことで、よく分かったの。彼のやったことは許されるものじゃない。……でも同時に、大切さにも気づかされたわ」
そのまま視線を玉に突き刺す。
「大体――ノクス、あなたね。咄嗟に庇うなら、少し離れたところにいた彼女じゃなくて……私じゃないの? 私たち、恋人だったはずでしょう?」
「……ああ、そうだったな」
玉はまるで記憶の引き出しを探るように、淡々と応じた。
甘奈はあの時のことを思い出し、思わず俯いた。
(……今思い出しても恥ずかしいんだけど……!?)
胸の奥が熱を帯び、頬が真っ赤になる。必死に顔を隠すように視線を伏せた。
そんな甘奈を見て、玉はふっと口元をゆるめる。
「……ちょっと待って」
セラの声が鋭く割り込む。驚きと疑念が入り混じった表情で、じっと玉と甘奈を見比べていた。
「ノクス……あなた、まさか――」
「なんだ」
玉はすぐに真顔へ戻り、セラへ視線を向ける。
セラはキュッと口元を結び、勢いよく立ち上がった。
そして甘奈の肩を両手で掴み、迫るように言う。
「悪いことは言わないわ。こんなやつ、好きになっちゃ駄目よ?」
「へっ?」
思いもよらぬ言葉に、甘奈は戸惑いを隠せない。
セラは肩を掴む手に力をこめ、矢継ぎ早に言葉をぶつけてきた。
「冷たいし、魔法にしか興味のない人よ! 結局、一度だって手を出されたことなんてなかった……顔と才能しか取り柄のない男なの!」
(……いや、それだけあれば十分でしょ!?)
甘奈は喉まで出かかった言葉を飲み込み、ただ心の中で突っ込むにとどめた。
「やめろ、セラ」
玉が一歩近づき、圧をこめて言う。
そして甘奈をセラから引き離した。
「エルディスのことは、こっちから伝える」
短く告げると、玉はセラを伴い食堂の出口へと向かっていった。
少しして、ヤーラがそっと戻ってくる。
首をかしげながら、尻尾を小さく揺らして。
「……終わりました?」
「うん……」
甘奈は曖昧に返事をしながら、自分の胸の内を持て余していた。
(……玉のことを好きに……?)
すぐさま首をぶんぶん振る。
(ないない! 最初に会ったときなんて黒い玉だったんだよ!? ありえないって!)
ヤーラはそんな甘奈のようすを、不思議そうに見つめていた。
いやほんと、肩つかまれて「ノクスはやめときなさい」って――そんなんじゃないのに。
玉ってそういう対象じゃないし!
……セラさんホント嵐のようだった。
とりま読んでくれてありがとね! 次回もよろしくね!




