第52話 そっか……ってしか言えなかったんだよ!
やっほー、甘奈だよ。
ララが「お母さん、あれから体が弱くなって……」って言ってたんだ。
だから今回ララのお母さんに会うの、正直ちょっとドキドキしたよー!
案内されたのは、復興の途中で建て直されたばかりの土壁の家だった。
まだ壁の土には色むらが残り、乾いたところと湿り気の残るところが混じっている。
葺き替えられた藁屋根からは、ほんのりと新しい草の匂いが漂っていた。
「わぁ……新しい匂いがするね」
ヤーラがぽつりとつぶやくと、ララが少し照れくさそうに笑った。
「この家、お母さんのために皆が優先して作ってくれたんだ。
少しでも早く休めるようにって……みんなが協力してくれて」
ヤーラは「それは良かったね」と頷いた。
甘奈も「そっか」と短く返したが、その声はどこか沈んでいた。
奥の一室。藁を厚く敷き、その上に毛皮を掛けてララの母親が横たわっていた。
「お母さん。ヤーラが来てくれたよ」
ララの弾む声に応えるように、母はゆっくりと上体を起こした。
その肩を、ララが慣れた手つきで支える。
「そんな、無理して起きなくても……!」
甘奈が慌てて声をかけると、母は軽く首を振った。
「……あの時は、本当にありがとう。ずっと伝えたかったんです」
「でも、完全には治せなくて……」
甘奈がうつむくと、母はそっと手を伸ばし、その肩に触れた。
「命をつないでもらえただけで十分です。
こうしてララの成長を見守れるんですから」
柔らかな笑みを浮かべたあと、母はふとヤーラに視線を向ける。
「でも……ヤーラ。あなたのご両親は、もう……」
言葉を選ぶように一度目を伏せ、やがて顔を上げて続けた。
「もしよかったら、この村でララと一緒に暮らしていかない?」
「え……?」
ヤーラの瞳が大きく見開かれる。思いもよらぬ言葉に、その場で固まってしまった。
◇ ◇ ◇
一方その頃、玉は甘奈たちを送り届けた足で、魔法学校のとある一室へ向かっていた。
入り口には見張りの騎士が立っており、玉の姿を見るなり静かに一礼する。
分厚い扉を押し開け、中に入った玉は待っていた人物に言葉を投げかけた。
「随分と探すのに手間取ったと聞いたが、どこにいたんだ?」
すでに中には彼が立っていた。
もともと痩せ気味の体は、さらにやつれたように見える。
「……別に隠れていたわけじゃない」
エルディスは眉間に皺を寄せ、短く返した。
「しかし、ずいぶん物々しいじゃないか」
そう言って彼は落ち着かない様子で扉の方へ視線を向けた。――警備のことを言っているのだろう。
「まぁな。こちらとしても――お前が必要だ。逃げられたら困るからな」
玉の視線が真っ直ぐにエルディスを射抜く。
「……何?」
エルディスの動きが止まり、驚きがその顔に走った。
「オレを殺したことを悪いと思ってるなら――協力してもらう」
玉は一歩踏み込み、にやりと笑う。
「お前には、馬車馬のように働いてもらうぞ」
静まり返った室内に、エルディスが唾をのむ小さな音が響いた。
玉は椅子に腰を下ろし、静かに視線を向ける。
言葉にはせずとも、その仕草だけで“座れ”と促していた。
エルディスは一瞬ためらい――やがて観念したように、重い足取りで向かいの椅子に腰を下ろした。
◇ ◇ ◇
結局、ヤーラは集落に残ることを断った。
名残惜しそうに母とララを振り返りながらも、彼は甘奈と並んで歩き出す。
「良かったの? ヤーラ」
「はい。決めたことですから」
ヤーラはどこか吹っ切れたように、すっきりした顔でそう答えた。
集落の入り口まで来ると、玉がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「遅いぞ」
眉をひそめる玉に、甘奈は(やば、ちょっと遅れちゃった?)と思いながら、慌てて両手を合わせた。
「ごめんってば!」
玉は深いため息をひとつつき、
「人を待たせているんだ。このまま向かう」
「……どこに?」
戸惑う声を上げた瞬間――
耳の奥を刺すような不快な音が鳴り響いた。
ギギギ……と軋むような音とともに、空間が裂ける。
視界が黒い影に覆われ、甘奈の意識は一瞬で暗闇に呑み込まれた。
気がつけば――椅子に腰掛けたエルディスが、重苦しい空気を放っていた。
読んでくれてありがと~!
ララとお母さん見てたら、なんか胸がじんわりしたよ。
親子の絆って、ほんとすごいね。
……ってしみじみしてたら、最後はやっぱりバタバタ展開!?
次回もぜひ見届けてね~!




