第44話 どろどろ劇場すぎて胸焼けしそうなんだけど!
やっほー、甘奈だよ!
今回のお話はね~……もう、ほんっとに重かったの。
胸キュンが良かったよー!
近くで見てたあたしのお腹、完全にキリキリだったからね……。
セラの嗚咽混じりの泣き声が、静まり返った部屋に重く響いていた。
「(どろどろ過ぎるよ……胸焼けおこすって……)」
甘奈は心の中でぼやく。
美男美女がそろっても、必ずしも胸キュン物語になるわけじゃない。むしろド修羅場だ。
「ああ……そうだ。君はいつでもノクスを気にしていたな。途中から気づいてはいたさ。
あいつを追いかけてくる女は、学園裏でこそこそ……どいつも発情した猫みたいな顔をしてやがった」
吐き捨てるように言うエルディス。
その豹変ぶりに、セラは泣き止み、まじまじと彼の顔を見つめた。
「セラ……君は違うと思っていたのに……」
狂気を孕んだ言葉に、セラの顔は青ざめていく。
「大体、俺の方が学園に貢献しても、注目されるのはいつもお前だ、ノクス!
どいつもこいつもノクスノクスって……顔がいいだけでちやほやされやがって!」
暴言は止まらない。吐き出すたびに、エルディスの醜さばかりが浮き彫りになる。
甘奈は聞いていて、だんだんとイライラしてきた。
「年下のくせに……俺の存在なんて眼中にないみたいで……邪魔でしかなかった!
いつも消えてほしいと思ってたよ!」
早口で言い切り、肩で荒く息をするエルディス。
甘奈は、もう耐えられなかった。
立ち上がる。
怒りは──いつの間にか呆れに変わっていた。
胸に残ったのは、ただあわれみだけ。
「なんかさ……可哀想だよ、あんた」
「……なんだと?」
エルディスのこめかみがピクッと動く。
「自分だってすごいことやってんのに、なんでそんなに他人と比べてんの?」
「……」
「あたしだってさ、推しの遊くんのコンサートチケット外れて、めっちゃ悔しかったことあるんだよ!」
「おい、甘奈」
玉が静止するが、甘奈は止まらない。
「ずっと昔から応援してきたのに、最近ちょっと好きになっただけの子が当たってさ。
『なんで私じゃないの!?』って……正直すっごい嫉妬した。
……でもさ、それって結局、自分が苦しいだけじゃん」
その場が一瞬、静まり返る。
次の瞬間、エルディスはぷつりと糸が切れたように笑い声をあげた。
「……ノクス! 仲間達の命を犠牲にして連れてきたのが、こんなバカな娘なんて……滑稽だなぁ!」
玉は手のひらで顔を覆い、勘弁してくれとでも言いたげにため息をつく。
「でもさ、嫉妬しても自分が苦しいだけだって……玉だって、こんな何考えてるかわかんないけど、あんたのこと凄いと思ってたはずだよ?」
「!」
急に話を振られ、玉は驚いたように目を瞬いた。だが観念したように、ゆっくりと頷く。
「ああ……領分は違えど、意識はしていた。
オレにはあんな繊細な術式を描けない。天才だと思っていたよ――口に出すことはなかったがな」
玉は続けて言った
「あの実験の時も──お前が関わっていたから安心して参加できたんだ」
玉がわずかに悲しげに目を伏せた。
その言葉に、エルディスの動きが止まった。
まるで時間が凍りついたかのように、表情が固まる。
――天才? 俺を……?
一瞬、息を呑む音がした。肩がかすかに震える。
否定しようと口を開くが、喉が張り付いたように声が出ない。
乾いた呼吸だけが漏れる。
ずっと見下されていると思っていた。
眼中にすらなく、存在を無視されているのだと信じていた。
だが違った。
あいつは──俺を見ていた。認めてすらいた。
「……やめろ……」
ようやく絞り出した声は掠れていた。
「……そんな顔で俺を見るな……!」
だが、もう顔を上げることはできなかった。
肩が小刻みに震えていた。
必死に堪えようとするほどに、その震えは強くなっていく。
「俺は……」
押し出されるように声が漏れる。
「……なんてことを……してしまったんだ……」
その言葉の余韻が、静まり返った空間に沈む。
誰も口を開けなかった。
セラも、甘奈も、玉も。
少し離れた場所では、ヤーラとリーズが並んで座り込んでいた。
互いに寄り添い、怯えた目でただ大人たちのやり取りを見つめている。
――皆、押し黙ったまま。
崩れていくエルディスを見ているしかなかった。
読んでくれてありがとー。
ふぅ……やっと終わったぁ。
……あたしまで寿命縮んだ気がするよ。
でも、まだ終わらないみたい。
次回も――修羅場?!




