第42話 え、修羅場ってこんな急に来るの? って思ったらもっとヤバいの来た
やっほー☆ 甘奈だよー!
胸キュン展開になるかと思ったら……全然ならなかった件。
むしろ空気カッチカチで、見てるあたしの方が息止まりそうなんだけど!?
甘奈がエルディスのとんでもない表情に釘付けになっていると、
「あっ」
ヤーラの声がして、その視線の先へ目をやる。
「うわー…」
セラが玉に一方的に濃厚なキスをしていた。
美形同士で絵にはなるのだが──玉はまるで彫像のように無反応。
その落差が妙に滑稽に見えてしまう。
「ちょちょ! 甘奈さん!?」
慌ててヤーラの目を塞ぐ甘奈。
「だめだめだめ! ヤーラにはちょっと早いから…! ね?」
「そこまで子供じゃないです! 僕だって色々知ってます!」
「え!?……まじか……」
ちらりと横を見ると、エルディスが歯を食いしばり、血が滲みそうなほど唇を固く結んでいた。
(ひぇっ……)
思わず背筋が冷える。
やがてセラは名残惜しそうに唇を離すが、玉にしがみついたまま離れようとしない。
「セラ。もう気はすんだか?」
「そんな言い方……あんまりじゃない……私は離れたくないわ」
セラは下を向き、腕にぎゅっと力を込める。
そんなセラにため息をつきながら、玉は言った。
「オレは離れたい」
低く告げると同時に、玉はセラの肩に手を置き、静かに押し戻した。
「きゃっ」
体勢を崩したセラがほんの一歩後ろに下がった瞬間──一瞬だけ空いた間合いを逃さず、玉は魔方陣の中心へと踏み込む。
そっとリーズを抱き起こし、甘奈のもとへ差し出した。
「リーズ、怪我はない? ごめんね、怖かったね?」
甘奈は膝を折って目線を合わせる。
リーズは小さな手で甘奈の服の裾をぎゅっと掴み、首に抱きつくと──
「……怖かった」
声にならない嗚咽を押し殺しながら、肩を震わせて泣いていた。
セラは、それまでの狂気じみた動きが嘘のように静まり返り、泣いているリーズをじっと見つめていた。
その視線には、怒りとも哀れみともつかない──けれど、ほんのわずかに迷いを帯びた色が混ざっている。
「……エルディスが言っていたの。あなたは国家的な実験で命を落としたって。
対魔族を想定して、対抗できる武器を作るため……想定外の事故に巻き込まれたって」
その「事故」という言葉に、玉の表情が険しくなる。
「……オレは“不慮の事故”で死んだと?」
セラは小さく息を吐く。
「そう……エルディスがそう言っていたわ。だから私は魔族が憎かった。
……秩序の院で無償で働いている人の中には、あの実験で命を落とした人の遺族や知人が多い。
皆、魔族を憎んでいるわ」
その話を、リーズは唇を噛みしめながら悲しそうに聞いていた。
「でも……今は感情で先走っていたと思ってる」
気まずそうに言うセラ。
「エルディスがそう言っていたんだな?」
確認するような問いかけに、セラは静かに頷いた。
「……ノクス……お願いだ……それ以上言うな」
それまで黙っていたエルディスが、低く声を発する。
「オレは──」
発言を阻止したいかのように、玉に向かって数歩を踏み出し、一気に間合いを詰めた。
額にはうっすらと汗がにじみ、肩で息をしている。
その必死な迫り方に、甘奈は息を呑んだ。
(……なんでそこまで焦ってるの…?)
「すまない! 何でもする! お願いだから……セラには言わないでくれ!」
声は懇願というより、追い詰められた叫びに近かった。
玉はしばし無言でエルディスを見据えると、わずかに視線をセラへ移し、静かに告げた。
「……エルディスに殺されたんだ」
まるで時が止まったかのように、全員の視線が玉に釘付けになった。
読んでくれてありがとね〜!
エルディス、やばいやつだった……。
てか焦り方がマジで尋常じゃないし、あの爆弾発言で次どうなるの…?
とりま、あたしは空気読むのに全力出すわ。




