第41話 玉がイケメンに変身したら修羅場がはじまった件
やっほー!甘奈だよー。
誘拐現場に到着したんだけど……あたしも前に誘拐された場所じゃん!?
デジャヴってレベルじゃないんですけど。
部屋に足を踏み入れた瞬間、鉄のような生臭さが鼻を刺した。
吐き気をこらえながら視線を奥へ向けると、複雑な紋様を描く魔方陣の中にセラとリーズの姿があった。
ローブを外され、普段は絶対に見せない素顔を晒したリーズが、涙を浮かべたまま恐怖に震えている。
「リーズ!」
思わず駆け出そうとした甘奈に、
「邪魔しないで!」
鋭い声が飛ぶ。
玉はため息をつき、同じく扉の近くに立っていた、やたら派手な装飾のローブ姿の男へと声をかけた。
「おい、エルディス。なぜ止めない?」
その名を呼ばれた男がこちらに顔を向けた瞬間、甘奈の記憶が甦る。
(……あたしが誘拐されたとき、あのヤバいおねーさんと一緒にいた人じゃん……)
気まずくて寝たフリをしてたが、薄目で見てたので覚えていた。
「お前……やっぱりノクスか……」
男は玉を見据えたまま目を見開く。
「ちょうどいいじゃない。皆そろって集める手間が省けたわ!」
セラは筆を走らせる手を止めず、魔方陣に没頭したまま二人のやり取りなど目にも入っていない。
「そこのツルツル!」
顎で玉を指し、声を張る。
「あんたを破壊するためにここまで来たんだから! ノクスの命を奪って生まれてきたこと、後悔なさい!」
「え?」
甘奈とヤーラは顔を寄せ合い、小声でささやく。
「ノクスって……玉の本名だよね? どゆこと?」
甘奈はチラッと玉を見る。セラのほうを見据えるその表情には、何ら変化はない。
「……もうこの姿になることはないと思っていたんだがな」
呟きながら玉はゆっくりと歩き出す。
その足元から、淡い光の粒子がふわりと舞い上がった。
一歩進むたび、粒子はゆるやかな流れとなって彼の体を包み、上へ上へと昇っていく。
触れた場所から形が変わり、衣や輪郭が別のものへと塗り替えられていく。
「……なん、で……」
魔方陣に向けて筆を走らせていたセラの手が止まり、顔に驚愕の色が浮かぶ。
中心にたどり着いた時、そこに立っていたのは──もう“いつもの玉”ではなかった。
粒子がすべて舞い上がり、現れたのは黒髪のくせ毛、目を奪うような白く透き通った肌。
長いまつげと均整のとれた顔立ちは、中性的な美少年を思わせる。
「え、髪が……いや、誰このイケメン!?」
驚きのあまり、甘奈はさっき玉と話していたローブ姿の男に問いかけてしまう。
「……知らなかったのか。あいつがノクスならあれが本来の姿だ」
男は視線を逸らし、短くそう返した。
「ノクス!」
セラは握っていた道具を指の間から滑らせ、カラン、と石床に落とす。
次の瞬間、勢いよく玉に抱きついた。
その顔には、さっきまでの冷たい鋭さは一片も残っていない。
「ねぇ、ずっと会いたかったの!……なんですぐ会いに来てくれなかったのよ!?」
「え、え?ちょっと待って……あの二人ってそういう関係?」
(待って待って、どういうこと? あの抱きつき方、完全に恋人じゃん……)
確かに魔法学校で玉はセラをじっと見ていた。
けれど誘拐されたとき、セラはこの男と一緒にいたはず──。
(……まさか元カレが玉で、隣の人が今カレってこと!? 修羅場じゃん……気まずいやつ……)
ちらりと視線を送ると、男──エルディスは歯を食いしばり、すさまじい形相で二人を見据えていた。
ふぅ〜……なんか修羅場始まりそうな雰囲気してない?
これ、あたし巻き込まれるやつじゃん……。
最後まで読んでくれてありがとねー!




