第40話 助けに行くって…どこに!?
ちょっと聞いて!
屋台巡りしようとしてたら、ま、まさかの誘拐事件発生だよ!?
しかも攫われたの、よりによってリーズ……!
いやこれ、ヤバい匂いしかしないんだけど!?
「たまー! ナイスタイミング過ぎる!」
胸の奥の緊張が一気にほどけ、甘奈は勢いのまま玉に飛びついた。
「当たり前だろう。リーズの気配が急に薄くなったから来たんだ」
「いつも過保護なパパかよ!って心の中で思ってて、ごめん!」
その言葉に、玉の眉がわずかに動く。
甘奈の頭を片手でつかみ、ぐいっと引きはがした。
「時間が惜しい。何があったか説明しろ」
◇ ◇ ◇
「ここで拐われたのか……」
現場にしゃがみ込み、玉は地面へ手のひらをかざす。
「白いローブの二人組が急に現れたと思ったら、一人が何かを嗅がせて……リーズがむせて、そのままローブの中に隠されたんです」
「そしたら気配が薄くなったというか……」
落ち着きを取り戻したヤーラが、先ほどの光景を淡々と伝える。
「……ローブに、気配を感じさせにくくする魔法でもかけたんだろうな。急に現れたように見えた理由もそれで説明がつく。小賢しいことを」
玉の視線が細くなる。
「人混みで少しヤーラと離れた時を狙って近づいたか。顔は見たか?」
ヤーラは小さく首を振った。
「魔族に詳しい者なら気づいてもおかしくはない。ただ……そんな知識を持ち、なおかつ誘拐を実行できる者となれば、限られてくるがな」
「あんなに気を付けてたのに……」
甘奈の脳裏に、普段のリーズの姿が浮かぶ。
大きなフードで顔を覆い、首元まで布で隠し、長い袖と手袋で肌を一切見せない──魔族と知られないための必死の防御だった。
そこまでやっても気づかれてしまうのか……。
「物事に絶対などないからな。……さ、大事になる前に迎えに行くぞ」
その言葉に、甘奈とヤーラは顔を見合わせた。
「……行くって、どこに?」
秩序の院地下実験場
セラは小瓶を開け、真紅の液体を細筆に落とす。
魔石を砕いて混ぜたそれは、血の赤に濁った紫を帯び、湿った灯りの中でねっとりと光を反射していた。
ひと筆ごとに、床の上に複雑な紋様が広がっていく。
その中央には──ローブと片腕側の服をずらされ、白い肩と腕をあらわにしたリーズが、冷たい石床に横たわっていた。
普段は決して人前に晒すことのない部分が、術式の中心に無防備に置かれている。
ギギギ……。
錆びついた鉄扉が、湿った空気を押し出すように軋んだ。
エルディスが、物凄い血相で研究室に飛び込んでくる。
「セラ!」
「ダリオも使えないわね。足止めもできないなんて……」
ため息混じりに吐きながらも、セラの手は止まらない。
中央の魔族を見て、エルディスの顔が強張る。
「……セラ。君は術式の魔力不足を、魔族の力で補おうとしているのか?」
「そうよ」
当然のように答えるその声に、エルディスは息を呑んだ。
「聞け、セラ。それでもしその魔族が命を落としたら……戦争が始まるぞ」
声を低く落とし、脅すように言う。
セラは筆を動かしながら、視線だけをエルディスに向けた。
「戦争? いいじゃない」
口元に冷たい笑みを浮かべる。
「この院が掲げている理念にもぴったりでしょ。──堂々と、魔族を撲滅できるわ」
「え?!」
目を覚ましたリーズが、片腕の服を引き寄せ、肩口を覆う。
「あら、煩かったわね。ごめんなさいね。まだ寝ててよかったのよ?」
穏やかな笑顔をリーズに向けるセラ。
「だれ……? ここはどこ……?」
「知らなくていいのよ。だってあなたは──」
ギギギ……。
鉄扉が再び音を立てて開く。
湿った空気が一層濃くなる。
「……どうやら間に合ったようだな」
その声の主を見て、セラの瞳が大きく見開かれた。
次回、え?なにこれ?ってレベルのドロドロ展開だよー。
ちょっと待って心の準備させてって感じかも……。




