第39話 屋台巡りは悪夢の始まり
今日は午後からリーズも合流するってことで、屋台ぶらぶら計画〜!
ヤーラのおすすめもあるし、めっちゃ楽しみなんだけど……
いや、ほんと、このときのあたしは知らなかったんだよね……。
禁術の失敗を告げられて以来、セラは魂の抜けたような日々を送っていた。
しかし──最近、どこか変わった気がする。
以前のようにきちんと食事をとり、肌の艶も戻っている。
表情も、どこか明るい。
だが……何かが違う。
それは、長くセラを見てきたエルディスだからこそ分かる変化だった。
(……セラに、何があった?)
気になることがもうひとつある。
ダリオのことだ。
最近、やけに地下へ出入りする姿を見かける。
それとなく尋ねても──
「セラさんがまだ完全に動けないので、代わりに雑用を引き受けているだけです」
いつもの人当たりのいい笑顔でそう答える。
彼は、こちらの頼みにもよく応じてくれる、教団でも指折りの熱心な信者だ。
……それでも、胸の奥に妙なひっかかりが残る。
──まるで、何かを隠しているようだ。
(……まさかな)
忠実な信者に疑いを向けるなんて──馬鹿らしい。
その考えを押しやるように、エルディスはゆっくりと仮面をつけた。
◇ ◇ ◇
「ちょっと待ってよぉー…二人とも……」
午前中はモンスターを狩り、午後からはリーズが合流する予定だった。
宿に戻った三人は、今日は屋台をぶらつこうという話になった。
甘奈だって若いはずなのに、ヤーラの体力にはとても敵わない。
年齢の差なのか、獣人族の特性なのか……とにかく元気だ。
最近のリーズも、甘奈たちと一緒ならあまり人間を怖がらなくなってきた。
周囲の人も「何か事情がある」と察して、少しずつ声をかけてくれるようになっている。
そんな“小さな安心”に、甘奈自身も、どこか気が緩んでいたのかもしれない。
──完全に油断していた。
「甘奈さん!」
少し先を歩いていたはずのヤーラが、人混みをかき分けて駆け戻ってくる。
血相を変え、肩で息をしながら叫んだ。
「甘奈さん! 大変です!」
「え? ……ってか、リーズは!?」
「リーズさんが──誘拐されました!!!」
「……は?」
頭が真っ白になる。
胸が締めつけられ、一気に心拍数が上がった。
「白いローブの二人が……何か嗅がせて、リーズがむせて──!」
「あ、焦るのはわかるけど落ち着いて!」
それはヤーラにというより、自分に言い聞かせているようでもあった。
視界が揺れ、真っ先に浮かんだのは──玉の顔。
(でも……玉は宿にいる。ここから走って──)
「どうした?」
背後から、抑揚のない声が落ちてきた。
振り向いた瞬間、その姿は今は神様のように見えた。
玉、背後から現れるの反則じゃない?
あの瞬間だけはマジで神様に見えた。
……まぁ、すぐ現実に引き戻されたけどね。




