第38話 取り残された心、守られる世界
やっほー!甘奈だよ〜!
ぶっちゃけレベルが全然上がらなくてさ〜……不安でいっぱいだったの
でも玉がなんかちょっと変わってきてて、んん〜……詳しくは読んでみて〜!!
セラは日に日に衰弱していった。
エルディスは仕事の合間を縫って看病を続けていたが、それにも限界があった。彼自身も、静かに疲れを溜め込んでいた。
(……一度、専門の施設に預けるべきか)
そんなことを考えていたときだった。
コンコン──と、控えめなノックが響き、彼は肩をわずかに震わせた。
「……入ってくれ」
「失礼します」
入ってきたのは、ギルド職員の男──ダリオだった。
「頼まれていた件についてご報告いたします」
ダリオは、かつてセラの命令で異世界の少女を誘拐した男だ。
彼女たちと面識があり、こちらの命令にも従う。今回頼んだ件には、適任と言えた。
エルディスはセラをちらりと見やり、目を閉じているのを確認すると、無言で続きを促した。
「例のフードの人物ですが、宿に現れはじめたのは最近のようです。
常にフードを深く被っていて、顔を見た者はいません。ぶつかってもかたくなにフードを押さえるため、周囲では“肌の病を患っているのでは”という噂が流れています」
彼女たちが拠点にしている宿に直接接触するのはリスクが高い。
だが、周辺での聞き込み程度なら問題はないだろう。
(肌を見せようとしない……やはり魔族の可能性が高いな)
「もし本当なら……許せません。魔族と群れるなど!」
思わず声を荒げたダリオを、エルディスは手で制した。
「静かにしろ。セラが起きてしまう」
はっとしたように、彼は口を閉じる。
「……ただ、魔族と接触しているのは、あの娘たちだけではない」
エルディスは深く息を吐き、疲れた声音で言った。
「セリオン王も、魔族経由で極秘に情報を得ていると聞く。
もしかすると、あの娘たちも魔族を利用しているだけかもしれんが……」
ダリオは納得がいかない様子で眉をひそめながら、無言で頷いた。
「君も仕事で忙しいだろうが、引き続き金獅子亭の監視を頼む」
「承知しました!」
ダリオは顔を明るくし、足取り軽く退室していった。
カーン、カーン、カーン──。
地上と繋がる土管のような通路から、金属音が三度、地下に響いた。
それはエルディス個人宛ての、特別な呼び出しの合図だった。
「……やれやれ。仕方がない、行くか」
重い腰を上げて、彼は静かに部屋を後にした。
エルディスの足音が遠ざかるのを待って、セラはゆっくりと身を起こした。
長い髪が肩から滑り落ち、沈黙の中で、彼女はぽつりと呟いた。
「膨大な魔力を持つ魔族……」
言葉に宿る熱を噛み締めるように、セラは小さく笑う。
「──これで、術が完成できる……」
無表情だった顔に、満ち足りた笑みが浮かんだ。
そして、また静かに目を閉じる。
───
甘奈がこちらの世界に来てから、いよいよ「モンスターが溢れる日」が近づいてきていた。
レベル10を超えてから、彼女の成長は急に鈍化し始めていた。
これまで順調だった分、甘奈は焦りを隠せなくなっていた。
そんなときだった。
玉が、珍しく口元に微笑を浮かべて話しかけてきた。
「甘奈、いい知らせがある。
主要国三か国が連携して、集落を含めた広範囲に結界を張る作業が進んでいる。予想以上のスピードだ」
「えっ、すごいじゃん!」
「今回に関しては、被害はほとんど出ないはずだ」
「それは……良かったですね」
ヤーラが、心から安堵したような表情で微笑んだ。
甘奈も同じように安心する一方で、どこか、ぽつりと取り残されたような気持ちになっていた。
(結界で済むなら……あたしがここに来た意味ってあるのかな)
中途半端な力、伸び悩むレベル。
今の自分が役に立てるとは、とても思えなかった。
ほっとしたはずなのに、心の奥に、冷たい空洞ができたようだった。
「結界は、一度張ったらそれで終わりじゃない。いずれは解ける。
それまでに、根本的な解決をしなければ意味がない」
玉は、甘奈の表情を読み取ったのか、淡々とそう言った。
「それに、今回は部外者に助けられた部分も大きい」
「部外者……?」
「聞いた話では、ばかでかい剣を背負った“セイケン”と名乗る男が、各地の集落を中心に巡って結界を張っているらしい」
「オレも実際にこの目で見てきたが……あれは無茶苦茶だった」
「本来、結界は術式構築と複数の魔力系統を組み合わせて発動する、高度な魔法に分類される。
だがセイケンのそれは、どう見てもイメージだけで成立していた」
玉は少しだけ悔しそうに、唇をかすかに引き結んだ。
「まったく──ああいうのは、参考にならない」
「……しかも、魔力を辿ろうとしたが、遮断されてな。
まるでこちらの干渉を拒んでいるかのようだった」
「今のところ、あの“セイケン”の所在は完全に不明だ」
セイケンについて語る玉の様子は、まるで術式に熱中する魔導オタクそのものだった。
だけど甘奈には、それが妙に――人間らしく見えた。
会ったばかりの頃は、何を話してもつっけんどんで、無愛想で。
それが今では、こうして悔しがったり、感情を見せたりする。
記憶を取り戻したせいもある。でも、それだけじゃない気がした。
……甘奈は、なぜかそれが――嬉しかった。
最後の玉、ちょっと人間っぽくなってて嬉しかったなあ〜。
前はすごい無愛想だったのに、悔しがったりしてて……ちょっとかわいいじゃん?(笑)
あたしも、まだこの世界でがんばれるかなって……思えたかも。




