第37話 玉がいない日はショッピング日和♪……って、誰かに見られてた!?
やっほ〜!甘奈だよー!
ひっさしぶりの出番なんだけど、みんな元気してたー!?
今回はね、魔族の子のリーズちゃんにローブ買ってあげた話!えらすぎ〜〜!?(自分で言う)
てか、リーズ服ボロボロ過ぎ!
せめて外に羽織るローブだけでもって思って買いに行ったよー。
途中でヤーラともほのぼの会話しちゃったし、お買い物ってさいこーだよね!
セラは、自分の借間に戻る気力もなく、ただエルディスの研究室の椅子に座り込んでいた。
どれほどそうしていたのか、時間の感覚はもうとっくに麻痺していた。
ふと気づけば、机の上に湯気の消えた食事が置かれている。
きっとエルディスが気を利かせて用意したのだろう。けれど、今のセラには、スプーンを持つ気力すら残っていなかった。
ゆっくりと立ち上がると、研究室の隅──エルディスが徹夜明けによく使っていた仮眠用のベッドへと向かう。
そのまま、音も立てずに横たわった。
……もう、何もしたくなかった。
何も、考えたくなかった。
涙だけが、意識とは関係なく頬を伝い、枕を濡らしていく。
ノクスと同じ場所に行けたら──
そんな願いが、胸の奥からふいにこぼれ落ちた。
セラは冷えた枕に顔を埋め、ぎゅっと目を閉じた。
まだこの鼓動が止まらないことが、ただ苦しかった。
* * *
その頃、甘奈たちはセリオス城下町で、ヤーラと魔族の子供リーズとともに買い物をしていた。
最近は市場などを通ると、声をかけられることも増えてきた。
「今日はどうしたんだい? あの無愛想なお兄ちゃんは?」
「あ! おばちゃーん。玉は今日いないんだよ」
「ところでさ、子供用のローブ売ってる所ってここら辺にないかなぁ?」
甘奈は露店のおばちゃんと親しげに話している。
その間も、リーズは人混みに怯えた様子で、フードを深くかぶり、両手で袖をぎゅっと握りしめていて、どこか病気がちな子供のようにも見える。
ヤーラはそっとその手を握り、彼女の前に立って周囲の視線を遮ってくれていた。
「ありがとう、おばちゃん!」
甘奈は明るくお礼を言って、ヤーラたちのもとへ戻ってきた。
「あっちに穴場があるんだってさ。人も少ないみたいよ。行こ行こ!」
リーズは魔族の子供だ。
肌の色と、頭のちょこんとした角以外は人間と大差ない。
けれど、正体が知られれば──パニックになるかもしれない。
最近は秩序の院の過激な演説の影響もあってか、魔族に対して敏感な人間が増えているようにも感じる。
「あった、ここだ!」
街はずれに建つ小さな服屋。人通りもまばらで、“穴場”という言葉がぴったりの場所だった。
からん──と、小さなベルが鳴る。
店内には旅人向けの実用的な服が並んでおり、客の姿はない。
奥の椅子に、店主らしき年配の男が静かに座っているだけだった。
(よかった……人、いない)
甘奈は安堵し、隣に立つリーズに目を向ける。
彼女はまだ袖をぎゅっと握ったまま、視線を下に落としていた。
「子供用のローブとか、置いてありますか?」
甘奈が声をかけると、店主はちらりとリーズの姿を見て──無言で頷いた。
◇
「中古品だけど、結構いいの買えて良かったね。これで少しは変な目で見られなくなるといいんだけどなー」
「……ありがとう、甘奈」
フードの奥から、嬉しそうな声が聞こえた。
「いいんですか? お金貯めて、おしゃれな装備品買うって言ってたのに……」
ヤーラが遠慮がちに尋ねてくる。
「また頑張って貯めるからいいよー」
「でも、このまま村に帰ったら怪しまれてしまいませんか?」
そう言うヤーラに、甘奈は少しだけ考える素振りを見せてからリーズに向かってこう言った。
「こっちで預かっておくから。遊びに来たときだけ羽織れば良くない? ね?」
「……うん、わかった」
リーズの声には、少しだけ名残惜しさが滲んでいた。
しかし、甘奈たちは気づいていなかった。
その様子を、じっと見つめている男の存在に。
茶髪の少女。見覚えがある。
異世界から来た、奇妙な服の娘──セラが一度連れ去った相手だった。
その後、あいつに奪い返されて以来、こちらもあえて動向を探ったりはしていなかった。
魔法学校からは何も言われなかったが、セラはその後、退職している。
救世主として連れてこられた異世界人に薬を盛って誘拐など、ばれればとんでもない騒ぎになっていたはずだ。
気づかなかったのか、それとも、誰かが故意に騒がなかったのか。
どちらにせよ、彼女がまだこの国に滞在しているとは思ってもみなかった。
エルディスは小さく舌打ちする。
声をかける理由はない。むしろ今の状態のセラが彼女たちと接触すれば、ろくなことにならない。
こちらから距離を置くに越したことはなかった。
物陰に身を隠し、視線を送る。
少女の隣には、フードを深くかぶった小さな子供がいた。獣人の子供もいるようだ。
顔は見えない。だが、その気配に、違和感を覚える。
「妙だな……」
そのとき、子供がくるりと回った。
仕草は無邪気だったが、エルディスの目は見逃さなかった。
ローブの裾がふわりと揺れ、その内側から、一瞬だけ灰色のような肌がのぞいた。
ほんの一瞬、けれど確かに。
(まさか、魔族──?)
胸の奥に、じわりと不穏な疑念が広がっていく。
なぜ彼女たちが、倒すべき魔族と一緒にいるのか。
それを問いただすこともできず、エルディスはただその場に立ち尽くした。
見なかったことにするには、あまりにも異様すぎる光景だった。
ってことで!
あたし、めっちゃ優しくない!? リーズ喜んでくれて、あたしまでウルっときたわ〜。
ヤーラもお金の心配とかしてくれて、ほんっと優しいよね!
ま、そこは頼れる甘奈先輩が全部解決ってコトで!
またみんなで一緒にお出かけしたいな〜。
ということで!次回もあたしの活躍、期待しといてねっ!ばいちゃ〜