第4話 それって……帰る場所がないってこと?
助けた獣人の子供がなぜかうちらについてくるんだけど……え、帰るとこないってヤバくない!?!?(涙)あたし、置いてけないんだけど!?
森の中を、三人は歩いていた。
先頭を行くのは玉。無言でズンズン進むその背中を追いかけて、甘奈と獣人の子どもが並んでついていく。
──ぐぅぅ~~……。
静けさを破る、腹の音。やけに響いた。
「えっ……」
思わず立ち止まって振り返ると、お腹を押さえてうつむく子どもが、真っ赤になって固まっていた。
甘奈は笑いをこらえつつ、バッグの中をごそごそ探る。そしてちょっと潰れた菓子パンを取り出し、そっと差し出した。
「これ、食べる? あたしのなんだけど、まだイケると思う!」
「え……い、いいんですか?」
「もちろん!」
子どもは恐る恐るパンをかじったが……次の瞬間、引きつった笑顔のまま、もごもごと口の中でもがきはじめた。
「ご、ごめん! もしかしてまずかった!?」
「いえ……その……ありがとうございます」
「当然だ。獣人と人間とでは、味覚が違う。ましてや異世界人のお前が持ち込んだ食べ物など、刺激が強すぎるに決まっている」
横から玉が淡々と突っ込んできた。正論すぎて、ぐうの音も出ない。
それでも子どもは、パンを食べ終えると深々と頭を下げた。
「助かりました……本当に、ありがとうございます」
玉が視線だけで子どもを見やる。
「……獣人の子。なぜ我々についてくる。お前の村はこの近くか?」
「村は……モンスターに襲われて……。逃げるだけで精一杯で……でも、お腹が空いて、歩けなくなって……」
「モ、モンスター!?」
甘奈はびくびくしながら、慌てて周囲を見渡す。
「……この辺りも、被害が出てるか」
玉が小さくつぶやき、再び足を踏み出した。
「ちょ、ちょっと! はやいってばー!」
甘奈が慌てて追いかけようとしたそのとき。背後からおずおずとした声が届く。
「あの……! 厚かましいお願いだってわかってるんですけど、この近くに、まだ無事な集落があるんです。そこまで……送ってもらえませんか……?」
玉の足が止まり、視線が鋭くなる。
「……親は?」
「僕を……逃がすために……。足止めしてくれて……」
その言葉を最後に、子どもはうつむいたまま何も言えなくなった。肩が小さく震えている。
「じゃあ、もう……」
甘奈がぽつりとつぶやいたその瞬間、子どもの目から、大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
泣くまいとこらえていたのに、それが限界を迎えたように。
「送ってあげようよ……! あんた強いんでしょ? モンスター出たって、余裕でしょ!?」
「……こちらの目的のほうが重要だ」
「じゃあ、あたしあんたと行かない。このまま森でモンスターのエサにでもなってやるし!」
甘奈は子どもにしがみつき、わざとらしく離れようとしない。
玉はため息をひとつついた。
「……面倒だな。今の俺にテレポートするだけのMPはない。その集落とやら、ここからどれくらいかかる?」
「! 一時間くらい……です」
返事を聞くなり、玉は迷いなく子どもをひょいと背負った。
「こっちのほうが早い」
「ふふっ、ありがと。最初からそうすればいいのに~」
甘奈は笑って、ふっと肩の力を抜いた。
「そういえば、名前聞いてなかったかも!」
「……ヤーラです。獣人の村に住んでました」
「ヤーラちゃんか! よろしくね! あ、あたしは甘奈! 立花甘奈っていうの。で、こっちは玉」
「ぼ、僕……男なんですけど……」
「えっ!? あっ、ご、ごめん! 顔が可愛いからつい!」
「……よろしくお願いします、甘奈さん。玉さんも」
その笑顔を見て、甘奈はふと思った。
……絶対、ちゃんと送り届けてあげなきゃね。
てか玉、もっと早く背負ってやんなよ~!まじツンデレじゃんw
ヤーラくん、これからもよろしくね!