第27話 わたしたちは、生きていてはいけないの? 【魔族の子供視点】
魔族は、生きていてはいけない存在なのか──
そんな言葉を聞いてしまった子供の視点から始まるお話です。
感情にまかせて町に来てしまったその姿を、少しだけ覗いていってください。
悔しくて、悔しくて、たまらなかった。
だから、わたしはとと様に嘘をついた。
「前に気になる場所を見つけたから、少しだけ確認してみたいの」と言って──
本当は、あのニンゲンの住む町に、もう一度行きたかっただけなのに。
とと様は心配してた。
立て続けに町に近づけば、魔族だとバレる可能性が高まるって。
そしたら、わたしなんて、簡単に殺されるかもしれないんだぞって。
でも、わたしは──それでも行きたかった。
『魔族を許してはいけない。魔族は存在すらしてはいけない』
あの言葉が、ずっと頭の中をぐるぐるしてる。
どれだけ振り払っても、消えてくれない。
わたしたちの住む場所を汚したのは、ニンゲンなのに。
なのに今度は、「生きてることすら罪」だって?
──そんなの、あんまりじゃない。
だから、どうしても言ってやりたかった。
あのニンゲンに、「間違ってる」って。
それだけのために、とと様に嘘をついて、町に来た。
わたしは今、その“白い建物”の前に立っている。
でも──
「……いない」
前にあの演説をしていた、白い大きな建物の前。
今日は人の姿すら見当たらない。
(どうしよう……帰ろうかな。でも、とと様が来るまで、まだ時間がある……)
わたしは迷ったまま、建物の前をぐるぐると歩き回っていた。
そのとき。
「さっきからうろうろしているけど、何か用か?」
突然声をかけられて、心臓が跳ねた。
白いローブを身にまとったニンゲンの男が、こちらに近づいてくる。
「ここは関係者以外、立ち入り禁止なんだ。……物乞いか? 他所でやってくれ。迷惑だ」
その口ぶりには、何の情もなかった。
わたしを見ている目は、まるでゴミでも見るようで。
(……ニンゲンのくせに)
わたしは思わず一歩引いた。
だけど男は、手を伸ばしてきた。
「なんだ、顔も見せられないのか? おかしな子供だな──」
その手が、フードに触れそうになる。
(だめっ……! 肌を見られたら、魔族だってバレる!)
──そのとき。
「すみませーん!!」
後ろから声がして、男の手が止まった。
「その子、僕の友達なんです。初めての場所で、迷ってしまって……」
視線を向けると、年の近い男の子が、わたしの腕を軽く掴んで立っていた。
獣みたいな耳がちらりと見える。
でも、顔はニンゲンみたいで──なんだか、変なやつ。
「ちょっと~、ヤーラ速すぎ! こっちは走ってんのに!」
少し遅れて、別のニンゲンの女の子が追いついてきた。
わたしは知らない。こんな子たち、見たこともない。
「(ね、魔族なんでしょ? あの人にバレたらヤバいから、とりあえず話合わせて)」
女の子が、わたしの耳元でそっとささやく。
声の調子は軽いけど、どこか緊張を感じた。
信用はできない。
でも──あの男よりは、ましかもしれない。
気づけば、わたしは黙ったまま、彼らに連れられて歩き出していた。
最初は「文句を言ってやりたい」という一心で町へ来ました、
実際に人間の目にさらされたときの恐怖や、見ず知らずの子に手を伸ばす誰かの存在に、
少しずつ心のバランスが揺れていきます。
彼女にとってヤーラたちが「ただの人間」として終わるのか、
それとも……というのは、もう少し先の話かもしれません。




