第24話 じじいの引退、そういうカラクリね
アタシが“長”になった経緯が、どうやら判明したらしい。
まあ、いまさら知ったところで何も変わらないけど。
……スカルがうるさいのは相変わらずだし、オーガは何考えてるのか相変わらず分からないし。
息苦しい城の中で、今日もどうにかやってる。
「原因は、前魔王様のご子息のようですね」
「ちょっと待て……じじいに息子なんていたのか?」
「……ピケ様が外界のことに関心をお持ちでないのは存じていましたが、想像以上で驚いております」
ピケはフンと鼻を鳴らした。
「まさか自分が“長”になるとは思っていなかったからな……」
しばしの沈黙が流れる。
「どうした、骨。それで話は終わりか?」
「あっ、いえ! ピケ様のあまりの美しさに見惚れてしまいまして!」
骨であるため表情は読み取れないが、スカルは手を頬に当ててうっとりしている。
殴りたくなる衝動をぐっとこらえた。……まあ、魔力に全振りしてしまったせいで、アタシの物理的な攻撃力はかなり低い。殴っても、こいつを喜ばせるだけだ。やめておこう。
「前までは中立的な立場だったようですが……最近では、『魔力量ではなく血筋で長を決めるべきだ』という意見を、エルマドール様に強く訴えているようです。衝突が絶えないと聞いております」
なるほど。
それなら、あのじじいが引退を急いだ理由も、アタシにバトンを渡してきた理由も、少しは理解できる。
「過激派が、ご子息にいろいろ吹き込んでいるようでして……どうやら、その影響かと」
ああ。そういうことか。
もし息子が「自分を長にしろ」と言い出したとしたら──あの頭の固いじじいのことだ、しきたりを重んじるだろう。だから、最も魔力の強い時期候補を探す。
……それが、このアタシというわけだ。
過激派としても、混乱を起こしたいなら“表舞台に出ていない厄介者”を使いたいだろう。
アタシを引っ張り出すために、あえて息子を使った……という筋書きか。
「……気分が悪いな」
「それは一大事です! わたくしめが、膝枕をして差し上げましょうか?」
「は?」
一瞥くれてやると、スカルは嬉しそうに身をよじっていた。
やはりこいつは、変わったモンスターだ。
* * *
ピケは、そんな昔のことをふと思い出しながら、城の窓から見える風景を眺めていた。
前の塔の中は広くはなかったが、空が近く感じた。
今いる場所は、遠くに質素な家々が見えるだけで、味気ない風景が広がっている。
城に移ったはいいものの、そのほとんどが立ち入りを制限されており、むしろ息苦しささえ感じてしまう。
「そういえば──あのモフモフ……ヤーラと言ったか。どうしてるかな」
その独り言を、スカルは聞き逃さなかった。
「!」
「わたくしは悲しいです……ピケ様。わたくしを、あの小僧だと思って抱き上げてくださっても……よろしいのですよ?」
ドカッ!
「ああ……幸せです……」
スカルが床に崩れ落ちる。恍惚とした表情を浮かべながら。
その様子を見たオーガが、「あー」とだけ低く唸った。
表情は変わらないが、わずかに視線をそらしている。
それは、誰の目にも──ドン引きしていると分かる反応だった。
ピケはため息をひとつ。
今日もまた、アタシの周りはなんやかんやで騒がしい。
血筋とかしきたりとか、正直どうでもいい。
アタシが選ばれたのは、ただ魔力が強かったってだけの話。
……それでも、あのじじいの腹の内を知ると、ちょっとだけムカつく。
あと、誰かスカルを黙らせる方法、あったら教えて。




