第23話 魔王? 聞いてない。今さら出すな、アタシというバグを
ピケだ。
「世界を壊すから」って理由で塔に閉じ込められて育ってきたが、今さら「魔王になれ」だとさ。
アタシは、生まれたときから厄介者だった。
強すぎる魔力で、ただ存在しているだけで世界のバランスが崩れるらしい。
だから物心ついたころには、すでに結界に囲まれた塔で暮らしていた。
外に出られるのは月に数回。それも、必ず誰かの付き添いつき。
でも、べつに不満はなかった。
生まれたときからずっとそうだったから。
──あのもうろくじじい……いや、前の長がアタシにこう言うまでは。
『自分は引退する。だからお前が次の長になれ』
……は?
魔族の村では「魔力の強い者が長になる」っていう掟がある。絶対的なルール。
でも──
「アタシが長になったら、魔力のバランスが崩れるんじゃなかったのか?」
「掟は掟だ。お前には、近いうちに城の方へ移ってもらう」
「結界は張るのか?」
「長にそんなものは必要ない」
──言ってることが無茶苦茶だ。
じじい──エルマドールは、わざとらしく大きくため息をついて首を振った。
「……正直、お前のことを快く思っていない者も多い。反対意見も出た」
……そりゃそうだろ。
アタシはまだ二十年程度しか生きてない。
魔族の寿命は約千年で、長の任期はだいたい五百年。
生まれたてのガキが座るには、重すぎる椅子だ。
「人間を刺激することにもなりかねんという意見もあった」
「だったら……!」
「決まったことだ。腹をくくれ」
……何が“決まった”だよ。
最終決定を出したのは、あんただろうが。
「ふざけんな! 今までずっと塔に閉じ込めておいて、今さら……」
そのとき、背後で物音がして振り返ると、オーガが心配そうにこちらを見ていた。
じじいはアタシではなくオーガの方を見て、吐き捨てるように言った。
「ふん。お前が長になれば、“お仲間のモンスター”も増えるかもな」
──嫌味だった。
知性を持つモンスターであるオーガやスカルを、部下のように従えているアタシは、
魔族社会じゃ異端中の異端らしい。
まぁ……スカルに関しては、勝手についてきただけなんだけど。
夜になっても、長に言われた言葉が頭から離れなかった。
部屋の前に控えていたスカルに声をかける。
「なぁ、骨」
「はっ!」
「じじいって、こんな無責任なやつだったか?」
「エルマドール様のことですか?……いえ、最近は特に、“例の過激派”の影響が強まっているようで」
「過激派……」
かつて、人間が魔族の領土を狙って戦争を仕掛けてきたことがある。
そのときの恨みを、いまだに引きずってる連中がいる。
「なぜ我らが、狭い場所に押し込められなければならんのだ!」と息巻いて、
再び争いを起こそうとしているらしい。
退屈すぎる日々に火をつけたいだけの、やっかいな奴らも混ざってるって話だ。
「まさか、あの堅物がそんな言葉に流されるなんてな……」
「お調べしましょうか? 何かおかしいとは思っていました」
「頼む」
──なんだか、胸の奥がざわついて仕方なかった。




