第11話 ギルドの検査がゆるすぎて、逆にスマホの方が強かった
ギルドで冒険者登録してきましたっ☆
まさかの魔力検査で、いろいろバレちゃってちょい恥ず……!
てか、スマホが急に光ったんだけど!?!?
城下町の大通りを抜けた先――
一際目立つ石造りの建物に、木製の大きな看板が掲げられていた。
《冒険者ギルド セリオス支部》
「……おー……異世界って感じだ」
甘奈がぽつりと呟いた。
重厚な木の扉を押して中へ入ると、まず目に入るのは、広々とした受付ホールだった。天井が高く、壁には武器や古地図が飾られていて、床はしっかりとした石畳。冒険者らしき人々がちらほら立ち話をしている。
どこかから、わいわいとした賑やかな声と、木製の椅子が軋むような音が聞こえてくる。
受付カウンターの奥にある一枚の扉。その向こうが酒場になっているのだろうか。
「いかがされました?」
受付に立っていたのは、清潔感のある整った顔立ちの男性だった。
「この二人の、冒険者登録を頼む」
玉が一歩進み出てそう告げると、受付の男性はにこやかにうなずいた。
「かしこまりました。……簡易検査もご希望ですか? 無料で受けられますよ」
「頼む」
玉が短く答えると、男性は後ろを振り返って声をかける。
「セラフィナさん、検査の案内を」
すぐに、奥からふんわりとした雰囲気の女性が現れた。落ち着いた笑顔の、優しげな人だ。
「はい、こちらへどうぞ〜」
促されて、三人はギルドの奥へと歩き出す。途中、扉の向こうから聞こえる酒場の賑やかな声が遠ざかっていった。
案内された部屋は静かで、中央には古びた石板が据えられていた。
「簡易検査になります。こちらに手を乗せて、少し集中してみてください」
言われるがまま、年季の入った石の板にそっと手を置く。すると──じんわりと、手のひらから温かい光が放たれた。板が淡く輝く。
「……なるほど。火の魔法、水の魔法、それと……治癒魔法は珍しいですね。しっかり伸ばせば、かなり重宝されますよ」
その言葉に、隣で様子を見守っていたヤーラが目を輝かせる。
「すごいですね!」
「ただ、体力面は……そこまで高くはないですね。そのぶん、魔力量がやや多めに出ています」
ふむ、と顎に手を当てて考え込むセラフィナさん。あたしの能力は、どうやら偏りがあるらしい。
「えーっと、あとは……」
板をじーっと見つめていたセラフィナさんは、やがて微笑んで一言。
「詳しい検査は有料になります」
……ですよねー! 心の中でツッコミを入れたのは、あたしだけじゃないはず。
次はヤーラの番だ。あたしと同じように板に手を乗せると、セラフィナさんの目がふっと鋭くなる。
「……これは。雷と風の魔法ですね。それに、反応が速い……スピード特化型の傾向が出ています。体力は平均、魔力量は少なめですが──かなり動けるタイプですよ」
「やった……!」
ヤーラが小さくガッツポーズをする。
その間に、あたしは玉に話しかけた。
「ねぇ……板がバリーンって割れて、『おお、あなたにはすごい才能が!』ってなるやつじゃなかったの?」
「前にも言っただろう。お前には“ずば抜けた才能”は見受けられなかったと」
「まじかぁ……」
「だが、彼女も言っていた通り、これはあくまで簡易検査だ。体力、魔力量、現時点で使える魔法の判定のみ。……“スキル”に関しては別だ」
「スキル……?」
「趣味嗜好や思考の傾向が反映されやすいと、オレは思っている」
スキルかぁ……。あたしの趣味嗜好? うーん。
「あたしは、スマホで可愛い写真撮ったり、SNSで友達とやり取りするのは好きかも!」
そう言って、反射的にポケットから取り出したスマホを玉に見せる。玉はそれをまじまじと見つめた。
「これは…」
玉の視線がスマホに釘付けになっている。なんだか様子が変だ。
宿屋に戻ったあたしたちは、玉とヤーラの部屋に集まっていた。玉は、もう一度スマホを見せろと促してくる。
「魔法を使うときみたく集中して触ってみろ」
言われるがまま、スマホに意識を集中し、魔力を注ぎ込む。すると、真っ暗だった画面が、まばゆい光を放ち始めた。
「え?!もう電池なくなってたのに…何で?!」
スマホの充電はとっくに切れていたはずなのに、あたしの魔力で起動するなんて……。
「魔力を浴び続けた結果、性質が変わり、魔導具に変化したのかもな…」
「まどうぐって本当にあるんですね」
まさか、あのスマホが魔導具になるなんて。驚きを隠せない。
「うーんでも使える機能がカメラとマップだけだよ」
玉の言葉に、少しがっかりする。せっかく魔導具になったのに、使える機能が少ないなんて。
とりあえず、マップを開いてみた。すると、画面上にこの周辺の地図が表示され、小さな光の点がいくつも動いている。色とりどりの光の点に、思わず目を奪われた。
玉は、その画面を見て驚いた顔をしている。
「もっとよく見えないか?」
あたしが画面を拡大してあげると、玉は珍しく素直な誉め言葉を発した。
「これはすごいな」
【周辺マップ】
・緑:モンスター(低リスク)
・赤:モンスター(高リスク)
・黄色:高魔力地帯
「この辺りがダンジョンだから、この点はモンスターだろう。この板はさっき検査で使った板の上位互換のようなものだ」
玉の説明に、なるほどと頷く。このスマホのマップは、モンスターの位置まで表示してくれるのか!
「こっちはどんな能力なんでしょうか?」
次に、カメラ機能も試してみたくなったあたしは、ヤーラにレンズを向けてみる。すると、画面には昼間検査員に言われていたヤーラの検査結果が表示された!
【ヤーラ:獣人の子供】
魔法:雷 / 風
魔力:D 体力:C 敏捷:S
特性:反応速度+15%
まるでゲームのステータス画面みたいだ。
続けて、玉にカメラを向けてみた。すると……画面には「???」マークがやたらと多い。
【???】
魔法:???
魔力量:計測不能
特性:解析不能
スキル:???
どうやら、玉の能力は、あたしのスマホでも完全に解析できないほど、とんでもないものらしい。
「チートじゃん……」
あたしは、思わずポツリと呟いた。
スマホが魔導具っぽくなっちゃったんだけど〜!?
てか、マップもカメラもガチで便利じゃん……最高か?