第9-1話 たまたま玉に選ばれた(ホントに)
えっとね、今回はまじでびっくりしたよ~!
王様から色々もらったのはいいんだけどさ、防具がダサすぎて泣きそうだったんだけど!?
しかもさ……玉のヤツ、またあたしにヒドいこと言ってきたんだけど!ぷんすこ!
セリオン王からの支援は、旅の準備としては十分すぎるほどだった。
干し肉や保存パン、簡易鍋、テント、水袋、地図――そして、最後に手渡されたのは防具だった。
「こちらは装備です。特注ではありませんが、王城直属の標準品となります」
そう言って差し出されたのは、茶色い革でできたごつい胴着と、無骨な膝当て、それに丸っこい鉄製のヘルムだった。
「……なにこれ〜!!かわいくないんだけど……」
兵士が戸惑うように口を開いた。
「あ、えっと……性能としては、一般の冒険者装備より上の――」
「ちっちっち!」
甘奈は人差し指を振って、残念そうに首を振る。
「わかってないなぁー。こーゆーのじゃないんだよなぁ。フリフリとかレースとかは無理でもさ、せめて気分が上がる色合いとか……」
兵士は返す言葉を失い、沈黙した。その横で、玉がぼそりと言う。
「つけなければいいだろ」
「でもでも! それはそれで攻撃受けたら痛いじゃん!」
「文句を言うくらいなら、その変な服のまま戦闘しろ」
甘奈はぶつぶつ言いながらも、しぶしぶ装備を受け取った。
そんな甘奈の横で、ヤーラは支給品をじっと見つめている。
「……この皮、すごくいい皮ですよ! 防御力も高いと思います!」
「ま、痛くない方がいっか」
甘奈はヤーラの頭を撫でた。支給された鍋やら袋やらをぶら下げながら、一行は玉を先頭に城門を出る。
「なお、宿泊についてですが――」
背後から声をかけてきたのは、王直属の文官だった。
「王命により、城下にある“金獅子亭”に滞在中は無料で宿泊いただけます。すでに通達済みですので、そちらをご利用ください」
「えっ、タダで泊まれんの?マジ感謝セリオス王!」
「セリオン、だ」
「それ!」
玉が疲れたようにため息をつきながらも、甘奈たちはそのまま宿へ向かった。
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数刻後、“金獅子亭”と呼ばれる宿の食堂。
王の支援によって用意された部屋で荷を下ろし、甘奈たちは1階の広々とした食堂に足を運んでいた。
木のぬくもりを感じる内装と、香ばしい肉の香りが満ちた空間。兵士や旅人らしき人々があちこちで食事を楽しんでいる。甘奈たちは一番奥の長机に腰掛け、湯気の立つ肉の煮込みを前にしていた。
甘奈は煮込みを一口食べると、ふっと真顔になって玉に向き直る。
「ねえ、王様のお願い聞いたんだからさ。今度はあたしの聞きたいこと、ちゃんと答えてよ?」
玉は無言で頷いた。甘奈は少し息を吸い、真剣な顔になる。
「……まずなんで、あたしだったの?」
そして急に、笑い混じりの軽い声に戻る。
「チート級の才能を感じちゃったとか? ものすごーい魔法使いになれそうだったからとか?」
目をきらきらさせる甘奈。だが――
「偶然だな」
玉の言葉はあまりにもあっさりとしていた。
「……は?」
「お前の所に行き着いた時点で、オレの魔力が底をつきそうだった。他空間転移を使うには大量のMPが必要となる。長くとどまる余裕もなかった。目についたお前を、つれてきた。それだけだ」
甘奈の笑顔が固まる。
「え、ちょっと待って。でもさ、でもさちょっと前に“素質がある”って言ってたよね!?」
「もちろん、何の才能もない奴は連れてこない。だが異世界人は基本的に何かしらの資質を持っている。お前がチート級かと聞かれたら……違うな」
「……うっわ……最っ悪。運悪く通りがかっただけで異世界トリップって、ないわ〜……」
甘奈はスプーンをガチャリと置いて、ぐっと額を押さえる。
「あと……あんた、何者? なんでそんなに偉そうなの?」
玉は少しの間を置いて、静かに答えた。
「……オレは人工的に作られた存在だ。それ以上は、今は話す意味がない」
「は? 機械とかってこと?」
「ちがう。お前の世界の言葉で言うなら……化け物、だろうな」
甘奈の表情がこわばる。玉はそれ以上何も語らなかった。
「聞きたいことは、終わりか?」
「……あ、まだ」
甘奈はカバンをごそごそとあさり、スマホを取り出した。
「これ。この世界で使えないの? 電波ないんだけど!」
「当然だ。お前の世界とここの世界は、そもそも“成り立ち”が違う」
そのとき、それまで黙って食べていたヤーラが、肉を頬張りながらもごもごと話しかけてきた。
「でも、玉さんって……木を一瞬で折っちゃうくらい強いじゃないですか? だったら、その女魔王にも勝てちゃうんじゃ……」
「確かに!」
甘奈もすぐに身を乗り出す――
(続く)
玉って結局なにもの? …ってか化け物っってどゆこと?!
…ま、難しいことは置いといて
とりあえず次回もよろ~♪