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君に捧ぐ魔法  作者: 秋茶
6/50

第6話 記憶の回廊 ―幼き日をたどって―(後編)

読者の皆さま、いつもお読みいただきありがとうございます✨


『君に捧ぐ魔法』


アリの幼少時代を描いた回想編(後編)となります。


アリという人物の“原点”を、どうぞ見届けていただければ嬉しいです♬

午後の昼下がり。

アリは、弟皇子カインと宰相セラフィムと共に、くつろいだ時間を過ごしていた。


アリがかつて王宮の離れに移されていたことを聞いたカインは、目を輝かせて言った。

「姉上は魔法がお好きだったのですね! お強いと聞いてます!」


実はカインは、アリが実際に魔法で戦う姿をまだ見たことがなかった。


「だから、魔物退治に抜け出していたんですね!?」


アリは、もはや「誰に聞いたの?」などと野暮なことは聞かなかった。

「よ、よく知ってるね、カイン……」


チラリとセラフィムを見ると、彼は知らん顔で明後日の方を向いている。


ゼノと稽古を重ねるうちに、アリの中には“強くなっていくこと”への妙な自信と、

「かっこいいことをしたい」という、子どもならではの“ヒーロー願望”が芽生えていた。

――そして、アリの“世直し”が始まった。

彼女は静かに、思い出の続きを語り出した。


✦ ✦ ✦


アリは、ゼノを相手に剣術や体術を学んでいった。

ゼノは剣も体術も抜群に優れており、十歳にして皇帝の護衛見習いに抜擢されるほどの実力者だった。

教え方も上手で、アリの素質を見抜き、どんどん引き上げてくれた。


ある日の稽古後。

「ねぇ、ゼノ! 私、強くなった気がしない?」


「そうだな。その歳にしては、十分強いと思うぜ」


アリは満面の笑みを浮かべ、こう続けた。

「その力を……実戦で試してみたいの!」


「実戦?」

ゼノが片眉を上げる。


「うん、たとえば……魔物退治!」

「困っている民を救うの!」


その発想は、書庫へ向かう途中、王宮の門近くで警備兵の会話を聞いてしまったことがきっかけだった。


――「また昨日ナイトウッドが街に現れて被害が出たらしい」

――「最近、魔物がよく現れるな。軍は対応しないのか?」

――「そこまで甚大な被害でもないし、グロザリアの対応で手が回らないらしい」


父や軍が動けないのなら、自分が動くしかない。

アリの中に、静かだが揺るぎない決意が芽生えた。


ゼノは驚くこともなく、さらっと頷いた。

「いいんじゃね。やっちゃう?」


ぱぁっとアリの顔が明るくなる。


「でも姫、魔法は使うなって言われてるだろ? 使うのは俺だけな」


「……うん、わかってる」

アリは少しだけ残念そうに、それでも納得して頷いた。


そして、ふたりの“魔物退治”が始まった。


夜になると、こっそり王宮を抜け出し、魔物の出没する場所へ向かった。

時には魔物だけでなく、悪党や盗賊を懲らしめることもあった。


基本的にはアリが体術や剣で戦い、万が一倒しきれない場合はゼノが魔法でとどめを刺す――それがお決まりの流れだった。

もちろん人目につかないよう注意していたが、完璧に隠せるものでもなかった。


ある日、王宮の門近くを通ったアリは、警備兵たちのこんな噂を耳にする。


「最近、魔物を倒してる“賊”がいるらしい」

「周辺の街でも盗賊を倒したって話だぞ」


(賊……!?)

アリは内心ツッコミを入れた。

“賊が賊を倒す”とはどういうことか。


「いや、聞いた話によると、子どもらしいぞ」

「小さな子どもが颯爽と現れて成敗していくらしい」


(やっぱり……子どもだし、目立っちゃうよね)

焦りはしたが、「次からはもっと気をつけよう」程度にしか考えていなかった。


しかしその晩、事態は一変する。


想定よりはるかに強い魔物に出くわしてしまったのだ。

ゼノが深手を負いそうになった瞬間、アリはとっさに――


(父上、ごめんなさい……!!!)


心の中で詫びながら、禁じられた魔法を使ってしまった。


「――フランマ・モルティス!」


詠唱と同時に、敵を中心とした一帯が炎に包まれ、燃え尽きた。

あまりの威力に、アリもゼノも目を見張る。


アリにとっては、初めて使う大魔法だった。

詠唱と魔力の込め方は書物から学んでいたが、威力の想像までは及んでいなかった。


少しの魔力しか込めていない感覚だったけど、実際はやはり難しいことを感じた。

さらに、大魔法だからだろうか、どっと疲れた。

一瞬体力や魔力がすっからかんになったような感覚があったが、

しばらくしたら、回復した。


幸い、魔物と燃えた草木以外に被害はなかった。

アリは心に決めた。――このままではいけない。


魔力の量を、自分でちゃんと調整できるようにならなきゃ。

じゃないと……いざというときに父上や母上を守れない。


その日を境に、アリは誰にも悟られぬよう、見つからぬよう、

密かに魔法の特訓を始めた。


けれど――ゼノにはあっさり気づかれていた。

「姫、魔法使ってるだろ。……魔力、漏れてるぞ」


アリは、ぐっと言葉に詰まった。

ごまかそうとしたけれど、先にゼノが言った。


「魔力結界の中でなら、漏れないはずだろ?」


「ありがとう、ゼノ!」

アリはぱっと笑顔を見せたが、すぐに次の言葉で青ざめた。


「でも、多分……陛下にもバレてるんじゃね?」


「えっ!?」


「姫の魔力って、なんか独特で、すぐわかるんだよな」


魔力には個性がある――書物で読んだ知識だったが、

自分が“目立つ魔力”を持っているとは思ってもいなかった。

アリは、驚きと不安に包まれた。


ゼノはさらに続けた。

「そういえば、姫が屋敷に移った日の昼、

すげえ魔力を感じたんだよ。……今思えば、あれ、姫だよな?

俺、王宮にいたけど、結界が破れたとかで騒ぎになってたぜ」


「……!」


アリは息をのんだ。

あの日、自分が放った魔法が、そんなにも大きな影響を――


自分の力の重さを改めて実感し、心の中に静かな決意が宿る。

決して暴走させてはならないと、静かに心に誓った。


こうして、“世直し”はアリが皇帝に即位する直前まで続けられた。


即位後は当然、政務に追われる日々が続き、加えて戦乱の最中でもあったため、その活動は一時中断されることとなる。

だが、戦が終わり、国に静けさが戻った頃――

ふたたび、“ちいさな世直し”が再開された。


気づけば、いつの間にか仲間が増えていた。

ゼノの妹・ユイナと、側近となったノアだ。


ユイナは、ある日ゼノが突然「これ、俺の妹。よろしくな!」と軽い調子で連れてきた。

ノアは、グロザリアとの戦のさなか、とある村で身寄りもなくさまよっていたところを、アリが助けて連れ帰った少年だった。


誰が誘ったのかは――誰も覚えていない。


✦ ✦ ✦


それからしばらくたって、アリはふと思い出した。

かつてゼノが話してくれた、“王宮の結界が破れた”という出来事。

気になって、確かめに行くことにした。


(たしか、結界の中心は……皇祀殿〈こうしでん〉だったはず)


王宮の最奥にひっそりと佇む神殿、皇祀殿。

クラリエル家の血を引く者たちをまつる聖域であり、王宮の結界を支える要でもある。


普段は立ち入りが禁じられているが、結界を張り替える者とクラリエル家の血族に限り、出入りが許されている。

アリが扉に手をかけると、静かに開いた。


この場所に足を踏み入れるのは、初めてだった。


中は神秘的な静けさに満ちていた。

並び立つ石像や彫像、魔法陣が描かれた床、荘厳な祭壇――

すべてが、どこか異世界のようだった。


「……すごい……」


思わず声が漏れる。

と、ふと目に入った。


祭壇の上、球体の水晶――《命の水晶》が、かすかに光を帯びていた。

魔力に共鳴して輝くよう、古の魔法で加工されたものだと、以前どこかで読んだことがある。


アリはそっと近づき、手をかざした。


その瞬間――


水晶が淡く輝きを強め、光が煙のように漂いながら、ふわりとアリの胸元へ流れ込んでいく。

まるで、吸い込まれていくように。


「わわっ……!」


思わずのけぞったが、それ以上何も起きなかった。


(……なに、いまの?)


気にしないことにして、祭壇の周囲を見回すと、貼られていた結界呪符は新しく、最近貼り替えられたばかりのようだった。


アリは小さく「ごめんなさい」と呟くと、静かに皇祀殿を後にした。


その出来事は、彼女の運命を静かに変え始めていた――

けれど当時のアリは、まだ何も知らなかった。


✦ ✦ ✦


話し終えると、カインが目を輝かせて言った。

「わあ……すごいです、姉上!もっとお話し聞きたいです!」


アリが微笑んで「ふふ、続きを話してもいいけど――そろそろ講義に戻らないとね」

とカインをなだめた。

「また今度、話してあげる」


そういって、3人は席を立った。


ひとときのくつろぎは終わり、アリの慌ただしい日々が、再び始まる――。

だが、この穏やかな時間は、束の間のものだった。

やがて訪れる新たな出会いが、彼女の運命を、大きく動かしていく。


カルディナス帝国の謎の青年――アレクシスとの邂逅。

そして、草原で交わした約束の続きを果たす、運命の再会。


すべては、静かに、そして確かに始まろうとしていた。


✦ ✦ ✦

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