表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君に捧ぐ魔法  作者: 秋茶
34/50

第34話 うごめく策謀

アリの治療が終わり、入室を許されたルイとノアが医務室へと入ってきた。


表情は暗い。

そして、ルイが改めてアリに声をかけた。


「アリ、大丈夫?」


アリは頷きながら答えた。


「ありがとう。大丈夫よ。あの子は……?」


自分を刺した少年のことを気にするアリ。


「ああ、先ほど聴取を終えたよ。まだ留置しているが、じきに街へ帰す予定だ。

刺したことは覚えていないが、自分が君にケガを負わせたと知って、謝罪していたよ」


「そう……。はっ、そうだ。あの指輪は?

あの子が倒れたとき、わずかに魔力が漂っていたの」


ルイはそっと手巾を開き、手のひらを差し出す。


その上に置かれていたのは、魔鉱石のついた指輪だった。

今は魔力が感じられないが、たしかにあのとき、この石から魔力が滲んでいた。


アリはじっくりと観察しながらつぶやいた。


「魔導具ね……。魔鉱石に術を込めたのね。

あまり上等な石じゃないし、効果も一時的だったのかも」


「うん。これから鑑定に回すけど、この魔鉱石はグランゼルドでよく採れるものだし、希少なものじゃない」


続けて、ルイが静かに口を開く。


「少年は、いくつか思い出してた。“うまい仕事がある”と言ってきた声は、若い男のようだったと。

それから、最後に“刺せ”と命令が聞こえて――そのあとは、君たちに話した通り、何も覚えていないようだ」


(若い男……“刺せ”)


「命令をトリガーに呪縛が発動する術だったのね」


しかも、狙いは明らかに“消えた金”の調査を進めていたアリだ。

本気で消したいなら、“刺せ”ではなく“殺せ”と命じるはずだが……。

“殺せ”と命じた後に、具体的な行動を指示するような術なのかもしれない。

そして、かつてグロザリア王を影で操っていた人物との関係も……。


様々な疑問が頭をよぎる。


アリはうつむきながら、しばし考え込んだ。


重傷を負ったアリに、今は負担をかけるべきではないと判断したルイは言った。


「こちらで調査を進めるから、アリはゆっくり傷を癒してほしい。

ルドガーから、まだ傷が塞がっていないと聞いた。無理をしないで」


「ルイ……この件、危険すぎるわ。どうか……慎重に」


ルイは真剣な面持ちで頷き、「また来る」と言い残して医務室を後にした。


✦ ✦ ✦


王宮二階、薄暗く人気のない廊下――


シリウスはゆっくりと歩いていた。


やがて、廊下の角から音もなく一人の騎士が現れる。

ふたりはすれ違いざま、小声で言葉を交わした。


「……しくじったな」


「指輪に込められた術が、思ったより弱かったようです」


「ふん……あの程度で殺せるとは、最初から思っていなかったがな」


「……あの指輪はどこで……?」


シリウスはその問には答えず、「次の手は考えてある」

短くそう告げ、騎士に新たな指示を与えた。


✦ ✦ ✦


ルイは、アリから報告された城下の異常な流通状況を鑑み、

グランゼルド全土に向けて、次の通達を出すことを決定した。



『武器・魔導具・素材の買い占めおよび独占を禁ずる。

一度の購入額が100万ルクトを超える場合は、

事前に国への申請と許可を要するものとする。


また、魔導士および剣士の紹介所において契約を解除する際は、

国の申請書に必要事項を記載し、身分証明書を添えた上で承認を受けること。』


――通達は即日発令された。

武器・魔導具・素材の流通に対する異例の制限は、城下に小さな波紋を広げつつも、治安維持の観点から歓迎する声も多かった。


アリは執務室の窓際で、通達の写しを手にしてつぶやいた。


「これで、グランゼルド国内では当面、大量の武器や魔導具が流通する心配はなくなるわね。

少なくとも、裏で誰かが密かに武装を整えるのは難しくなるはず」


ルイも静かに頷き、視線を伏せた。


「ただ……国外での調達までは、さすがに手が回らない。

カルディナスやグロザリアを経由されれば、こちらの監視は届かないからな」


アリは小さく頷き、窓の外──遠く霞む空の先へと視線を向けた。


(どうか……このまま、火種ごと鎮まってくれれば)

心の中で、そう願わずにはいられなかった。


✦ ✦ ✦


――数カ月後


グランゼルド王宮に慌ただしい空気が走った。

ほどなくして召集命令がかかり、緊急会議が開かれた。


アストリアン皇帝カインからの急報を受けたためだ。

その内容は──

『アストリアン南国境にて、はるか南の地より強大な魔力を観測した。

昨年セレフィア王国で《タイタン》が出現したときと同等魔力と思われる』というもの。


「またか! 前回の出現からまだそんなに経っていないのに……」

「アストリアンの南というと、カルディナスか?」

「なに、アリア様が討伐してくださるさ」


官吏や重臣たちは、早くも騒ぎ始めていた。


ルイが発言しようとしたところで、エリオットが「静粛に」と声を上げた。

場が静まったのを確認し、ルイが立ち上がり、落ち着いた声で言う。


「今回、おそらくカルディナス国内と見て間違いないとの見解が出ている。

現時点では魔力の観測のみで、古の魔物の出現や被害は確認されていない。

だが、前回同様、古の魔物であるなら、出現は時間の問題だろう。


したがって、今回も調査団を派遣する。

即刻、現地調査にあたり、可能であれば召喚の阻止。

万一出現した場合は、アリア指南役の指揮のもと、討伐にあたる。


――そして、今回は私が同行する」


その瞬間、会場がざわめいた。


「いけません、陛下がお出ましになるなど危険です!」

「おやめください、アリア指南役が居れば討伐は可能でしょう?」


ルイは片手をすっと上げ、それらの声を制した。


「皆も知っての通り、古の魔物は、現状、古の魔法でしか倒せない。

しかし、それに代わる手段があるかもしれない。それを試すために、私は行く」


「それでも……」と、不安の声が重ねられる。


「陛下が不在の間、政務はどうなるのです? シリウス様に留守を預けるという理解でよろしいか?」

と、ザカリアがあからさまな挑発を込めて問うた。


シリウスに留守を預けるなど、彼の派閥を勢いづける口実になる。

ルイはもちろん、それを理解していた。すでに宰相カイエンと相談を済ませている。


「その件に関しては、皇帝代理は立てない。

万一もない。必ず戻る。不在の間の政務については、カイエンに一任する。補佐にエリオットをつける」


どよめきが起きたが、カイエンの名が出たことで、重臣たちの大半は納得した様子だった。

だが、なおも一部のシリウス派は食い下がる。


「しかし宰相殿には、皇帝の代役は務まりませんぞ」

「シリウス様を代理に立てればよいものを」


ルイは再びはっきりと告げた。


「もう一度言う。不在の間の一切は、カイエンに一任する」


それは反論を許さない、強い意思の表れだった。


カイエンはルイの前に進み、一礼する。


「陛下。お任せを」


ほとんどの重臣たちは、これに従う形で了承の意を示した。


こうして調査団は結成され、カルディナスへの出立準備が急がれることとなった。


✦ ✦ ✦

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ