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君に捧ぐ魔法  作者: 秋茶
19/50

第19話 謎の魔導士、その名は――

グランゼルド帝国魔導大会は、順調に四回戦へと進んでいた。


第1試合、アリ・クラリエル vs ラグナル・ヴォルク――

アリが圧倒的な力を見せつけ、難なく準決勝進出を決める。


第2試合では団長アデルが堂々たる勝利を収め、

第3試合も、小隊長セリオスが余裕の展開で勝ち上がった。


そして迎えた第4試合。


審判のコールとともに、フィールドに姿を現す二人の戦士。


ひとりは――グランゼルド騎士団副団長、レオン・ユリス。


長い黒髪をゆるく束ねた端正な顔立ち。

その柔らかな笑みの奥に、戦場を知る者の威厳と実力を隠し持つ。

アデルと並び称される実力者であり、副団長の地位も伊達ではない。


そして対するは――

正体不明の“謎の魔導士”。


黒衣に身を包み、目深にフードをかぶったその人物に、観客たちはざわめく。


「…あれが謎の魔導士か?」

「名前も名乗らず、顔も隠すなんて…ほんとに謎だな…」


その魔導士は、ただ静かに、微動だにせずフィールド中央に立っていた。


最前列の観客席に戻ってきたアリに、ゼノが声をかける。

「謎の魔導士ねぇ。飛び入りだって話だぜ?」

「そうなの? マントでよく見えないけど……でも、強そうね」

アリは視線を向けながら、ふと背筋に緊張が走るのを感じていた。

見えないその気配に、ただならぬものがある。


フィールドの向こうで、レオンの目が鋭く細められた。


(何者だ……? 飛び入りの参加者、しかも全身を隠す理由……

 顔見知りか、それとも、ただの目立ちたがりかはたまた顔出しNGか……)


どちらにせよ――油断はできない。


審判の開始の合図。


レオンは一礼し、爽やかな声で宣言した。


「謎の魔導士殿。正々堂々と、全力でお相手いたします。いざ!」


その瞬間、詠唱が始まった。


「アクア・ランケア」


【水】属性の上級魔法――無数の水の矢が空より降り注ぐ。

だが、次の瞬間、観客席がざわめいた。


魔導士の周囲で、水の矢が弾かれるように流れていく。

まるで見えない傘が開いたかのように――。


(結界……!)


レオンは即座に理解する。

これは、自身の上級魔法でも突破できない強固な防御だ。


「……やはり」

わずかに警戒を強めたレオンは、すぐさま間合いを詰め、次なる魔法を展開する。


「トッレンス・セクタ!」


水流の斬撃――激流が龍のようにうねりながら、魔導士へと襲いかかる。

だが、魔導士が手をかざすと同時に、地面から大地の壁が隆起し、水流をはじいた。


レオンは目を見開いた。


(いつ詠唱を……?)


アリが観客席でぽつりと呟く。

「……詠唱、聞こえなかったわね」

「聞こえなかったな」

隣のゼノも応じる。


その隣で、アデルが黙って魔導士を見つめていた。

わずかに目を細め、口元に手を添える。


(この魔力の収束と反応速度……見覚えがあるような……)

(まさか、な……いや、まさか)


そう内心でつぶやいたが、言葉にはしなかった。

まだ確信があるわけではない。だが、その戦いぶりには確かに既視感があった。


次の瞬間、魔導士の足元から地面が割れ、一直線に石の槍が突き上がる。

それはまるで波のように走り、レオンを飲み込む衝撃波へと変わった。


(やはり……詠唱なし、ということは――)


そしてその時、魔導士のフードの隙間からわずかに見えた瞳に、レオンは気づいてしまった。


「っ……」

驚きとともに受けた衝撃波をまともに受け、レオンは地面に膝をついた。


軽傷ではあるが、確実な一撃だった。

息を整えながら、魔導士を見上げるレオンは、ふっと微笑を浮かべる。


「……やれやれ。これは、参ったな」


そう言って、審判に降参の意思を伝えた。


審判は頷くと、手を挙げた

「勝者、謎の魔導士!」


観客席は、意外性に驚きつつも、魔導士の華麗な魔法に魅せられ大歓声を上げた。


「いいぞー!謎の魔導士!」

「このまま優勝ねらえるぞー!」


「お、レオン副団長……降参したのか」

ゼノが気楽な調子でつぶやく。


アリは観客席を見ながら、やや神妙な顔で頷いた。

「そうね。驚いたみたいだったけど……でも、詠唱なしであれだけの魔法を扱えるなら、

相当な高位魔導士よ。希代の魔導士と呼べるレベルだわ。

そう考えれば、レオン副団長が降参するのも納得できるわね」


ゼノがちらりとアリを見て問いかける。

「……姫も詠唱なしで出せるんだよな?」


アリは少し考えながら、丁寧に答えた。

「うん、できるけど……私は詠唱があるほうが得意なの。

魔法って、頭の中でイメージしたものを“形”にするものでしょ?

詠唱があると、その形がより明確になるわね。

詠唱なしだと、イメージがぶれやすくて、中途半端な魔法になったり、威力が落ちたりすることもあるわ」


少し間を置いて、アリは続けた。

「だから、あれだけ綺麗な魔法を詠唱なしで出せるっていうのは、

創造力がずば抜けているってこと。

さっきの魔法、威力は抑えられてたけど――速さ、精度、形、すべてが完璧だった。

それに、詠唱なしで“威力を抑える”なんて、高度な制御技術がなきゃできないことよ」


「なるほどな〜」

ゼノが感心したようにうなる。


その横でアリは、ふと“希代の魔導士”という言葉を思い返していた。


(そういえば……ルイも、“蒼炎”を扱えるほどの希代の魔導士だったわね)


何となく気になって、アリは上層席のほうへ視線を向けてみる。

けれど、そこにルイの姿はなかった。


さらにその横で、アデルは黙ったまま、じわりと額の汗を拭った。


(あれは……たぶん)


✦ ✦ ✦


そして、四回戦も終わり、いよいよ準決勝を迎えた。


対戦カードが魔導掲示板に浮かび上がった。


 アリア・クラリエル vs 騎士団小隊長セリオス・アルヴェイン

 騎士団団長アデル・セレファイス vs 謎の魔導士


――準決勝 第1試合

アリ・クラリエル vs セリオス・アルヴェイン


審判の合図とともに、アリとセリオスが向かい合う。


赤褐色の髪に快活な笑みを浮かべ、どこかやんちゃな雰囲気を纏いながらも、内には熱くまっすぐな信念を宿す男、セリオス。


セリオスは剣を片手に持ちながら、気さくに笑って言う。


「こうして向かい合うのは、初めてだな。」


アリは構えながら答える。

「戦うからには、手加減はしないわよ!」


「――望むところだ!」


セリオスはすぐさま詠唱を走らせる。


「イグニス・トルクス!」


紅蓮の火輪がアリへと放たれるが――

アリは一閃、大剣に纏わせた風の魔装でそれを打ち砕く。


その瞬間、場の空気が張りつめた。


(やっぱ、レベルが違ぇな!)


セリオスは小さく息をつき、剣をおろす。


「降参だ。俺の負けでいい」


アリが少し驚いたように問いかける。

「えっ!もう終わり?」


セリオスは、どこか清々しく笑った。


「カルディナスとの紛争んとき、アストリアン国境で

あんたが敵の前衛部隊に雷ぶちこんで、一撃で全員沈めたの見てたしな。

あれで分かった――俺とは次元が違うって」


観客がざわめく中、セリオスは片手を上げて審判に降参を示す。


「優勝には興味ねぇ。ただ、どれだけ自分が足りないか知れればそれでいいんだ。

……今日の一撃で、それはもう、十分すぎるほど分かった。

鍛錬しねぇとな! ……またやろうぜ、アリア様?」


アリは静かに彼を見つめ――

「そう。ありがとう。またやろう!」とだけ、柔らかく答えた。


審判が慌てて告げる。


「勝者、アリ・クラリエル!」


そして、アリは決勝に駒を進めた。


✦ ✦ ✦


――準決勝・第2試合

アデル・セレファイス vs 謎の魔導士


審判のコールとともに、両者がフィールドへと進み出る。


静かに対峙する二人。

アデルが魔導士を見据えると、魔導士もわずかに視線を向けた。

フードの奥、薄く笑ったような気がした。


(……まったく)


アデルは一瞬、レオンのように降参するべきか迷った。

だが、それは騎士の矜持が許さなかった。

「相手が誰であろうと、真剣勝負を貫く――それが騎士道!」


……などと、自分に壮大な言い訳をしていたが、本音はこうだった。


(決勝戦が見たい……アリア様と、この“謎の魔導士”の一騎打ちを!!)


そう思った瞬間、魔導士の周囲の空気が変わった。

それは、静かに放たれた――魔力の解放。


闘技場を包む異様な圧――観客の多くはその正体に気づいていなかったが、

敏感な者だけが理解していた。


「すごい魔力ね……」

「姫とちょっと、感じが似てるぜ」

アリとゼノは魔導士の姿を見つめながら、つぶやいた。


アデルも悟った。

(……これは、“本気でこい”ということか)


「わかりました。では、あなたの“本気”――見せていただきます!」


アデルも魔力を解き放つ。

その気配に、観客席からもどよめきが起きる。


「いざ!」


アデルが間合いを詰め、鋭い斬撃を仕掛ける。

魔導士は剣で受け流しながら軽やかにいなしていく。

一撃も返すことなく、一定の距離を保つと、やがて後方へ跳躍――

大魔法の構えだ。


(魔法……誘っているな)


アデルも構える。

「――イグニヴォムス・ドラコ!」


炎の竜が召喚され、咆哮とともに魔導士に突進する。

観客からは感嘆の声が上がる。


だが――


直前、魔導士の前に現れたのは水の竜だった。

炎の竜に噛みつき、熱を飲み込み、姿を消す。


そのままの勢いで水の竜はアデルに襲いかかった。

防御の隙を突かれ、アデルは地面に転がされる。


「……やっぱり、お強いですね」


魔導士が歩み寄り、初めて声を発した。

「炎の竜、まだまだ威力は上がりそうだね」


その声に、観客席のアリとゼノが同時に反応した。


「あっ――ルイ!?」

「まさか、ルイ殿下!?」


ざわつく観客席の中で、正体が明かされ、次第に歓声が広がっていく。


アデルは地面に手をつき、軽く笑った。

「……当然です。今回は降参いたします、ルイ殿下」


審判が手を挙げる。


「勝者、謎の魔導士――ルイ・ヴァルディア!」


観客席からは大歓声が巻き起こった。

「殿下ー!最高ー!」

「これは決勝、楽しみすぎる!!」


ルイはフードを外し、観客に向かって手を上げ、静かに微笑んだ。


✦ ✦ ✦

「まーさーか、あの魔導士がルイ殿下だったとはなー!

姫との決勝、楽しみだな!」

ゼノが楽しげに声をあげる。


ルイとの対決など考えていなかったが、確かに楽しそうだ――

アリはそう感じた。


「そうね。相当強いけど、やる気が出てきたわ!」


「そういえば、古の魔法は使わないのか?」


「使わないわ。あれは今のところ私しか使えないし、

決闘や競技で使うような魔法じゃないのよね。

使ったら、同じ土俵で戦うことにならないから」


「なるほどねぇ」

ゼノはいつもの調子で笑う。


「何はともあれ――ルイは希代の魔導士よ。燃えるわね!」

アリは闘志をたぎらせ、意気込みを見せた。


その様子を見ていた騎士団の面々は、

(これが……アリア様……)

と、ルイの実力を目の当たりにした驚き以上に、

この状況で笑って意気込む彼女に、さらに度肝を抜かれていた。


✦ ✦ ✦

次回、いよいよアリとルイが激突!!

勝負の行方は――!

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

帝国魔導大会、いかがでしょうか?

次回、いよいよ決勝戦!!

アリとルイが華麗な魔法で対決します✨


是非お楽しみに~!

★、いいね、ブックマークもよろしくお願いいたします✨

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