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君に捧ぐ魔法  作者: 秋茶
18/50

第18話 その剣、試させていただきます

アリ着任から数日後。


いよいよ、グランゼルド帝国の名物――

**「帝国魔導大会」**が開催される日がやってきた。


アリたちは、騎士団団長アデルの案内で、王都西側にある帝国闘技場へと向かっていた。


馬車に揺られながら近づくと、闘技場周辺はすでに多くの人々で賑わっており、

華やかな装飾と旗がはためき、祭りのような熱気に包まれている。


「うわぁ……すごい活気ですねぇ!」

ノアが感嘆の声をあげた。


「帝国魔導大会は、グランゼルドを象徴する大会ですから。

数千人の観客が集まります。国内の公式戦はすべて、ここで行われるんですよ」


と、アデルが解説してくれる。


馬車の窓から見えたのは、灰銀色の魔鉱石で構成された、巨大な外壁。

屋根には開閉式の魔法天幕が備わり、建物を支える支柱のひとつひとつには、

魔力制御の魔導具が組み込まれていた。


「一面が魔鉱石、支柱には結界装置……。

かなり堅牢な造りね」

アリも、設備の充実ぶりに目を見張った。


「どれだけ暴れても大丈夫だな、姫!」

と、ゼノが茶化すように笑う。


「……暴れたりなんかしないわよ」

ジト目でゼノをにらむアリ。


アデルは苦笑しつつも、

「ふふ、ご安心ください。万全の結界が張られています」

と穏やかに答えた。


やがて一行は、闘技場の内部へ。


闘技場中央のフィールドには、特殊な魔力制御石が使われていた。

表面には微細な魔法紋が浮かび、魔法の暴走や破壊衝動を吸収・調整する仕組みになっている。


フィールドは広大で、同時に複数の試合が行えるほどの大きさだ。


それを囲むように、観客席が階段状に広がっている。

最上段には、皇族・貴族専用の上層席が設けられ、

その下には石造りの一般席が中層から下層まで続き、数千人規模を収容可能な造りになっていた。


(ルイは最上段で観戦するのかしら)

と上層席のほうを見ていると、アデルが気づき答えてくれた。


「本日、ルイ様は政務があり、途中から来場されるとのことです」


「そうなんですね、ありがとう!」

(そうか…ルイは皇太子だし…さすがに出場しないか)

と少し残念な気持ちでいると、またしてもアデルが答えた。


「ルイ様も出場したい気持ちがあるようなのですが、

立場上、叶わないと、いつも少し残念そうでした」

と教えてくれた。


(この団長殿、人の心が読めるのか!?)

アリはなんでも気づいて答えてくれるアデルにたいして、感心しつつ、内心を読まれて少し恥ずかしくなった。


✦ ✦ ✦


――そして、帝国魔導大会が開幕した。

開会宣言と同時に、大歓声が闘技場を包みこむ。


出場者は全64名。騎士団に加え、一般からも腕に覚えのある魔導士たちが集まった。


アストリアンからの出場は、アリただ一人。

一方、グランゼルド騎士団からはアデル、レオン、セリオスのほか、指南役着任に反対していた小隊長ラグナルとその部下たちももちろん名を連ねている。


観客席で、ユイナがゼノに問いかけた。


「兄さん、参加しないの?」


ゼノは肩をすくめながら、当然といった顔で答えた。


「おう。俺は競争とか、そういうの嫌いなのー」


アリは特に驚かなかった。

ゼノは確かに強い。けれど、誰かにそれを誇るような真似は決してしない。

ふざけた言動が目立つわりに、人目を集めるのを嫌がるところがある。


(……性格と信念が、ちぐはぐなのよね)

そう思っていた矢先、ゼノが軽く笑って言った。


「まっ、姫の華々しい優勝をかっさらうのも悪いしな!」


「へぇ。じゃあ、出場したら私に勝てるってわけ?」

アリも肩を揺らして笑い、挑発を返す。


そんな和やかな空気を裂くように、

「お、お姫様じゃねえか! 嫁入り道具はそろ……っ、あれ? すごい目で見てる? え、ちょっと待って、剣とか出さ――」


言い終わる前に、

バルトの喉元に冷たい剣先が突きつけられていた。


「……は?」

バルトが固まる。


気づけば、アデルの腰の剣が抜かれている。

アデル本人もぽかんとした顔でつぶやいた。


「あ!俺……の剣」


アリはそのまま剣をくるりと回し、すらりと鞘に戻して、にっこりと笑う。


「決勝まで残ってね。じゃないと――つまらないから」


その場にいた全員が固まった。


(笑ってるけど……圧がすごい。)


虚勢を張りながらも、バルトはその笑みに押され、そそくさと引き下がっていった。


いよいよ、試合が始まった。


帝国魔導大会は、トーナメント形式。

一回戦から始まり、四回戦、準決勝、そして決勝戦へと続く。


アリは早々に一回戦から三回戦までを突破した。


対戦相手はいずれも――巷で「モブ」と呼ばれている魔導士や、同じく「モブ」扱いされている騎士団員たちだった。


(……グランゼルドでは“モブ”って言葉が流行ってるのね。

 使い方としては、「あいつモブいな」とか「モブくない?」って感じ?)


などと、流行語に妙に関心を持ちながら、

特に見せ場もなく、戦いは終了。


華麗な魔法を披露する機会すらなく、アリはあっさりと三回戦を終えた。


(四回戦以降は強者が揃ってくるはず。それまで温存できたのはラッキーかも)


そして、騎士団団長のアデル、副団長レオン、小隊長セリオスら――

上位の実力者たちも順調に四回戦へと駒を進めていた。


✦ ✦ ✦


――そのころ、政務を終えたルイは闘技場に到着していた。


到着するなり、ルイは魔導掲示板に目をやる。

アリが三回戦まで突破しているのを確認すると、

当然だと思いながらも、胸の奥が少しだけ高鳴った。


そのまま上層席へ向かう途中――

審判団の詰所の前で、何やら騒がしい様子が耳に入る。


(……揉めてる?)


足を止めて様子を窺うと、すぐに審判たちがルイの姿に気づき、慌てて頭を下げた。


「何かあったのか?」


ルイの問いに、代表格の審判が答える。


「はい。三回戦を突破した選手が、身内からの急報で急遽帰郷することになり、

四回戦を辞退したいと申し出がありまして……」


「対戦相手を不戦勝扱いとするのも可能ですが、

大会の盛り上がりを考えると、やや興を削いでしまうかと……」


確かに、由緒あるこの大会の四回戦が不戦勝になるのは、惜しい。

せっかくの実力勝負、盛り上がりどころなのだから。


(――ならば、代役を立てるしかないか)


ルイは少し考え込んだあと、静かに口を開いた。


「……ひとつ、提案がある」


審判たちは、目を見開いてルイを見つめる。


その内容を聞いた瞬間、場に緊張が走った――。


✦ ✦ ✦


そして、四回戦の対戦カードが魔導掲示板に浮かび上がった。


アリア・クラリエル vs 小隊長ラグナル・ヴォルク

団長アデル・セレファイス vs 小隊長リュカ・ヴェルドール

小隊長セリオス・アルヴェイン vs 小隊長カイル・セリオン

副団長レオン・ユリス vs 謎の魔導士


やはり、上位に残ったのは騎士団の主力が中心だ。

アリと、“謎の魔導士”を除いては。


掲示板を見た観客たちが、ざわざわとざわめき始める。


「謎の魔導士……? 誰それ?」

「っていうか、自分で“謎の”って名乗ってるの?」

「いや、逆に気になるんだけど……強いのか?」


会場の空気に、ほんの少しのざわめきと期待が混じった。


✦ ✦ ✦


――四回戦・第1試合 アリア・クラリエル vs ラグナル・ヴォルク


審判のコールとともに、両者が闘技場のフィールドに姿を現した。


ラグナルは、屈強な体躯にいかつい顔つき。

魔導士というより、格闘家のような雰囲気だ。


その手には、重量感ある剣が握られていた。


アリと視線を交わすやいなや、彼は口を開く。


「俺は、武器を持たねぇ相手とは戦えねぇ。……剣、扱えるか?」


アリは「いいわ」と頷いたものの、手元に剣はない。

普段は持ち歩かないのだ。


キョロキョロと貸出武器を探していると、ラグナルの部下――バルトが、

ニヤニヤしながら台車を押して現れた。


「さぁて、お好きなのをお選びくだせぇ」

と、へらへらしながら言う。


露骨な嫌味だ。

並んだ武器はどれも、大剣、グレートアックス、チェーンメイス、長弓など、一目で重量級とわかるものばかり。


(……あからさますぎる!)


「おや、お気に召しませんで?」

と煽ってくるバルトを無視し、アリはふっと笑った。


問題ない。むしろ――楽しそうに。


「では、その剣、試させていただきます」


そう言って、アリは台上の大剣を選んだ。

片手では到底扱えない、常人には無謀な重さの武器だ。


観客たちのどよめきが走る。


「え? あの子、あんな大剣持てるのか?」

「無理だろ……!」


だが次の瞬間――


アリはその大剣を片手で軽々と振り上げた。


剣が閃いた瞬間、音すら置き去りにされ、

遅れて観客席を突風が駆け抜ける。


「うわああああ!」

「なんだ!? 今の風……!」


吹き上がった風塵が収まったとき、

アリは元の位置に立ち、静かに大剣を構えていた。


「さあ、始めよう!……あ、あなたも一緒にどうぞ?」

と、バルトに目をやる。


「え、えっ……?」


戸惑うバルト。ラグナルは「強がりを……」と呟くが、

額には明らかな冷や汗がにじんでいた。


観客の多くは驚愕していたが、ゼノ、ユイナ、アデルたちは動じない。


「……魔装してっからな」

ゼノがぼそっと呟いた。


【空】属性の上級魔法《魔装》。

対象に魔力を纏わせ、質量や抵抗を軽減する術。


アリは、剣にこの術をかけていたのだ。

その大剣は、アリにとって羽根のように軽い。


やがて、しぶしぶバルトもフィールドに立たされ、剣を構える。

審判が試合開始を告げた。


ラグナルとバルトは、長年の連携を活かして挟み撃ちをしかけてくる。


だが――


右側から飛び込んできたバルトは、アリに接触する前に吹き飛んでいた。


剣ごと弾き飛ばされたバルトは、そのまま観客席近くまで転がされ、失神。


(えっ!? いつ斬られた!?)


会場がどよめく中、ラグナルが詠唱を開始する。


「――フルゴラ・フランマ!」


剣から火の閃光が走る。火線がアリを貫こうと迫るが――


アリはそれを大剣で受け止め、難なくはじき返した。

火は霧散し、空中に赤い塵だけが残る。


(火属性強化タイプね…では!)


アリが静かに魔力を込め、叫ぶ。


「――フランマ・セカーレ!」


大剣が炎をまとい、斬撃と共に灼熱の火線が放たれた。

それは空間を焼き裂くように一直線に走り、ラグナルに直撃。


「ぐっ……!」

ラグナルの身体が焼かれ、膝をつく。


アリが問う。


「……まだやる?」


「くそっ……!」


ラグナルは叫びながら再び突進するが、

その一瞬の隙にアリがふっと距離を詰め――


鳩尾に一蹴。


「ぐはっ……!」


ラグナルの巨体が、空を舞って場外へと叩き落とされた。


呆然とする観客席。


ゼノがさらりと解説する。


「これも魔装。足にもかけてんだ。蹴り飛ばすくらい、わけない」


ラグナルもバルトも意識を失っていることを確認し、審判が手をあげた。


「勝者、アリ・クラリエル!」


どっと湧き上がる歓声。


「すげぇ……!」

「あの子、ただもんじゃねぇ!」

「これは優勝あるぞ~~!!」


アリは静かに剣を下ろし、場外に倒れたラグナルを見つめた。

その瞳に、蔑みも、憐れみもない。

ただ――同じ剣を握る者への、静かな敬意だけが宿っていた。


✦ ✦ ✦


第2試合は、団長アデルが圧倒的な実力を見せつけて勝利。

第3試合も、小隊長セリオスが余裕の展開で制した。


そして迎える第4試合――

対戦相手は、突如現れた“謎の魔導士”。

副団長レオンとの一戦が、思わぬ波乱を巻き起こすことになる――!


✦ ✦ ✦

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