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君に捧ぐ魔法  作者: 秋茶
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第17話 静かなる闘志

――グランゼルド王宮 大広間


アリとルイが挨拶を交わした後、ロイ皇帝への謁見が、大広間で執り行われることとなった。


アリにとっては初の対面となる場でもあり、

重臣や傍系の皇族たち、さらに騎士団から小隊長らを含め、各隊から数名の騎士が招集されていた。


ロイは病を押して、玉座に座っていた。

その姿からは、体調の厳しさが一目で見て取れたが、それでもアリを笑顔で迎えてくれた。


その声音は衰えることなく、大広間にしっかりと響く。


「アリア殿下。よく来てくれた。どうか……我が国に、力を貸してほしい」


そして、正式に“騎士団の指南役”として任命を下す。


事前に重臣たちや皇族の了承を得たうえで、アストリアンに打診された任ではあった。

だが、それをあえてこの場で口にしたのには明確な意図があった。


――これは、皇帝陛下の“下命”である。

誰一人として、その決定を覆すことは許されない。

そして同時に、それはアリとルイに対する“盾”でもあった。


他国の皇族を軍の指南役に迎えるなど、通常なら猛反発を受けるはずだ。

だが、今の帝国にとってアリの実力と知見は必要であり、他に有力な選択肢もなかった。

「意義があるなら、皇帝自身が受けて立つ」――ロイの決意の現れだった。


彼は、自らの命が尽きる前に、ルイを支える騎士団を再建しておきたかったのだ。


その想いを、アリもルイも、よく理解していた。


アリは片膝をつき、深く頭を下げる。


「ロイ陛下。謹んで、お受けいたします」


謁見はこのまま滞りなく終わる――そう思われた、しかし。


その場で声を上げた者がいた。


「陛下……我らは、この件に賛成しておりませんぞ」


口を開いたのは、傍系の皇族のひとりだった。


「その方がアストリアンの前皇帝であられたことは承知しておりますが……

それでも、軍を任せるには不安がございます」


それをきっかけに、重臣の中にも、騎士団の中にも、不満を抱えていた者たちが次々と声を上げる。


「他国の者に、我が帝国の騎士団を育成させるなど、前例がありません」


「女子に、何ができるというのです」


「実力はいかほどなのです? 育成など、本当にできるのですか?」


そう口にしたのは、古参の騎士団小隊長・ラグナルだった。

さらにその部下のバルトも便乗するように、軽薄に笑いながら叫んだ。


「そうだそうだ! お姫様は、剣より嫁入り道具のほうが似合うぞ!」


(どこにでもいるわね、こういう手合いは……)


アリは内心でため息をつきつつも、想定していた展開ではあった。


他国の者に軍を任せるなど、受け入れがたいのは当然だ。

ロイやルイ、そして彼らの承認を得た重臣たちは、アリの実績と将来性を見込んで決断した。

だが、それが現場にとって即座に納得できるものかといえば、そうではない。


アリは一つ息をつき、静かに立ち上がって応じた。


「皆さまのご懸念は、ごもっともです。

ですが、私も陛下よりこの任を賜った身。

何もせずに身を引くわけには参りません」


会場が静まり返る中、アリは続けた。


「であれば――私を評価する機会を、設けていただけませんか?

先ほど、騎士団の方からも“実力”という言葉がございました。

そうですねぇ……腕試しなど、いかがでしょうか」


にこりと笑ってそう言ったアリの目に、微かに怒りの色を見た者もいた。


(あれ、ちょっと怒ってない……?)

(……絶対、さっきの“お嫁に行け”でスイッチ入ったよな)


そして、ロイが重い口を開いた。


「うむ……重臣や皇族らには、後ほど私から改めて説明をしよう。

騎士団の者たちには、望むのであれば――腕試しをしてもらえばよい。

ちょうど、近く“帝国魔導大会”が開かれる。

アリア殿下も、それに参加するとよいだろう」


王宮に、静かなざわめきが広がっていった――。


✦ ✦ ✦


――グランゼルド王宮 謁見後 別室


アリとルイが退席した後、重臣や皇族たちは再びロイ皇帝の前に集められていた。

空気は張り詰めたまま。

ロイは玉座にありながら、その表情には威厳と、どこか静かな怒気すら感じさせる。


「……騎士団の改革は、我が命の残された時間のうちに、必ず成し遂げねばならぬことだ」


誰も言葉を発さない。

ロイはゆっくりと視線を巡らせながら、続けた。


「お前たちも知っていよう。騎士団内の不和、緩み、派閥――

今のままでは、皇太子ルイを支えるどころか、足を引っ張る有様だ」


一部の重臣たちは目を伏せる。反論できる者はいない。


「アリア殿下は、他国の者である。だが、それゆえに派閥に属さず、利害にも染まらぬ。

そして、皇帝として国を背負い、平和へと導いた実績と、魔導戦の知見を持つ希有な存在だ」


静寂の中、ロイの声だけが厳かに響く。


「これは、我が一存で決めたことではない。

諸君の中にも、事前に意見を求め、同意を得た者がいたはずだ」


ざわ…と微かなざわめきが走る。


そのとき、シリウスが一歩前に出た。


「父上。……私は、決して命令に背くつもりはありません。

ただ、こうなることは予想できた――

だからこそ、“反発を招く”と、進言したのです」


その声音は冷静で丁寧。

けれど、そこに込められた皮肉をロイは見逃さなかった。


「……予想できたのならば、なぜ真に対処する術を講じようとはしなかった?」


ロイの言葉に、シリウスは少しだけ目を細める。

沈黙ののち、伏し目がちに答えた。


「私は、皇太子のことを思って申し上げただけです」


「――本当にそうか?」


静かに、けれど鋭く。

ロイはその問いを、部屋にいる全員に向けるように言い放った。


「我が身の病が深まる中で、国を託す者の足元を崩すことは、裏切りに等しい。

たとえそれが、誰であろうとだ」


部屋の空気が、さらに重くなる。


「アリア殿下の任は、今後一切、口を出すな。

彼女に任せたことは、私の意思であり、国家の方針である」


そう言い切ったロイの声音は、どこまでも冷静で、どこまでも強かった。


その場に広がる沈黙の中――ルイとシリウスの叔父、ザカリア・ヴァルディアがふとシリウスを見やる。

応じるように、シリウスもまた、わずかに目を細めた。


誰にも気づかれぬ、だが確かに流れた“空気”があった。


✦ ✦ ✦


石造りの廊下の奥。

灯りの届かぬその一角で、ふたりの影が交差した。


シリウスは、壁に軽く背を預けながら、いつもの穏やかな笑みを浮かべる。


「……どうだった? あのお姫さまの印象は」


その声はあくまで穏やかで、さして興味もないような口ぶりだった。

だが、ほんのわずかにこもった熱が、耳に引っかかる。


声をかけられた男――若い騎士は、口の端を持ち上げると、あえて軽く返した。


「さぁ? 言葉は、控えときますよ」


その目に、一瞬だけ鋭さが宿ったのを、シリウスは見逃さなかった。


「……そうか」


静かに笑ったまま、シリウスは歩き出す。


「まぁしばらくは、君の思うように動けばいいよ」


その背中が、廊下の闇に溶けていくまで、

男はただ黙って、その場に立ち尽くしていた。


✦ ✦ ✦


――グランゼルド王宮・応接室


ロイ皇帝への謁見を終え、アリ一行はルイ、アデル、レオンと共に落ち着いた雰囲気の一室にいた。

しばし談笑を交えつつ、場には穏やかな空気が流れている。


「いや~、それにしてもさっきの騎士団員の“嫁に行けー!”は、なかなか笑えたな」

と、不謹慎なことを言い出したのは、いつもの調子のゼノだった。


「そうですね~。アリア様、ちょっと青筋立ってましたよね」

続けて軽口を叩いたのは、ノア。


「あなたたち……!」

とたしなめたのは、呆れ顔のユイナ。


そんなやりとりを聞きながら、アリは笑っていた。


「反対されるのは、当然だと思ってたけど……

『嫁入り道具のほうが似合う』だなんて、うまいこと言うわよね。

……ちょっと想像しちゃったのよ、私が花嫁衣装着る姿」


その言葉に、皆が(そこ!?)と内心で突っ込む。


横にいたルイが、くすっと笑い声を漏らした。


「ルイ? 私、変なこと言った?」


「いや……すまない。ちょっと、微笑ましくてね。

それに……アリ、大丈夫。君は、剣でも王冠でも、きっと嫁入り道具でも似合うよ」


(フォロー……なの、それ?)

誰も口には出さなかったが、思わず全員が同じツッコミを胸の中で唱えていた。


そして、アデルとレオンがそっと顔を見合わせた。

ふたりとも、思わず目を見開いていた。


普段のルイは穏やかではあるが、あくまで公人としての距離感を崩さない。

そんな彼が、心から楽しそうに笑う姿は――彼らにとって初めての光景だった。


それを見たアデルは、ふっと目を細め、温かな感情が胸に広がるのを感じた。

そして、思い出したようにアリへと話を振る。


「アリア殿下。先ほど陛下がおっしゃっていた“帝国魔導大会”の件ですが……

ご参加なさいますか? 腕試しであれば、別の機会でも構いません」


赴任して間もない彼女に対して、無理をさせたくない――

アデルの言葉には、そんな配慮がにじんでいた。


アデルは大会の概要も丁寧に説明してくれた。


帝国魔導大会とは、グランゼルドの名物ともいえる恒例の競技会である。

魔導士たちがその技を競い合い、騎士団員に限らず誰でも参加可能。

とはいえ、毎年の上位は騎士団員がほとんどを占めていた。


ルールはシンプル。勝ち抜き形式で、相手を戦闘不能または降参させれば勝ちとなる。

そして、優勝賞品は――"グランゼルド帝国特産鉱石の詰め合わせ"。


それを聞いた瞬間、アリの目がきらりと光る。


「団長殿、参加させてください! ぜひ!」


即答であった。


(これは、反対派の団員たちを黙らせるチャンスだもの……

それに、鉱石の詰め合わせ……!魅力的すぎる!魔導具の素材集めが一気に捗る……!)


そう内心で闘志を燃やしながら、アリは笑みを浮かべていた。

表面は冷静に、けれどその瞳にはしっかりと“火”が宿っていた。


「アリア殿下、承知いたしました。

それでは、正式に参加登録いたします」


――こうして、アリは帝国魔導大会への出場を決めた。


✦ ✦ ✦

いつもお読みいただき、ありがとうございます✨


次回はグランゼルド帝国名物、帝国魔導大会です!!

アリや騎士団の面々が華麗な魔法で騎士団と対決します!!

(まさかのあの人も参戦...?!!)


じわじわとPVが伸びてきて、大変うれしいです♬

もしよければ、感想やいいね、★押して頂けたら励みになります。

では、引き続きよろしくお願いいたします。


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